5000psのジェットエンジンを積む狂気のワーゲンバス
フォルクスワーゲン・タイプ2、通称「ワーゲンバス」といえば、商用車として世界中で活躍すると同時に、ほのぼのとした風貌も手伝って「フラワームーブメント」の象徴でもあった、タイプ1「ビートル」とともにVWを代表する名車だ。つい最近ではワーゲンバスのデザインを現代的に再解釈したEV「ID. Buzz」が正式発表されたばかりでもある。
ところが、かわいらしいワーゲンバスでスピードを追い求めたあげく、ロールス・ロイス製5000psのジェットエンジンを搭載してしまった、狂気の沙汰ともいえる「ジェットバス」が近年、ヨーロッパのイベントに出没しているのだ。
奇天烈なカスタムカーに情熱を燃やし続ける英国紳士
イギリス・バッキンガムシャーで「ペリーウィンクル・カスタムズ(Perrywinkle Customs)」というガレージを構えるペリー・ワトキンス氏が、自ら「クレイジーなクルマ」と呼ぶ、ぶっ飛んだカスタムカーを作り始めたのは1984年までさかのぼる。教会の釣り鐘を走らせてみようと思いついた「DALEK」を皮切りに、ディナーテーブルの形をした「Fast Food」(ダジャレ)はドラッグコースで最高時速113.8マイル(183.1km/h)を記録し、「世界最速の家具」の称号を手に入れている。
さらに「公道走行可能な車高の低いクルマ世界一」ギネスブック認定にも強い執念を燃やし、1990年以来、同じイギリスのカスタム作家アンディ・サンダースと激烈な競争を繰り広げた。そして2007年の「The Flatmobile」(バットモービル風)で車高19インチ(約48cm)を達成し、「シャコタン」競争に終止符を打っている。
ちなみに「世界一車高の低いクルマ」の称号はその後、日本の「おかやま山陽高校」自動車科が製作したEV「MIRAI」が車高17.79インチ(45.2cm)を達成してギネス記録を塗り替えている。こちらも、もちろん公道走行可能だ。
クールなアイデアは夜のパブから生まれる
ところで上記の「The Flatmobile」のテールエンドには、ジェットエンジンの噴出口がある。このプロジェクトでワトキンス氏は「コンセプトをバットモービルのミニチュア版と決めたら、ジェットエンジンがあればカッコいいと思うようになったんだ。でも市販のジェットエンジンは高価すぎて入手困難なので、自分で作ってみることにした」のだそうだ。そこで培った技術的なノウハウと、イギリス国内のジェットエンジン愛好家たちとのコネクションが、次の壮大なプロジェクトにつながったのだった。
「オクラホマウィリー(Oklahoma Willy)」と名づけられた狂気のワーゲンバスのプロジェクトは、それまでのほかの作品群と同様に「仲間とパブに飲みに行った夜にくだらないアイデアを思いつくんだ」とワトキンス氏。ただし酔っぱらいの思いつきで終わらず、それから6年もかけてコツコツとカスタムを具現化するのだから、やはりただ者ではない。