ドライバーにできることはブレーキをしっかり踏みつけるだけ
サーキットやジムカーナ場などでのスポーツ走行の練習は、タイヤの限界を探っていく作業ともいえる。その過程では、当然タイヤの限界を超えて、アンダーステアやオーバーステア、そしてスピンをすることもあるはずだ。
クルマの挙動が乱れたとき、ダメージをなくす、あるいは最小化するための鉄則がある。それは「スピンモードに入ったら、とにかく完全停止するまでフルブレーキを続けること」。これがもっとも安全で、もっとも被害が少なくなる秘訣だ。カウンターステアを当てたり、アクセルコントロールで立て直して……などとこざかしいことは考えない方がいい。
F1で3度の世界チャンピオンになっているサー・ジャッキー・スチュワートも、クルマが限界を超えてスピンをはじめたときは「神に祈るのみ」と言っている。1トン以上、2トン近い質量があるクルマがひとたびコントロールを失ったら、ドライバーにできることはブレーキをガツンと踏みつけるだけ。
「スピンしたら、止まるまでフルブレーキ」
運動エネルギーは速度の二乗に比例するので、とにかくブレーキを強く踏んで、速度を1km/hでも落とすことに専念する。そして肝心なのは完全停止するまでブレーキを全力で踏み続けること。これを怠ると、スピンが収まった瞬間、クルマが反対方向に動き出して、後続車と接触したり、ガードレールと仲良くなることがよくあるからだ。
したがって、スポーツ走行を楽しむ人は、「スピンしたら、止まるまでフルブレーキ」と呪文のように何度も唱え、頭にたたき込んでおいてほしい。
しかし、知識として覚えただけでは、いざというときなかなか実践できないのも事実。本人は懸命にブレーキを踏み続けているつもりでも、端から見れば「全然足りない」ことは日常よく目にする光景なので、ジムカーナ場などで開催されるドライビングスクールなどを積極的に活用し、身体で覚えてしまうのが肝心。
本当の意味でのフルブレーキ(直線でOK)と、このスピンモードのときのフルブレーキさえ身につけば、スポーツ走行におけるリスクはかなり軽減される。また、公道でのアクシデントの際にも非常に有効なので、最優先で練習することをおすすめする。
そして、フルブレーキによってスピンを収めることができたら、落ち着いてスピンした原因について考えてみよう。
スピン後の原因追求を忘れずに行う
オイルにでも乗らない限り、クルマが突然スピンするようなことはなく、通常は必ずその予兆がある。多くの場合、先にアンダーステアが出て、それからリバースステアに転じてスピンするケースなはずだ。アンダーステアが出る理由は、オーバースピードか、ハンドルの切りすぎか、舵角不足か、この3つの要素のどれかだ。
このうちオーバースピードが原因で、弱アンダーが出ている状態でポンとアクセルを抜いたりすると、いわゆるタックインが起き、一気にスピンモードに入る場合がある。またハンドルを切りすぎたときも、(速度が落ちて)フロントのグリップが回復した途端、リバースステアになるケースがある。
オーバーステアに関しては、ブレーキで前荷重になりすぎてリヤの接地性が悪くなり流れる場合と、後輪駆動でアクセルを踏んだとき、パワースライドを起こすふたつのパターンがある。コーナー進入時ブレーキングによってオーバーステアが出たときは、ブレーキペダルを少し戻せば収束し(FFはパワーオンでヨーイングを減らすこともできる)、パワースライドならアクセルを少しゆるめればいい。プロはリヤが流れたとき、アクセルオンでリヤタイヤの摩擦円を大きくするウラ技を使うこともあるという!?
ドライビングも自然科学とまったく同じで、「仮設の提示、実験、反証事例の出現、仮設の書き換え」を繰り返して進むしかないわけだが、スピンをしてぶつかってしまうと次の「仮設の書き換え」ができなくなってしまう。まずは「スピンモード→完全停止するまでフルブレーキ」でダメージを受けることを回避し、それから原因究明、仮設の書き換えのプロセスを楽しもう。