輸入車唯一の2モーターフルハイブリッドという個性
今や輸入車の世界においてもトレンドはSUV。そんななか、じつに魅力的な、比較的コンパクトなサイズ、価格の「ダイナミック」クーペSUVが登場した。それが「ルノー・アルカナ」だ。クーペSUVというと高級車の価格ゾーンに入るドイツ車がメインとなっているが、最初に言っておくとアルカナの価格は「R.S. LINE E-TECH HYBRID」という最上級グレード、それも現時点で輸入車唯一の2モーターによるフルハイブリッドで429万円である。メルセデス・ベンツのエントリーSUVである「GLA」が、1.3Lターボのベースモデル「180」で521万円~なのだから、フルハイブリッドでその価格はかなりのバーゲンプライスと言っていいはずだ。
F1由来のドグクラッチATをサブモーターで制御
そんなルノー・アルカナのプラットフォームはルノー・日産・三菱のアライアンスによって開発された「CMF-B」プラットフォームだ。どこかで聞いたことがある……そう、「日産ノート」、「ノートオーラ」にも使われているものだが、その多様性からCセグまで対応するとされている。実際、流麗なクーペシルエット×SUVらしい下半身の力強さあるボディは全長4570×全幅1820×全高1580mmと、低めながら堂々感ある佇まいが印象的だ。
駆動方式はFFのみだが、最低地上高は200mmを確保。そしてパワーユニットも興味深い。1.6Lエンジン+2モーターの独自のフルハイブリッドシステム「E-TECH HYBRID」を用いるとともに、ルノーF1で採用される電子制御マルチモードATには「ドグクラッチ」を組み合わせる。これは一般的なクラッチやシンクロを省き、軽量コンパクト化を図るとともに、エンジン側に4速、モーター側に2速のギヤが組み込まれた12通りの組み合わせを持つもので、メカニカルロスの少ない切れ目のない変速、変速ショックのなさを実現。アルカナとしてフルハイブリッドとともに、F1由来の大きな特徴となっている。
結果、エンジン94ps/148N・m、メインモーター49ps/205N・m、サブモーター20ps/50N・mからシステム出力143psを発揮。車重にしても1.3Lターボモデル比で約110kgの軽量化が図られた結果、WLTCモードで22.8km/Lという好燃費性能を可能にしているのだ。
ハイブリッドシステムについては、約40km/h以下までをモーター走行(バッテリーの充電状態にもよる)、約40~80km/hまでがモーター+エンジンのいわゆるハイブリッド走行、そしてエンジン走行の効率が高まる約80km/h以上からはエンジン走行となる。
上質かつスポーティなインテリア
スタイリッシュなエクステリアデザインもさることながら、アルカナはインテリアも素晴らしい。ルノー・スポール由来の「R.S. LINE」デザインだけに、カーボン調パネル、レッドラインが特徴的なインパネとドアトリム、レザーステアリング&レザー×スウェード調コンビスポーツシートが上質かつスポーティな雰囲気を醸し出す空間が演出されている。「VW T-ROC」の樹脂感ムキ出し、コストダウン全開の室内空間とは大違いである。メーターは10.2インチのフルデジタルメーター、センターにあるモニターは7インチのタッチスクリーンタイプだ。ただし、ナビ機能は持たず、スマホのナビアプリを利用することになる。
室内空間もクーペSUVにして十分な広さがある。身長172cmの筆者のドライビングポジションを基準にすれば、前席頭上に160mm、後席頭上に110mm、膝周りに160mmという、このクラスとしては不足なし。後席は決して広々とは言えないものの、フロアからシート座面までの高さ=ヒール段差が350mmと高めで、自然な姿勢で着座できるところが嬉しい。エアコン吹き出し口のある後席のフロア中央の凸も低めだから、3人掛けもそうキツくはないはずだ。USBソケットは前後席に各2個ずつある。
容量たっぷりのラゲッジは車中泊も可能
アルカナはクーペスタイルとは言ってもSUVだから、アウトドアの用途にも向いている。そこで気になるラゲッジルームだが、容量は480L(GLA 425L、T-ROC 445L)とたっぷりで、開口部地上高765mm(段差なし/フロアボード上段)、フロア奥行き980mm(GLA 800mm、T-ROC 810mm)、フロア幅1000mm(GLA 1040mm、T-ROC 1050mm)、最大天井高740mm(フロアボード下位置)となっている。フロアボードを上段にセットすれば深さ約120mmの床下収納をつくることも可能だ。
そしてフロアボード上段で後席を倒せば、段差のない拡大ラゲッジフロアが出現。その奥行きは1600mm(T-ROC 1410mm)もあり、ヘッドレストを逆付けして枕代わりにすれば、身長175cm程度の人なら真っすぐに横になることもできそうだ。つまり、車中泊も可能ということになる。
