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ただの金持ちじゃ手に入らない! フェラーリが顧客を選ぶ究極のプログラムが存在した

「FXX」から始まったフェラーリの専用プログラム

車両&メンテ代だけで約2億円、追加エアロでさらにウン千万円

 サーキット走行専用車の価格と、各種メンテナンス代で2億円(推定)。新しいエアロパーツが追加されると、さらに3500~4000万円ぐらい(これまた推定)支払うと聞いて、皆さんはどんなクルマやプログラムをイメージするだろう?

 じつはコレ、フェラーリがトップ顧客向けに2005年から展開していた「XXプログラム」を楽しむために必要なコストである。推定金額は筆者が取材していた初期のころのものなので、後年は、もっと高価だったはずだ。

「フェラーリがお客を選ぶ」究極の限定車

「XXプログラム」とは、フェラーリのレース部門である「コルセ・クリエンティ」によるサーキット走行専用車開発計画のこと。その目的は、フェラーリの顧客を代表する超富裕層のオーナーがクローズド・コースをドライブすることで得られたデータを、将来の市販モデル開発時に役立てることだった。レースを楽しむのではなく、ドライビングレッスンのようなカリキュラムだった点がポイントで、購入したサーキット走行専用車でレースに参加することは不可とされた。

 2億5000万円ぐらいをポーンと払える超富裕層のオーナーがサーキット走行専用車を購入するわけだが、お金があれば誰でもゲットできるわけではなく、フェラーリ側が選んだ一部のオーナーのみが、データ採取目的の贅沢すぎるクルマを買うこと&XXプログラムに参加することを許された。

フェラーリ・ファミリーの一員として超VIP待遇

 しかも、購入したサーキット走行専用車の保管やメンテナンスをコルセ・クリエンティが引き受けてくれるので愛機は手元にない。超富裕層のオーナーが走らせたい日時とサーキットを連絡すると、コルセ・クリエンティのスタッフとマシン、そして、必要な機材一式がイタリアから届き、存分に走れるというシステムだったので、「そうだ、明日、走りたいな……」と思っても無理なのであった。

 とはいえ、ヘルメットとレーシングスーツとグローブとシューズだけを持って、ヘリコプターなどでサーキットに行けば、気が済むまで走ることができる。「疲れたから、そろそろ帰るかな?」と思ったらコルセ・クリエンティのスタッフが後片づけまで担当し、何もすることなく愛機をそのままにしてふたたびヘリコプターに搭乗すればOKだったので、必要となるコストは莫大だが、その気軽さは画期的なのであった。

 そして、フェラーリ・ファミリーの一員としてテストドライバーのような気分を味わうことができたので、2億5000万円ぐらいの価値は十分あったということだろう。

 サーキットにはテレメトリーシステムが持ち込まれ、サーキット走行専用車の状態をリアルタイムでチェック。超富裕層のオーナーは走行後にインストラクターから正しいラインどりなどのレクチャーを受け、ドライビングテクニックを磨くことができた。

フェラーリFXX(2005年)

 XXプログラムのサーキット走行専用車として一番最初に登場したのは、2002年に発表された「エンツォフェラーリ」にインスパイアされた「FXX」だ。エンツォフェラーリはF1における経験が存分に活かされたモデルで、その開発時には「FX」の開発コードが与えられていた。FXXという車名は、これに由来している。

 FXXには、最高出力800ps以上を発生する排気量6262ccのV型12気筒エンジンが搭載されていた。また、入念に造り込まれたエアロパッケージにより、FXXのダウンフォースはエンツォフェラーリのレベルを40%も上まわるものだった。

 ひとりひとりのクライアント・テストドライバー(=超富裕層のオーナー)に合わせ、コックピットがカスタマイズされていた点も特徴のひとつで、FXXのデリバリー台数は計29台であった。

 2006年に左右のドアに「30」と記されたオールブラックのFXXが30台目として生産されたが、これはF1のトルコGPから戻ったスクーデリア・フェラーリ・チームのミハエル・シューマッハに贈呈されたクルマ。同年の9月初旬にシューマッハも、ニュルブルクリンクに集まったクライアント・テストドライバーのチームに加わったそうだ。

「Evo」キットの開発においてもシューマッハの提案が採用されることになり、XXプログラムは2008年と2009年のシーズンまで延長された。FXXは、XXプログラムで誕生した初代モデルとして、コルセ・クリエンティが企画するイベントに姿を見せ、その後も世界有数のサーキットで雄姿を披露した。

フェラーリ599XX(2009年)

 FXXの次にラインアップされたXXプログラムのサーキット走行専用車は「599XX」だ。「599GTBフィオラノ」をベースとして、2009年のジュネーブ・ショーで発表された。599XXプログラムがスタートしたのは2010年からである。

 2011年のボローニャ・モーターショーで進化版の「599XX Evo」が一般公開され、翌年、鈴鹿サーキットで開催された「フェラーリ・レーシング・デイズ 鈴鹿2012」において世界初の公開走行が行われた。599XX Evoは空力や排気系などを中心にモディファイされ、電動可変式リヤウイングなどのエアロデバイスが装着されていた(この金額が推定3500~4000万円である!)。

 搭載されたエンジンは599GTBフィオラノ用をベースとした排気量5999ccのV型12気筒で、オリジナルが620psであったのに対し、700psへとパワーアップ。車体はベース車両の1750kgから1350kgへと大幅に軽量化されていた。

フェラーリFXX K(2014年)

 最後に登場したのは、「ラ・フェラーリ」をベースに製作された「FXX K」と、空力をアップデートした「FXX K Evo」だ。FXX Kが発表されたのは2014年、FXX K Evoは2017年に登場し、パッケージオプション&一部モデルは完成車としてデリバリーされた。車名の「K」は「KERS」システム(ブレーキング時に発生する熱エネルギーを回収し、加速時のホイール駆動に再利用する装置のこと)に由来し、排気量6262ccのV型12気筒エンジンとモーターアシストを合わせた総出力はラ・フェラーリを100psほど上まわる1050psだった。

「F40」や「F50」といったスペチアーレ・フェラーリを何台も所有している超富裕層の日本人オーナーは、フェラーリに招待されたら飛行機をチャーターし、スペインまで走りに行って、フェルナンド・アロンソにレッスンしてもらっていたが、エクスクルーシブなXXプログラムとはそういうものなのであった。

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