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どこまでも空走する「鬼コースティング」に驚愕! 「日産アリア」のスムースさが圧倒的だった

2020年7月に発表され、今春ようやく納車が始まった「アリア」

BEVの先駆者、日産入魂のフラッグシップBEV

 じわじわとEVの時代が近づいてきていると感じるのは、最近、試乗するクルマがBEV(バッテリーEV)である比率がめっきり増えてきていること。「アリア」もそんななかの一台である、と言ってしまうと、日産が満を持して投入してきたのに元も子もない、と怒られそうだが、早々とティザーを開始し、じつは2021年6月に限定車「リミテッド」の先行受注を行ったものの、世界中の自動車メーカーが影響を受けている半導体不足などから、その納車予定も遅れに遅れてつい最近はじまったばかり。そうこうしているうちに正式発売になったという、最近の世界の自動車生産における混乱状況を彷佛させる存在でもある。

パワートレーンは66kWh/91kWhと2WD/4WDで計4種類

 ちなみに、発売となったのはアリアのベーシックモデルと位置づけられ「B6」というグレード名を冠する、66kWhのバッテリー容量を持ち最高出力160kWのモーターで前輪を駆動する2WDの仕様から。新開発の「e-4ORCE」を採用したB6の4WD仕様(250kW)や、さらにバッテリー容量が大きい91kWhの「B9」の2WD(178kW)および4WD(290kW)は遅れての発売となる。

 じつはこの試乗会に向かった足も、BEVの「プジョーe-2008」だったので、クラスは違うにしても、BEVからBEVへの乗り換えということで、モーターの出力制御や音の面など、いろいろと参考になることも多かった。

シンプルでいて質感の高いデザイン

 実際にアリアを目の前にすると、全長4595mmという「エクストレイル」よりも95mm短いボディながらも、なかなかのボリューム感がある。フォルムとしては最近流行のクーペSUVとでもいうべきものだが、新しい日産のデザイン表現となりそうなシンプルな面構成で、日産が言う新時代のフラッグシップとしての品格はそれなりに感じさせる。

 なによりも、室内が広々している。インパネ周りも日産らしからぬ、と言うと失礼かもしれないが、シンプルでいて高い質感をもたらしている。ただ、電動で前後にスライドするセンターコンソール上に配されたエコ/ノーマル/スポーツが選べるドライブモードスイッチは、そこにさらに「eペダル」のオン/オフの操作も加わることもあって、コンソールのスライド位置を一番前に出しても、結局のところブラインドタッチは難しかった。

 というのも、それが気になったのはアリアの走りにおいて、このドライブモード選択が、走りの特性を大きく変える、あるいは変えられることになるからだ。日産といえばeペダルであるが、アリアのアクセルオフの際の減速度は、eペダル「オン」では、どのモードでも変わらない。一方でeペダルを「オフ」にすると、各モードでアクセルオフの際の減速度は変わるため、パドルシフトのようにモードを変えて減速度を意図的に変化させたいと思ったのだが、このスイッチ配置・形状では、どうにも正確かつ即座には操作できなかった。

ひたすら空走し続ける圧倒的コースティング性能

 特徴的なのは、「エコモード」でかつeペダルを「オフ」にした際の「コースティング」(空走・滑走)。減速回生をいわばゼロにしているということだが、この際の速度の落ちの少ないこと少ないこと。平坦路なら、アクセルペダルを戻しても、スーとなめらかに、ひたすらに惰行を続ける感覚で、いかにも空気抵抗もタイヤや駆動系の抵抗も少なさそうだと感じさせるほど。

 とくに高速巡航域の流れのなかでは、減速回生をするよりも、アクセルを少し戻しながらも速度を維持できたほうが効率がよいことは往々にしてあるもので、そこはこれまでのeペダル採用車の気になるところでもあったのだが、アリアでは気持ちよいくらいに速度落ちが小さいままに維持されるのだった。

 こうした際に、必要に応じて瞬時にモードの切り替えをしたかったりしたのだが、そこはDレンジからBレンジに変速することで、エンジンブレーキ的に必要な減速度を得てくださいということのようだ。たしかに、これで事足りることも多いが、ドライブモードスイッチが使いやすいにこしたことはない。

欧州プレミアムBEVにも勝る「スムースさ」

 この「コースティング」が強調されるのは、走行時の室内音が徹底的に抑え込まれていることにもよる。EVのパワートレーン系の音が静かなのは当たり前として、最終的に抑えるのが一番難しくなるロードノイズや周りの車両の走行音といった車外騒音の侵入も小さい。ちょっと大げさに言えば、静寂な空間のままに空走していく感覚となるくらいに、静かな室内を実現しているのはスゴい。

 そしてもうひとつ、EVで先行してきた日産の強みを感じさせたのが、日常での発進域や微妙な加減速といった際のなめらかさ。EVというと、うたい文句として必ずやスムース、そして瞬時の加速をもたらすみたいな文言が与えられているものだが、じつは、このスムースさにも質があり、その差もある。この領域においてアリアは、ごく微妙な前後Gの変化まで抑え込まれており、欧州プレミアムブランドのBEVにも勝る高品質なスムースな動きをもたらしているように感じた。

「バッテリー温調」で充電性能にも期待大

 ここで唯一惜しいのは乗り心地で、車重が重いがゆえにバネを硬くせざるを得ないBEVにはありがちな、上下に揺すられるようなバウンシング感覚をもたらしてしまっている点。この日乗ってきたプジョーのe-2008も、同じボディの2008のICE(内燃エンジン)仕様と比べてしまうと、どっしり感こそ増すものの、上下の揺れは大きめに感じさせるものだった。ここは、金属バネのサスペンションにおいては、なかなかバランス取りが難しいところなのかもしれない。

 気になる一充電走行距離は470km(WLTCモード)と発表されている。BEVに乗って遠方に出かけてみるとわかるのは、満充電からの走行可能距離も重要だが、バッテリーを消費したあとの急速充電時の効率が肝となること。アリアは、バッテリーの温調システムを充実させたことで、高速走行直後の急速充電や寒冷地での急速充電でも安定した充電量を得られるとのこと。加えて、コースティングからも感じとれる走行抵抗の低さや高効率空調などと合わせ、実電費の良さも期待したいところだ。

 欧州プレミアムブランドのBEVがイッキに投入されてきている今こそ、BEVで先行した日産の技術を見せつけるときである。アリアが一目置かれる存在になることを願っている。

日産アリアのスペック

■日産アリア B6(2WD)主要諸元

〇全長×全幅×全高:4595mm×1850mm×1655mm
〇ホイールベース:2775mm
〇車両重量:1920kg
〇乗車定員:5名
〇最小回転半径:5.4m
〇駆動用バッテリー総電力量:66kWh
〇モーター最高出力:160kW(218ps)/5950-13000rpm
〇モーター最大トルク:300N・m(30.6kg-m)/0-4392rpm
〇交流電力量消費率(WLTCモード):166Wh/km
〇一充電走行距離(WLTCモード):470km
〇サスペンション 前/後:ストラット/マルチリンク
〇ブレーキ 前・後:ベンチレーテッドディスク
〇タイヤ 前・後:235/55R19
〇車両本体価格(税込):539万円

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