ちょいワルなルックスで一気に人気グレードへ
通称グラツー。筆者自身あまり言い慣れていないせいか流暢に発音するには幾分か練習が必要だが、今はなき日産のセドリック/グロリアで人気を集めたシリーズが“グラツー”こと“グランツーリスモ”だった。
苦戦したY30のテコ入れとしてY31で初登場
このグラツーだが、初出は1987年に登場したY31時代。このY31は、直前のY30がそれまでの直6からV6にエンジンを一新するなど、中身が大きく進化させたにもかかわらず、外観イメージが先代の430と大きく変わらなかったことなどが災いし販売的には苦戦。当時のライバル車だったトヨタ・クラウンが、あの大人気を博したクリスタルピラーのS120系だったこともあり、後塵を拝する結果となってしまっていた。
そこでY30からY31へのフルモデルチェンジにあたり、日産は勝負に打って出たのだった。それが、従来のイメージリーダーだった“ブロアム”と並ぶ新しいシリーズとして設定された“グランツーリスモ”だった。
“高級車は同時に速いクルマでもありたい。そんな願いをカタチにした、新しいジャンルのグランツーリスモ”と当時のカタログにも記されており、イメージ色は写真のカタログにもあるとおりのブラック。これに日本初を謳う2LのV6ツインカムターボ(VG20DET型)を搭載し、185psと当時の3L(195ps)に迫るパワーが与えられたのだった。
このVG20DET型はまさにカタログ映えする新技術も満載。ツインカム24バルブをベースに、ターボローターがセラミック化されたハイフローセラミックターボをはじめ、電子制御可変吸気コントロールシステム「NICS」、可変バルブコントロールシステム「NVCS」、ダイレクトイグニッションシステム「NDIS」などを投入。
そのほか、小さな見出しで“世界初”を謳うデュアルモードマフラーも同エンジンには採用。これはエンジン回転数に合わせて排気経路を長短2とおりに自動的に使い分け、低回転時のこもり音の低減と中・高回転時の排気抵抗を抑える役割を果たした。
そのほかでは、サスペンションはブロアム系が電子制御エアサスペンションを採用するのに対し、コンベンショナルな4輪独立懸架を採用。ただしメーカーオプションで4WASとビスカスL.S.D.がセットで用意されるなどした。タイヤはブロアム系と共通で205/65 R15 93Hを装着。カタログの諸元表上は“スポーティサスペンション”が標準だった。
その名に偽りなく速さを体感できた
で、実際の走りだが、当時試乗した記憶の糸(!?)を辿ると、平たくいえばとにかく「バカっ速」なクルマだった。サスペンションは一応は専用だったが(あくまで一般道でしか試乗しなかったので)強めの加速を与えると、テールを沈ませながらヒューン! とセドリックのあの大柄なボディが離陸でもするのではないか!? といった体感を味わわせてくれた。
外観上はブロアム系に対し、グリルのデザインやエアロ形状になったフロントバンパー、専用アルミホイールなどで差別化されてはいたが、まあ、あくまでもジェントルなセドリック(グロリア)。しかしいざとなれば、泣く子も黙る俊足ぶりだったのである。
このY31セドリック/グロリア登場を追って、1988年になると同じベースから誕生したあの初代シーマがセドリック/グロリアの両車に設定されたのはご承知のとおり。“グラツー”はその理屈抜きの速さで、当時のヤング・アット・ハートなオジサンたちのハートをまさしく鷲掴みにしたのだった。
ちなみにY31ではグラツーは4ドアハードトップだけでなく、あの地味な……いやごくフォーマルな“身なり”のセダンにも設定があった。今考えると、じつに通好みのクルマといえたかもしれない。