SF映画に登場しそうなスタイリッシュなコックピット
ただ、製品についての打ち合わせを繰り返し行っていくなかで、コストをかければ北畠さんが求める剛性が高くてスタイリッシュなコクピットはできるが非現実的であるということがわかってきた。それならば剛性については後から考えることにして、まずは商品化するということを優先した。「北畠さんが望んでいるのは、彼の持つ世界観を僕のアイデアで解決してほしいということでした。やるからには、誰もが驚くオモシロイものを生み出したい」と思っていろいろと考えた結果、3Dプリンタを使って製造するということに行き着いたのだ。
純国産の大型3Dプリンタについて書かれた記事を偶然に目にした水野さんは「これだ!」と思い、3Dプリンタの開発元の(株)ExtraBoldを訪ねて制作の交渉を行い、今回のプロジェクトに賛同してもらえることになった。
「3Dプリンタで製品を制作するうえで、いかにも3Dプリンタで作りました、という風にはしたくなかった」という水野さん。積層痕があっても美しく、積層痕があるから価値のあるデザインにしたかったのだという。製法がなにであれ、誰もが驚くブッチギリにカッコいいものということを念頭に置きイメージを膨らませていった。
ある日、水野さん自身が過去に体験したサーキット走行のスリリングな緊張感と高揚感、神経がクルマと対話するような不思議な体験が頭をよぎり、唐突にアイディアが浮かんだのだ。それが没入できる「空間そのもの」を作ってしまうということだったのだ。
こうして生まれたアイディアが、心の高ぶりをイコライザーやタコメーター(回転計)を連想させるグラフィックであり、神経伝達と緊張感を立体化した脊髄のような独創的なデザインなのである。
完成したGT EXPERIENCE CONCEPTを見て、北畠さんは「これはすごい! 僕のイメージどおりのものを具現化してくれた」と感激していた。本来求めていたパイプフレームのものとは違った形になったが、シミュレーターに没入できる空間を生み出してくれたということに大満足といった様子であった。
なお、GT EXPERIENCE CONCEPTは、自動車関係、レース関係、eスポーツ会場、カーディーラーなどを視野に2022年秋ごろの発売を目指しているという。大型3Dプリンタと原材料、デザインデータがあれば商品を発送することなく、どこでも形にすることができる。プロダクトデザインの未来を垣間見たような気にさせられた。
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