乗り心地や運動性能を左右する
サスペンションの話題でよく耳にする『減衰力』なる用語。路面からの衝撃などを吸収することで、発生したスプリングの振動を素早く収束させる力を指し、多くの社外ダンパーには調整機能が付いている。
スタンダードな車高調を例に説明するとスプリングは車高を含む足まわりのストローク量、ダンパーは減衰力で足まわりのストローク速度を制御とそれぞれ役割が異なっているのだ。今回はスプリングの硬さや車高とあえて切り離し、ダンパーに絞ったセッティングのセオリーや、調整する際に気を付ける点などを考えたい。
メーカー推奨値をまずは基本に
まず大前提として「最初はメーカー推奨値で乗る」こと。街乗りメインだろうと走り重視だろうと大半の車高調には、メーカーが定めたオススメのセッティングが存在している。モチロン走り方や好みはドライバーにより千差万別なので、メーカー推奨値が満点にならないケースも少なくないが、調整のスタート地点として最適であることは間違いない。速度が極端に出ない市街地から高速道路、ワインディングやギャップの多い路面まで、できるだけ多くのシチュエーションで試そう。
そこで不満があれば減衰力を変えてみる。まずは乗り心地が悪いと感じた場合は、推奨値より柔らかくするのがセオリーだ。なお「減衰力が柔らかい」は「スプリングの振動がゆっくり収束する」と同義で、反対に「減衰力が硬い」のは「スプリングの振動が素早く収束する」こと。つまり減衰力が柔らかいほどスプリングは緩やかに動きを落ち着かせ、結果としてドライバーは「乗り心地がいい」と感じることになる。
ただし現実にはスプリングレートとの兼ね合いもあり、減衰力だけで乗り心地をよくするには限界があるし、快適な乗り心地という基準もドライバーによりけりだ。減衰力をもっともソフト側に振っても乗り心地が改善されるとは限らず、逆にスプリングの硬さだけが目立ち不快な乗り味になってしまうかもしれない。そんな場合はお金と手間がかかるスプリングではなく、タイヤの空気圧を変えてみるのもひとつの方法だ。
走り重視ならどこを重視するかで変わってくる
次はワインディングやサーキットなど、乗り心地よりも走りを重視するステージ。サーキット用と謳っているような製品であれば、同じくメーカー推奨値でしばらく走り込もう。走り方や装着しているタイヤのグリップにボディ補強の違い、路面コンディションといった要因で方向性は大きく変わるので、あくまで一般論にはなるもののセオリーをいくつか紹介したい。
ひとつはコーナーの立ち上がりでもっとトラクションが欲しいとき。FFなら前輪に荷重をかけたいのでリヤの減衰力を硬め、FRならリヤの減衰力を柔らかくし後輪に荷重をかける。
もうひとつはブレーキング時にフロントがロックしやすいとき。パッドの材質がミスマッチだったり初期制動が強すぎる可能性を排除すれば、フロントの減衰力を少し硬くしてスプリングの動きを早く収束させてみよう。ただしFFはフロントの減衰力が高すぎるとトラクション抜けに繋がるため、立ち上がりやスタート時とのバランスを考えて調整しなければならない。
サーキットなら「そのコースでもっともタイムに影響するポイント」を探すのも大切だ。ひとつのコーナーで0.1秒を速く走れるようにセッティングして、別のコーナーが0.5秒も遅くなってしまうのは本末転倒もいいところ。上で書いたが足まわりの性能は減衰力だけじゃ決まらず、車高にスプリングレートにタイヤの銘柄や空気圧、ボディ剛性やアライメントなど非常に多くの要素が絡んでくる。ダンパーの減衰力はそれらのひとつでしかなく、ドライバーの好みもあり正解はひとつじゃない。
足まわりを得意とするプロショップでもセッティングを出すには結構な手間がかかり、われわれのようなプライベーターであればトライ・アンド・エラーはさらに多くなるはずだ。失敗もまたノウハウのひとつと前向きに捉え、過程を楽しみつつセットアップを進めよう。最後にコツをひとつ。最近のダンパーは減衰力の調整幅が非常に細かく、ビギナーは変化を掴むのが難しい可能性もある。最初に1~2段で調整しても差を感じなければ、思い切って5段や7段くらい大きく変えてみて、やりすぎたと感じたなら1~2段ずつ戻してみよう。