芸術的なセンスが香るクルマを紹介
クルマのデザインは、じつは責任重大だ。いうまでもなく街の景観の一部としての役目も背負っているからだ。筆者は都市空間デザインの専門家ではないからちゃんとした言い方はできないが、スカイツリーや高層ビルの最上階や、着陸体勢に入った飛行機の窓から俯瞰で眺める夜景であれば、東京の街は全体として美しくも見える。
けれど、昼間、ひとつひとつのビルの形や色が露(あらわ)になる状態で、もう少し街との距離を縮めて眺めるか、あるいは街のなかに立って見上げるようにあたりを見渡すと、何て雑多でノイジーな景色なのだろう……と思わせられる街並みは東京にも少なくない。
その景観の要素のひとつとして、クルマも重要な責任を担っている。クルマは外を走らせる道具でもある以上、人の目にも晒される。つまり街の風景と一体となって人の目に入るものだ。そうしたとき、どのクルマとは名指しはしないまでも、街の風景のノイズと化してしまっているような残念なクルマもある。
その一方で、見た瞬間にはハッとさせられ、さらに引き込まれるように眺めてしまうクルマもある。それが“アートな領域”と言えるクルマたちだ。ここで言う“アートな”とは、工業製品的なカッコよさのさらに上をいく、文字通り芸術的なセンスが香る……そんな意味に捉えていただければよろしいかと。当然、個人の感性、基準、捉え方次第ではあるので、そのあたりもご承知おきいただきたい。
いすゞ・ピアッツァ
ではどんなクルマが浮上するか? というと、やはり真っ先に挙げたいのがいすゞ・ピアッツァ(1980年)。最初のモデルはドアミラーが認可される前、フェンダーミラーを装着しての登場ではあった。だが、G・ジウジアーロのショーモデル“アッソ・ディ・フィオーリ”のイメージで、フラッシュサーフェスボディもそのままに量産化された実車は、やはりほかの量産車にはない雰囲気を醸し出していた。
“走る芸術品”とはピアッツァの先代の117クーペのカタログでも使われたコピーだったが、2代続けてのアート作品とは、なかなか稀な例といえる。
日産シルビア(S13)
ほかに思い浮かぶアートなクルマとしては、意外といっては失礼ながら、日産車に多い。シルビア(S13型・1988年)、プリメーラ(P12型・2001年)、フェアレディZ(Z33型・2002年)、スカイラインクーペ(CPV35型・2003年)などがそう。ほかに最終型セドリック/グロリア(Y34型・1999年)を入れてもいいかもしれない。
少し年代が離れていたシルビアは“作風”はやや違えど、自ら“ART FORCE”とコピーを打っていたほど。絵画でいえば印象派といったところか。全国のシルビアが、あのCMのように砂浜の波打ち際を美しく走っていてほしい……と思えたほどだった。
プリメーラ(P12)
3代目プリメーラは、どう見ても(昔風に言うと)バタくさいとても日本車とはかけ離れた空気を漂わせていた。モダンなインテリとともに、これほどデザインコンシャスでいいのだろうかと思えるほどのクルマだ。相通じるニオイのあったセドリック/グロリアも、日本車とは思えないクールなボディパネルの面質が印象的だった。
フェアレディZ(Z33)/スカイラインクーペ(CPV35)
同様にフェアレディZ、スカイラインクーペの2車も、金属のカタマリから削り出したような重量感のある佇まいは、多くの日本車とは手法が異なり、見るべきものがあった。
日産ジューク
日産車で少し毛色が違うところで、ジューク(2010年)も入れておきたい。アートといってもやや前衛芸術的なジャンルに踏み込んだスタイルだったが、量産車でよくここまで! といった際どいディテールを推してきた意欲作だったと思う。