デザインが奇抜すぎて失敗か!? 人気モデルになり得なかった不人気車
クルマのデザインは難しい。誰しもこれは売れると思う新車を見たことがあるだろうし、「これってカッコいいの?」なんて思うクルマが売れることも珍しくない。歴史あるモデルはイメージが固まっているからよほど冒険しなければ不人気とはならないだろうけれど、完全に新型となるとまた別の話。だからクルマのデザインは面白い。今回は性能は素晴らしいのに、個性が強すぎて不人気の烙印を押されてしまったクルマを紹介したい。
海外では正常進化して2代目がデビュー!
だが日本では絶版となった「日産ジューク」
まず近年で秀逸なのが日産ジュークだ。コンパクトSUVにカテゴライズされ、「どこがヘッドライトなのか?」と思わせるスタイリングが個性的であり魅力でもある。表現に困るのだが、フォグランプに見える部分がヘッドライトで、ボンネット上のスモールライトが個性的で他メーカーに大きな衝撃を与えた。加えてボディカラーを大胆に内装にもあしらったデザインは、当時多くの方の度肝を抜いた。
ところがこれこそ新時代のデザインと高い評価を受けて世界的には人気モデルとなる。エンジンやサスペンションも仕様や仕向け地(販売地域)に合わせてさまざまな作り分けがなされて、コンパクトSUV人気の火付け役といって良いほどの人気を集めた。
ニスモ仕様や、海外ではR35GT-RのVR38DETTを搭載したジュークRが発表されるほど人気となったが、日本では初代のみで終了。海外では2代目が活躍しているものの、日本向けには2代目キックスが後継とされている(ちなみに初代キックスは三菱パジェロミニのOEM車)。
デザインも、走りも、快適性も、価格も良かったのに日本で2代目がないのは、おそらく予想よりも売れなかったのだろう。しかし需要があっても新車がなければ売り込むのも難しいワケで、定番のエクストレイルの4代目の日本仕様も遅れているだけに、国内の日産ファンが悲しむのはもちろん販売店の悲鳴に繋がっているのが寂しい。
セダン不遇の時代に軽自動車のイメージが
足枷になった「スズキ・キザシ」
スズキのキザシも損をしたモデルだと思う。日本でスズキのイメージは「軽自動車の会社でしょ」だろう。ところが全世界とは言わないが、グローバル市場でも戦う一流のメーカーでありブランドだ。スイフトやソリオ、22年4月に国内で復活したエスクード(空白期間を経て発売)の人気はご存じだろう。トヨタ同様に織機から、ホンダと同じように二輪から四輪に参入した歴史あるスズキは、インドやハンガリーといった少し馴染みが薄い国々へいち早く積極的に進出して尊敬の念を集めている。日本のライバル社とは違う戦略でその地位を確保したのだ。
そのキザシだが、Dセグメントと呼ばれるトヨタ・マークⅡやホンダ・アコードのライバルとなるサイズのセダンとして開発されたモデルで、日本よりも早く北米で発売を開始した渾身作。日本向けには2.4Lエンジンのみながら、低価格で勝負しようとしたところも評価したい。
しかしクルマ自体は良かったのに売れなかった。弁明すると発売の2009年にはすでに北米市場では4ドアセダンの需要が減っていたこともある。北米で若者が最初に買うクルマは、映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」でも描かれているように、日本でいうピックアップトラック、もしくはセクレタリーカーと呼ばれる若者の通勤用の2ドアクーペ、そしてSUVが定番だ。セダンやワゴンの需要は海外勢の一部以外は売れていていないため、北米メーカーは日本車や欧州車と比べて、セダンやワゴンの生産台数は少ない。
もちろん日本でも発売されたキザシだが、少々凝ったスタイリングだったのもマーケットでは受け入れられなかった。日本でも4ドアセダンは、欧州勢以外は軒並み不人気となっており、トヨタ・クラウンが気を吐くぐらいだ。現在ではC&Dセグメント(中型および大型)の4ドアセダンは、トヨタ・クラウン&カムリ(+レクサス)、日産はスイカライン、ホンダ・アコード&インサイトのみと、4ドアセダンは消滅の危機に入っている。
加えて、スズキの販売店が高価格帯のクルマの販売に慣れていなかったことも大きな理由だろうし、2006年に発売されたSX4のスタリングが受け入れられなかったことで、そのつり目を踏襲したデザインは日本ではヒットとならず。クルマは良くてもその魅力を伝えるのは難しくもあり、やはりクルマを買うときにデザインはある程度優先されることを考えると、さまざまな面でキザシは少しタイミングが悪すぎた。
デザインの狙いがユーザーに浸透せず
