小っちゃいけれど大きなクルマたち
現在、世間の常識的には充分にコンパクトではあっても、個人的には大きめのセダンだった2台に次いで、気になった3台のコンパクトカーを紹介していきましょう。その3台とはAuto Needsのブースにあったシトロエン2CVとガレーヂ伊太利屋ブースのフィアット600ムルティプラ、そしてガレージイガラシのランチア アルデア セリエIIです。
シトロエン2CV
まずはシトロエン2CVから。果たしてこれが展示車両と言っていいかは分かりませんが、展示ホールのなかでエンジン/ミッション/デフを降してオーバーホールを実演していました。2CV自体は、これまでに見飽きるほど見てきましたが、エンジン単体で見るのも初めてなら、エンジンなどを降して“丸裸”となったボディを見るのも初めてで、ちょっと感動してしまいました。
そして前後連携式のサスペンションも初めてその実態を観察でき、とても勉強になりました。Auto Needsさん、いいものを見せていただいてありがとうございました。これまでは正直言って2CVのデザインは理解の範囲を超えていました。今でも完全に理解したと言い切ることはできませんが、今回少しだけでもフランス人のエスプリに触れたようで、もっと好きになってしまいました。
フィアット600ムルティプラ
続いてはガレーヂ伊太利屋ブースのフィアット600ムルティプラです。フィアットが戦前にリリースしていたフィアット500、いわゆる“トポリーノ”に替わる大衆車として戦後に登場させた600、いわゆる“セイチェント”の派生モデルであるムルティプラは、今でいうコンパクト・ミニバンです。
リヤにエンジンを搭載していた600をベースに、ライトバンは作れないだろう、とライバルもフィアットの上層部も考えていたようですが、開発を担当した天才エンジニア、ダンテ・ジアコーザは、ルーフを前方まで伸ばしてフロントシートをフロントタイヤの位置まで前進させることで、エンジンの直前までに3列目のシートスペースを稼ぎ出したのです。
もちろん、対衝突のレギュレーションも違うので簡単な話でないとは思いますが、難しいことを解決するのが技術の進歩。そんなことできっこないと言っていたら、技術の進歩は止まってしまいます。それにリヤのルーフラインはセイチェントほぼそのままで、フロントスタイルをワンボックス風に組み合わせて全長3.5m余りのコンパクトなボディに3列シートを実現するなどは、ジアコーザの面目躍如たるところです。
軽量コンパクトは永遠の正義、と言い続けてきましたが、これだったら許せるな、と思ってしまいます。何よりも、軽自動車のワンボックスの味気ないスタイリングに比べて、可愛らしさはこちらが数倍上。まぁ、クルマに可愛らしさが必要か、との論にはさまざまな意見があることは百も承知の上で、Multiplaにはぞっこんとなってしまいました。
ランチア アルデア シリーズII
最後に残った1台はガレージイガラシのランチア アルデア シリーズIIです。ランチアと言えば世界ラリー選手権(WRC)での活躍したイメージが強烈ですが、もちろんそれだけでなくレースではグループCでポルシェに挑んだ世界耐久選手権での活躍も印象的でした。
その一方で、戦前のランチア・ラムダでモノコックフレームや、量販車として初のフロント独立懸架を採用したり、やはり戦前のアプリリアにOHCの狭角V型エンジンや4輪独立懸架を採用するなど、先進的なメカニズムを上質なロードカーに採用するメーカーとして知られています。
そんなランチアがまだ戦前だった1939年にリリースした小型乗用車がアルデアでした。1937年に登場し、創業社長で天才エンジニアとしての誉れ高いヴィンチェンツォ・ランチアの遺作とも言われるアプリリアの小型版で全長×全幅は、それぞれ3615mm、1380mmとやはりコンパクト。現行の軽乗用車と比べても約20cm長いものの、反対に約9cm狭く充分にコンパクト。
驚かされるのはそのユーティリティ。観音開きの4ドアで、なおかつセンターピラーレスとなっていて、ご覧のように家族4人がゆったりと乗り込めるだけでなく、乗り降りもずっとスムース。個人的にはこれほどの“大型車”は無用なのですが、それでもムルティプラと同様の可愛さもあり、その一方でフォーマルのお出かけにも何ら無理なく乗って行ける端正なデザイン。これ、最高だわ!