上下にスライドして格納されるドアが目を惹くスタイリング
Z1のスタイリングでは、やはり上下にスライドして格納されるドアが最大の特徴でした。これはボディの剛性を確保するためにサイドシルが高くなったのですが、それを逆手にとって、高くなったサイドシルの中に電動でドア収納してしまうというもの。
メルセデス・ベンツの300SLが、サイドシルが太くて乗降性が損なわれたのをカバーするためにガルウィングドアを採用したのと、ある意味同様な手法でした。またドアをスライドさせて収納するというのは1950年代にアメリカ車のカイザー・ダーリンが、ドアを前後にスライドさせてフロントフェンダーに収納するアイデアを実践していました。
フロントフェンダーに収納させるため、サイドウインドウは最初から取り付けられていませんでした。ですが、Z1ではサッシレスでウインドウガラスをドア本体に収納させるスタイルで、ドアを開けた(下にスライドさせてサイドシルに収納した)際にウインドウガラスが乗り降りの邪魔をするという落語のような“落ち”は避けられていました。そんな与太話はともかく、ドアが上下にスライドしてサイドシルに収納される、というZ1のスタイリングとメカニズムは、今もなお新鮮に映っています。
そんなドアにもまして、Z1のシャシーにも技術的に新しいトライが盛り込まれていました。基本的にはプレスしたスチールパネルで構成されたモノコックフレームなのですが、一般的なモノコックではボディ外板を兼ねているのとは異なり、Z1では、このモノコックにFRP(ガラス繊維で強化したプラスチック樹脂)製のアウターパネルを組付けてボディを構成。
車両重量は1250kgで、2.5Lの直6エンジンを搭載したオープンシーターとしては軽量に仕上がっていました。ちなみに、モノコックフレームだけで充分な剛性を確保していたので、法規で許されるなら、ドアを開けっぱなしで運転することも可能でした。
またBMWではオプションとしてFRP製の外板パネルを用意。簡単に短時間で交換できるため、パネルを1セット用意しておいて、気分に合わせてボディカラーを選ぶこともできます、と謳っていました。熟練の整備士なら40分で総てのパネルを取り外せる、とのことでしたが、実際にはもっと長い時間が必要だったようです。
その辺りは、ラテンのノリで生産されたクルマたちとは違う、完全主義を貫くゲルマンのクルマらしさを示すエピソードです。Z1は1989年から本格生産に入りましたが、それでも少量生産が前提であり、1990年には生産を終えることになったため、全生産台数は8000台にとどまっていましたが、Zアクスルなどの新技術は他車種にも採用されています。