オリジナルを尊重しながら現代技術を投入
かつてはF1GPにエンジンを供給していたり、またル・マン24時間にプロトタイプで参戦し、優勝を飾ったこともあるBMWですが、やはりその真骨頂はツーリングカーでの活躍です。とくに1970年代のETCで活躍した3.0CSLや、その後継の635CSiは最も美しいレーシングカーと、速さや強さだけでなく、そのスタイリングの素晴らしさでも多くのファンを魅了していました。2015年には、その3.0CSLに敬意を馳せたコンセプトモデルの3.0CSL Hommageが製作されています。今回は、このコンセプトモデルを別の角度から振り返ってみました。
世界一美しいクルマが誕生した経緯は
第一次世界大戦の終戦後にエンジンメーカーとして成立されたBMWは、2輪車の生産を始めるとすぐに4輪にも進出しています。そして第二次世界大戦の開戦が近づいていた1937年には、当時の2Lクラスとしては最速の実力を持った328をリリースしています。
1971ccの直列6気筒エンジンは、OHVながらプッシュロッドとロッカーアームの位置を工夫してバルブ配置をクロスフローとしたアルミ製のヘッドが装着されていて、80HPと当時としては驚くべき最高出力を引き出していました。
このエンジンを搭載するシャシーは、同クラスのセダン「326」ではなく、ひとクラス下のセダン「319」のシャシーが転用されていました。スポーツカーは軽量・コンパクトに、というコンセプトは、当時から開発スタッフの頭にあったようです。
ナチス軍のポーランド侵攻によって第二次世界大戦が始まった段階でもBMWの高性能、そして高品質なクルマづくりは継続されていて、1939年には3.5L直6エンジンを搭載した335をリリースしています。こうしたことからも高性能車、そして高品質なクルマに対する想いはBMWのDNAとして息づいていたのかもしれません。
それが敗戦後、自らもソ連によって統治され、のちに東ドイツとして分割されることになるエリアに合ったアイゼナハ工場を失うという大きな痛手を負いながらも、501/502と呼ばれる上級モデルを生産することになったのですから。
もちろん、敗戦国となった西ドイツには、こうした“高級車”のマーケットはごくわずかしか残っていませんでしたから、販売的には苦戦が続くことになりました。そのBMWを救ったのがイタリアのイソからライセンス供与されて生産したバブルカーのBMWイセッタと、そこからBMWの技術を注ぎ込んで完成させた“普通のクルマ”、BMW700でした。イセッタで糊口を凌いでいたBMWは、700でまさに復活のきっかけをつかむのです。
700で復活にきっかけをつかんだBMWは次なるヒット商品、ノイエ・クラッセ(Neue Klasse 。独語で新しいクラスの意)と呼ばれる一連のモデルで躍進を遂げることになりました。クリーンなデザインの4ドアボディに、さまざまな新機軸/新技術を盛り込んだ、言ってみればもっともBMWらしいクルマでした。
最初に登場した1500は2Lクラスまで発展すると同時に、2ドアモデルの02シリーズ(排気量を表す4桁の数字に末尾が2ドアを表していたことから、この愛称で呼ばれるようになりました)やカブリオレ、そして3ドアハッチバックまでもが登場したあとで、さらなる上級モデル、6気筒エンジンを搭載した2500/2800が登場し、そのクーペモデルとして2800CSが誕生しています。
そして71年には3L直6エンジンを搭載したクーペモデル、3.0CSが登場。この3.0CSのレース向けのホットモデルが1971年の5月に登場した、今回の“一方の”主役、3.0CSLです。
軽量化とパワーアップ! 美しいクルマは速くて美しいレーシングカーに
3.0CSLという車名ですが、3.0は当然エンジン排気量3.0Lを示しています。2500や2800でも使用されていたCとSは、それぞれクーペ(Coupé)とシュポルト(Sport)を意味していますが、最後のLはLeicht(ライヒ。独語で軽量の意)を示していました。そう、高性能を生み出すための公式ともなっている軽量を意味するネーミングだったのです。
具体的にはボンネットやドア、トランクリッドをオリジナルのスチール製からアルミ製にのパーツに交換し、フロント&リアのウインドウを薄厚のラミネートガラスに交換。そしてルーフなどボディの一部も薄い鉄板でプレス成形し、防音材やカーペットも取り去られていました。
さらにはボンネットを固定するボンネットキャッチャーが取り外されて、ボンネットピンに置き換えられるほどの徹底ぶりでした。その結果1400kgもあった車両重量は200kgもシェイプアップが進み、このクラスとしては驚くべき軽量なクルマに仕上がっています。また、スチール製だったフロントバンパーをチンスポイラーを兼ねたバンパーカウルに交換し(軽量化でも効果あり)、ボンネットには整流を目的としたフィンを立て、リヤのトランク上には大袈裟なウイングを装着(これはレースオプションでしたが……)するなど、空力に配慮されていたのも大きな特徴でした。
もちろんエンジンも強力で排気量も3Lを超えるエボリューションモデルを投入。オリジナルの2985ccではクラス上限(3000cc)を超えての排気量拡大はレギュレーション違反となりますが、最終モデルの3153cc(89.3mmφ×84.0mm)なら3500ccまで排気量を拡大できる(ただしクランクの変更はNGなのでストロークは延長できない)のです。結果的に最終的な市販モデルで206HPとされていましたが、そのパフォーマンスは73年のヨーロッパ・ツーリングカー選手権(ETC)で見事開花。チャンピオンに輝きました。
今回の“もう一方の”主役は2016年に製作された3.0CSL Hommageです。これはその名の通り、1970年代のBMW 3.0CSLをオマージュして製作されたコンセプトモデル。オリジナルではスチール製のパーツをアルミ製に交換していましたが、こちらはカーボンを素材としたパーツに置き換えることで軽量化を追求。
またカーボン製のロールケージや、直6エンジンにハイブリッドシステム「e Boost」を組み合わせたパワートレーンにも興味深いものがありました。さらにAR(Augmented Reality=拡張現実)ディスプレイ・ヘルメットバイザーなど年寄ライターにとっては現実からかけ離れた装備も紹介されていましたが、何よりも今回、特筆したいのはそのルックスで、誰言うともなく「まるでカーズに登場するキャラクターみたい!」と盛り上がったようです。
確かにこれは言い得て妙。キャラクターチックなデザインではありますね。ただし、当時の技術解析で、との条件は付くのですが、オリジナルが空力に配慮したデザインだったのに対して3.0CSL Hommageのデザインは、まずはデザインありき、のように思えてなりません。
フロントのオーバーフェンダーがボンネット上まで回り込むデザインも、ボンネット上に無用な凸凹を生じさせているのはその好例と言っていいでしょう。そう言えば正面から見ると、アメリカのカートゥーン・ドッグ、ドルーピー、いや……獰猛な犬に見えなくもないような……。