個性あふれる旧車を紹介
先ごろ行われたオートモビルカウンシル2022は、今年で7回目を迎えるクルマ好きのための一大イベント。クルマ関連のライターである前に、無類のクルマ好きとしては「これを見ずにおかりょうか」なわけで出かけてきました。今回は、個人的に大いに気になった5台を紹介していきます。
クルマの基本「4ドアセダンで走りが楽しい」2台
最初に断っておきますが、見出しに「……走りが楽しい2台」としていますが、正直言って2台とも、まだ乗ったことがありません。そしてたぶんこれからも、楽しいと感じられるような走りを実感できるとも期待していません。
でも、間違いなく楽しいであろうことは容易に想像ができます。と前置きしたところで、その2台を紹介していきましょう。
ロータス・コーティナMk1 Sr.2
先ずはPLANEX CARSのブースにあったロータス・コーティナMk1 Sr.2。Cortinaをコーティナと呼ぶのかコルティナなのか、はたまたコルチナなのかは論が分かれるところですが、ここではPLANEX CARSさんに倣ってコーティナと呼ぶことにします。
展示されていたMk1のSr.2はMk1の後期モデルということになりますが、Sr.1(初期型)の最大の欠点だったリヤサスペンションの信頼性不足をコンベンショナルな、リジッドアクスルをリーフスプリングで吊り、2本のラジアスアームで前後をコントロールするタイプに変更。それにより信頼性を確保した、元祖・羊の皮を被った狼です。
ちなみに、Sr.1とSr.2の外観上の違いは、Sr.1ではフロントのウインカーが独立していたのに対してSr.2ではグリルに包み込まれています。またCピラー(リヤピラー)のエアアウトレットもSr.2で初めて採用されています。クリームホワイトのボディにグリーンのサイドストライプ、そして黄色地にグリーンのLOTUSマークはマニア垂涎。価格が価格でなければ絶対に欲しい1台です。
BMW 2002ターボ
もう1台の走りが楽しい、であろうセダンはSimple autoのブースにあったBMW 2002ターボ、いわゆる“マルニターボ”です。先に紹介したロータス・コーティナMk1が元祖・羊の皮を被った狼であるならば、こちらは元祖・狼の皮を被った黒ヒョウ、といったところでしょうか。
以前からツーリングカーレースで活躍してきたBMWが、戦後からの復興を加速させることになった新しい4ドアセダン、その名もノイエ・クラッセ(Neue Klasse 。独語で新しいクラスの意)と呼ばれる一連のモデルから2ドアの02シリーズが誕生。その02シリーズの最上級モデルの2002をベースにKKK製のターボを装着したモデルが“マルニターボ”でした。
その最高出力は、ベースとなった最高出力130HPの2002に比べて3割強パワーアップして170HPを捻り出していましたからターボの威力は明白でした。当然シャシーも強化されていましたが、基本形式はベースとなった2002と同様で、ホイール(5Jから5.5Jに拡幅した13インチホイール)とタイヤ(165HR13から185/70HR13にサイズアップ)と置き換えてトレッドもフロントを1342mmから1375mmに、リヤを1342mmから1362mmに、それぞれ拡幅していました。
しかし何より目立っていたのはオーバーフェンダーでした。全幅を調べてみると1590mmから1620mmに、わずか30mmのサイズアップでしたが、イメージ的にはそれ以上の変身ぶりだったと印象に残っています。それにしてもサイズアップしたホイールとタイヤが5.5J幅の13インチで185/70HR13とは、今から半世紀も昔という背景もありますが、やはり驚いてしまいます。
小っちゃいけれど大きなクルマたち
現在、世間の常識的には充分にコンパクトではあっても、個人的には大きめのセダンだった2台に次いで、気になった3台のコンパクトカーを紹介していきましょう。その3台とはAuto Needsのブースにあったシトロエン2CVとガレーヂ伊太利屋ブースのフィアット600ムルティプラ、そしてガレージイガラシのランチア アルデア セリエIIです。
