遊び心が満載だったネイキッド
ご存じのとおり車名の“NAKED”とは、辞書的には“ありのままの”“剥き出しの”という意味。このネイキッドが登場した1999年当時を振り返ってざっと見渡すと、アルト、ミラ、ライフといったいわゆるセダンタイプのモデルや、ワゴンR、ムーブといったハイトワゴン系が市場のメインだったが、そのなかに忽然と姿を現したネイキッドは、なかなかユニークな存在だった。
「自由自在にクリエイティブ・カー」が、カタログ上の謳い文句。さらに「使い勝手がいい。自分勝手がいい。」と、担当コピーライターがさぞ「どうだ!」とばかりにプレゼンしていたであろう姿が目に浮かぶような、ユーザーの心に響くようなコピーも目に止まる。要するに飾り立てず、メーカーのお仕着せでもない、素材としてのクルマをどうぞご自由にお楽しみください! というのがこのネイキッドのコンセプトだったというわけだ。
思い出したのだが、筆者はこのネイキッドの実車を、発表前、某所に見せてもらいに出向いたことがあった。第一印象で初代のフィアット・パンダを想起したから、開発エンジニアから感想を求められ「初代パンダに4ドアがあってもいいかなと思っていました」と、現車に対して肯定とも否定ともつかない返答をしたような覚えがある。
ネイキッドでは左右後席が脱着可能(1脚約8kg、ヘッドレスト付きは約9kg)な便利さは、ハンモック式で脱着可能だった初代パンダの便利なシートを思い出させた。なおカタログにもシートの取り外し手順が紹介されているが、1:シートバックを前に倒す、2:ロックを外し、起こす、3:上へ引っ張って外す……と何とも肩の力を抜いた表記が。昔、クラシックミニに乗っていたときに、元のメーターをホワイトメーターに交換しようと思いヘインズのマニュアルに当たると、ついているメーターは“removed(引っ剥がせ)”と書いてあり笑ったが、それに匹敵した。
純正オプションにJ型&O型のフックが用意されていた
もうひとつ非常に細かなポイントであるが、リヤピラーの室内側に、片側6箇所、バックドアにも2箇所、“ネジ穴”が用意されているのも小さいことだが大きなポイントだった。しかもそのネジ穴は汎用性の高いM6サイズだったから、これはもう、ホームセンターに出かけて、このネジ穴を活用する方法を各自創意工夫して楽しみなさい、と言われているようなもの。
純正オプションのオリジナルアクセサリーにはこの穴に固定して使えるJ型、O型のフック(本体価格1600円、標準取り付け費600円=当時)なども載っていたが、23年経った今でも、筆者はネイキッドと聞くと、真っ先にこの“M6のネジ穴”を連想するほど、である。ちなみに筆者は、ホームセンターや資材館に1日いなさい……といわれてもまったく苦にならないタイプである。
同様に天井、ルーフサイド左右には4箇所のシステムバーを渡して固定するための、内径33mmの穴も用意されていた。もちろんこのバーを活用して使うネットラック、オーバーヘッドネット、ロッドホルダーなども純正用品として用意されていた。コロナ禍の影響で昨今、アウトドアがもてはやされているようだが、そうした流行りに便乗するまでもなく“使える”クルマに仕立ててあるのがネイキッドだった。
道具感に溢れるデザイン
一方で外観にもアイデアが盛り込まれていた。誰でも「おや!?」と思わせられるのはヒンジが剥き出しの4枚のドアだったが(経年変化は現認していなかったが、もしグリスが滲み出たとしてもそれは“使い込んだ感”の演出と見做していたのかも)、何とドアパネル(窓枠よりの下の部分)は前後のドアで同じ形になっていた。
いま、咄嗟にそれ以前の同様の事例を思い出せないのだが、そういう合理的な設計も、こうした“こてんぱんに使いこなす系”のクルマのコンセプトとの親和性が高い。この部分の説明でカタログに“ドアパネルは前後共通です。だからどうした、といわれればそれまでですが”と、ペーソスに溢れた表記があったのも微笑ましい。
なお4枚のドアはすべてほぼ直角まで開く構造だったため、乗降性、荷物の出し入れは非常にスムースにできた。ルーフやドアパネルにビードやプレスの入った道具感に溢れるデザインは、そういう配慮も盛り込まれてれていた。
工夫といえば、外観でいうとフロントバンパーが3分割になっていて、トルクスネジで固定されている構造をとっていた。つまり自分で脱着が可能ということで、バンパーコーナーであればもしも擦ってしまった場合でも交換可能となっていた。
カタログには何と“自分でも外せます、色を塗るなら丁寧に仕上げましょう”といったことまで書かれていたのは前代未聞といったところか。そういったこだわりが許された、気持ちの余裕があった時代に生まれたクルマだった……そんな風に思える。