軍用機に積まれていたロールス製ジェットエンジン
1/4マイル(約400m)の直線でタイムを競う「ドラッグレース」の世界では、これまでにもジェットエンジンを搭載するマシンはいくつも製作されてきた。だが、そもそも速そうには見えないワーゲンバスに、しかも巨大な航空機用エンジンを載せようなどというプロジェクトは前代未聞だ。
オクラホマウィリー・プロジェクトは、はじめに巨大なジェットエンジンをワトキンス氏が入手したのがきっかけだ。1978年製の「ロールス・ロイス・バイパー535」という航空機用ジェットエンジンで、イギリス製の軍用機「BAC 167ストライクマスター」(中近東で多く採用されていた)に実際に搭載され、2000時間以上飛行した後に2009年に退役したユニット。それをイギリス有数のジェットエンジン愛好家が買い取り、エンジン始動可能な状態までレストアしたのちに、ワトキンス氏が引き取ったのだった。
このジェットエンジンをさらに作り直し、リペイントしてクローム処理まで施すのに2年かけ、アフターバーナーの取り付けに半年。さらに調整を重ねて合計6年かけ、2017年に「ジェットバス」オクラホマウィリーは完成した。
理論上は最高スピード480km/h……?
巨大なジェットエンジンを背負うのは、1958年式ワーゲンバス・ピックアップ。元はアメリカ・オクラホマ州の農家で使われていた個体で、前のオーナーのが「Whiley」ということにちなんでマシン名が「オクラホマウィリー」となった。なおこのバスはリヤにオリジナルのフラット4エンジンも積んでいて、そちらを駆動して公道走行が可能だ。
単体重量350kgのロールス・ロイス製ジェットエンジンは5000psを発揮し、理論上では、このジェットバスの最高速度は時速300マイル(483km/h)に達するとのことだが、ワトキンス氏は実際には時速157マイル(253km/h)までしか出したことがないとのこと。
クラシック・ビートルのドラッグレース仕様で世界トップクラスのモンスターマシンは最高速180マイル(290km/h)以上を記録しているので、オクラホマウィリーは実際のところ、驚くほど速いわけではない。
とはいえ、ジェットエンジンのキーンという回転音と空気を切り裂くような轟音、白煙と熱気をまきちらして疾走していくオクラホマウィリーの雄姿には、ロマンが満ちあふれている。筆者は2019年にベルギーでコース脇にて撮影する機会を得たが、あまりの爆音とビリビリした空気の振動を感じながら鼓膜を心配していた記憶がいまも鮮明だ。今後もヨーロッパのイベントに出没すると思われるので、ぜひ一度、実物に触れてみていただきたい。