シトロエン2CV
まずはシトロエン2CVから。果たしてこれが展示車両と言っていいかは分かりませんが、展示ホールのなかでエンジン/ミッション/デフを降してオーバーホールを実演していました。2CV自体は、これまでに見飽きるほど見てきましたが、エンジン単体で見るのも初めてなら、エンジンなどを降して“丸裸”となったボディを見るのも初めてで、ちょっと感動してしまいました。
そして前後連携式のサスペンションも初めてその実態を観察でき、とても勉強になりました。Auto Needsさん、いいものを見せていただいてありがとうございました。これまでは正直言って2CVのデザインは理解の範囲を超えていました。今でも完全に理解したと言い切ることはできませんが、今回少しだけでもフランス人のエスプリに触れたようで、もっと好きになってしまいました。
フィアット600ムルティプラ
続いてはガレーヂ伊太利屋ブースのフィアット600ムルティプラです。フィアットが戦前にリリースしていたフィアット500、いわゆる“トポリーノ”に替わる大衆車として戦後に登場させた600、いわゆる“セイチェント”の派生モデルであるムルティプラは、今でいうコンパクト・ミニバンです。
リヤにエンジンを搭載していた600をベースに、ライトバンは作れないだろう、とライバルもフィアットの上層部も考えていたようですが、開発を担当した天才エンジニア、ダンテ・ジアコーザは、ルーフを前方まで伸ばしてフロントシートをフロントタイヤの位置まで前進させることで、エンジンの直前までに3列目のシートスペースを稼ぎ出したのです。
もちろん、対衝突のレギュレーションも違うので簡単な話でないとは思いますが、難しいことを解決するのが技術の進歩。そんなことできっこないと言っていたら、技術の進歩は止まってしまいます。それにリヤのルーフラインはセイチェントほぼそのままで、フロントスタイルをワンボックス風に組み合わせて全長3.5m余りのコンパクトなボディに3列シートを実現するなどは、ジアコーザの面目躍如たるところです。
軽量コンパクトは永遠の正義、と言い続けてきましたが、これだったら許せるな、と思ってしまいます。何よりも、軽自動車のワンボックスの味気ないスタイリングに比べて、可愛らしさはこちらが数倍上。まぁ、クルマに可愛らしさが必要か、との論にはさまざまな意見があることは百も承知の上で、Multiplaにはぞっこんとなってしまいました。
ランチア アルデア シリーズII
最後に残った1台はガレージイガラシのランチア アルデア シリーズIIです。ランチアと言えば世界ラリー選手権(WRC)での活躍したイメージが強烈ですが、もちろんそれだけでなくレースではグループCでポルシェに挑んだ世界耐久選手権での活躍も印象的でした。
その一方で、戦前のランチア・ラムダでモノコックフレームや、量販車として初のフロント独立懸架を採用したり、やはり戦前のアプリリアにOHCの狭角V型エンジンや4輪独立懸架を採用するなど、先進的なメカニズムを上質なロードカーに採用するメーカーとして知られています。
そんなランチアがまだ戦前だった1939年にリリースした小型乗用車がアルデアでした。1937年に登場し、創業社長で天才エンジニアとしての誉れ高いヴィンチェンツォ・ランチアの遺作とも言われるアプリリアの小型版で全長×全幅は、それぞれ3615mm、1380mmとやはりコンパクト。現行の軽乗用車と比べても約20cm長いものの、反対に約9cm狭く充分にコンパクト。
驚かされるのはそのユーティリティ。観音開きの4ドアで、なおかつセンターピラーレスとなっていて、ご覧のように家族4人がゆったりと乗り込めるだけでなく、乗り降りもずっとスムース。個人的にはこれほどの“大型車”は無用なのですが、それでもムルティプラと同様の可愛さもあり、その一方でフォーマルのお出かけにも何ら無理なく乗って行ける端正なデザイン。これ、最高だわ!