エンジンを回しても気持ちいいハイブリッド車
さて、アライアンスによって採用された日産の「プロパイロット1.0」相当+の充実した先進運転支援機能を標準装備するアルカナを走らせれば、もちろん、出足はモーター走行(グリーンのEVアイコン)。静かに、滑らかに走り出す。すでに報告したように、出足約40km/h以下ではエンジンはまずかからない。ただ動力源が静かなだけに、ハイブリッドシステム周りのノイズが気にならないでもないが、音楽でも聴いていればどうということはない。
速度を増していけば、メーター内のエンジンのアイコンが白く点灯し、エンジンがかかっていることが分かる。だが、モーター走行からエンジンが始動してもじつにシームレスで、エンジンがかかったことなどまず気づかせない制御の良さがある。しかも、山道や高速走行でエンジンを高回転まで回せば、「ノイズ」とは異なる抑え気味の快音を響かせ、グイグイ加速するのだから気持ちいい。フルハイブリッド車で、こうした走りの気持ち良さを味わわせてくれる日本車はそうはない。
R.S.自慢のスポーツシートがじんわり快適
操縦性もさすが、ルノーだ。太めのレザーステアリングは適度な重さでじつにスムース。まさに意のままにクルマを動かせる。韓国製のクムホ、215/55R18サイズのタイヤを履く乗り心地は最低地上高200mmに気遣ってか、やや硬め。だが、よほどの悪路や凸凹道でない限り、角が丸められた、クラスを超えたフラットで上質な乗り味を示す。山道を走り、ステアリングを右へ左へと切り返すシーンでも「運転が楽しい」と思わせてくれる、正確で気持ち良さある操縦性を示すのだからゴキゲンだ。
そうした場面で感動したのが、前席のかけ心地。フランス車のシートの良さはあらためて説明することもないが、このR.S. LINE専用のスポーツシートは背中のじんわり快適なホールド感が絶妙だ。例えば箱根の乙女峠旧道のようにタイトなコーナーが続く道でも背中が左右に振られず、安定感ある視線、姿勢のまま爽快に走れたほどだった。なお、スイッチまたはタッチスクリーンで選べるドライブモードは、「Sport」、「Eco」、個別設定が可能な「My Sense」の3種類。モードごとのメリハリもあって、使えるドライブモードと言っていい。
ACCが優秀でロングドライブもラク
一方、高速走行も文句なしだ。動力性能、直進性の良さ、安定感、巡行時の静かさ(ロードノイズはやや気になる)、そしてACCの作動に満足できた。ACCの作動はプロパイロット1.0相当とは言っても日産の国内仕様のものとはさすがに異なり、欧州仕様にリセッティングされている。具体的には約60km/h以上でONにでき、作動上限速度160km/h(!)、渋滞時は0km/h~のSTOP&GOが可能。約3秒間はACC保持~自動再発進……という仕様になる(電子パーキングブレーキとオートブレーキホールド機能、ブラインドスポットモニター完備)。
そんなルノー・アルカナはそのスタイリッシュさから都会に似合い、またFFながら最低地上高の余裕と車中泊にも対応するパッケージング、ロングドライブも快適な乗り心地や静粛性、そして燃費の良さ、荷物の積載力の高さもあって、アウトドアシーンでも大活躍してくれること間違いなし。人とは違う輸入クーペSUVを探しているなら、ぜひ候補に挙げたい1台である。発売は5月26日となっている。
ルノー・アルカナのスペック
■ルノー・アルカナ R.S. LINE E-TECH HYBRID主要諸元
〇全長×全幅×全高:4570mm×1820mm×1580mm
〇ホイールベース:2720mm
〇車両重量:1470kg
〇乗車定員:5名
〇最小回転半径:5.5m
〇エンジン種類:直列4気筒DOHC
〇総排気量:1597cc
〇最高出力:69kW(94ps)/5600rpm
〇最大トルク:148N・m(15.1kg-m)/3600mm
〇メインモーター最高出力:36kW(49ps)/1677-6000rpm
〇メインモーター最大トルク:205N・m(20.9kg-m)/200-1677rpm
〇サブモーター最高出力:15kW(20ps)/2865-10000rpm
〇サブモーター最大トルク:50N・m(5.1kg-m)/200-2865rpm
〇燃料タンク容量:50L
〇トランスミッション:電子制御ドグクラッチマルチモードAT
〇燃料消費率(WLTCモード):22.8km/L
〇サスペンション 前/後:マクファーソンストラット/トーションビーム
〇ブレーキ 前/後:ベンチレーテッドディスク/ディスク
〇タイヤ 前・後:215/55R18
〇車両本体価格(税込):429万円