「3代目 日産ウイングロード」
その、つり目の典型例が日産ウイングロードだ。初代がサニーカリフォルニアという人気ワゴンの流れを汲んだスタイルで誕生してヒット。ちょうどワゴンブームだったこともあってその魂は2代目に受け継がれ、3代目は2005年に登場した。
だが、この3代目ウイングロードはなんとも形容しがたい風貌がいただけなかった。初代は歴史を受け継いだ端正さがあり、2代目は少しアグレッシブながらしっかりファンに支持された。そんななかの3代目は、複雑なラインを描くルーフとブラックアウトされたピラーが織りなす外観だったが、なんとも言えないビミョーさ。現在であれば「ブサカワ」と評すればよいのだろうが、やはり形容しがたいスタイリングは市場に受け入れられず。
もちろん性能的にはダメではなかった。それは歴代同様にAD(バン、エキスパートNV150含む)が、商用ワゴンとして現在も販売されていることに加えて、他社にOEM車として発売されていることからも明らかで、実力は確かなものがあるのだ。ウイングロードのベースとなったかつてのサニーやティーダの販売は終了してしまったが、ほかのメーカーも含めてADを売っているのは(マツダがファミリアバンとしてOEM車を販売)、メーカー間の戦略があるとしても実力があり需要があることから売られていると言える。
ただし、3代目ウイングロードが乗用ワゴンとしてデビューしたときに「このデザインはなぁ〜」と思った人が一定数以上いたというのは言わずもがな。
アウトドア派に向けて訴求するも……
「ダイハツ・ウェイク」
キャンプやアウトドアブームが盛り上がるなかで登場したダイハツのウェイクも、フロントマスクなどの少し奇抜なスタイリングが足枷となったか? ホンダのNシリーズをはじめ、軽自動車の販売台数が伸びに伸びているなかで、背が高ければ高いほど人気となる時代を迎え、ダイハツが投入したモデルが2014年発売のウェイクだ。
全高が1835mmと非常に背の高い軽自動車であり室内は広々。2013年にモーターショーで登場したコンセプトカーの「DECA DECA(デカデカ)」は、大きな液晶モニターが装着できた広すぎるほどの室内が与えられ、今後の軽の主流になると思われた。ところが、販売台数で上位ランカーにはなれず。今でも販売中のモデルだが、ライバルのN-BOXやスペーシア(スペーシアギア含む)と比べると1/5程度の販売台数となっている。
もちろんデザインは道具感があり、比較的分かりすく威圧感のない、親しみあるスタイリングと斬新なフロントマスクは、昨今のオラオラ顔が足りなかったのだろうか? また、背高のわりに走りはライバルのスーパーハイト系と遜色もなかったし、市街地走行がメインの日常使いでは不安のない走りであった。販売終了にはなっていないのでダイハツが諦めていないのは明らかだが、“第三の部屋”という肩書はウェイクに似合うものだと思う。シッカリ走って十分に荷物や道具が積めるウェイクは、まだまだ大いに売れる可能性があると思っているのだが……。
ちっちゃくて愛らしいけど出落ち感が
ハンパなかった「トヨタIQ」
最後にトヨタiQなのだが、非常に個性的なデザインとパッケージングで登場。デザインというよりもコンセプトが「謎すぎた」一台だ。「昆虫のような」とでも言えばよいのか、そのスタイリングは発表時にすでに人気の兆しを見せていたオラオラ顔でもないし、癒し系で日本らしさを感じさせる顔でもない。それゆえ個性的と言えるのだが、大人3人と子どもひとりが快適に過ごせるコンパクトカーという需要は日本にはなかった。トヨタらしい1mmも無駄にしないと言えるようなコンセプトを実現していたため、ボディサイズからは想像できない広さと、軽ではないボディサイズの恩恵ある走りを持っていたものの、全長が3m以下というシティコミューターが軽自動車相手に打って出るほどのメリットが望めなかった。
OEMで販売されたアストンマーティン・シグネットや後に追加されたGRMNなど、上質さや走りに特化していれば結果は違ったのかもしれない。レクサス顔だったら違った結果だったかもかもしれないし、いずれにせよ軽自動車がある国では難しいのを分かっていて発売されたのだろう。こういう取り組みをするから、トヨタもチャレンジするメーカーだと認識させてくれるし、失敗のあとの成功に期待してしまう。
そういえば、トヨタは過去にセラというまるで甲虫のようなキャノピーのようなスタイリングのシザースドアを採用したモデルがあった。挑戦するトヨタ、日本を代表する大企業故に保守的思われがちだが、意外と石橋を叩いて渡らないモデルがある。トヨタにも挑戦の歴史があり。iQは近年の代表格だろう。