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世界のゴルフも日本上陸時は「ナニコレ?」 日本人にドイツ車とはなんぞやを教え込んだ初代の衝撃

1974年に登場した初代VWゴルフ

ビートルの後を継ぎ「もっとも身近な輸入車」となったVWゴルフ

 100年に1度(「100年早い」ではなくて!)とは、歴史上それくらいの大きな単位で見なければありえない、あるいは起こらないような一大事のことを指してそういう。フォルクスワーゲンにとっては、「ビートル」が「ゴルフ」に取って代わることになった瞬間は、まさしく100年に1度レベルの大変革だった。

最初期はゴルフとビートルが併売されていた

 通称ビートルは1938年に「KdFワーゲン」として発表、1945年から本拠地(西)ドイツ・ウォルフスブルクにて「タイプ1」として生産開始され、1978年の生産終了まで(その後も世界各地で生産は継続、メキシコ工場では2003年まで生産された)さまざまな派生モデルも生まれた。ビートルに代わる主力車の模索も行われたが、時代の流れに追いつくにはいかにもクラシカルで、空冷・RRのビートルは、次世代のクルマにバトンを託すこととなった。

 そして大役を受け継ぐことになったのが、1974年に登場した水冷・FFの「ゴルフ」。とはいえ直ちにビートル→ゴルフの移行が実現したわけではなかった。写真は1977年の日本のヤナセの総合カタログだが、ビートルとゴルフは並んで掲載されており、この時点では「まだ」両車が併売されていたことを示す。しかもスペック表を見るとビートルには1303LEコンバーチブルが残されているのも興味深い。ビートルはこの翌年の1978年モデルの1200LEが正規輸入車の最終モデルとなった。

当時、背の高いハッチバックは目立ちまくった

 一方でゴルフはヤナセの手により1976年から初代の正規輸入が開始された。同じタイミングで新世代のVW車としてスポーツクーペの「シロッコ」、ハッチバックでゴルフの上位モデルの「パサート」も展開され、日本市場でもVWの新時代が始まった。

 そのなかで主力車種のゴルフは、当初は「ナニコレ!?」といった受け止め方があったのは事実。とくに全長3725mm×全幅1610mmと非常にコンパクトなボディサイズながら全高が1410mmとポコッ! と高く、この背の高さに「慣れ」を要するところがあった。当時、たとえば20~30型「カローラ・セダン」の全高は1375mmで、数字で見れば35mmの差だが、ゴルフはジウジアーロ作の安定感のある台形フォルム。リヤドイエロー、マイアミブルー、マースレッドなどクッキリとしたボディ色の設定もあって、日本の街なかでこの「新しいワーゲン」の走り始めたころの存在感はかなりのものだった。

飾り気なしでビシっと走るドイツ車の魅力を教えてくれた

 それと実用欧州車の鑑のような簡素な仕様も、日本のユーザーには馴染みが薄かった。何を隠そう筆者は1977年に運転免許を取り、最初の愛車をどうしようか考えたときに、最終的にこの初代ゴルフと「いすゞ117クーペ」(どちらもG・ジウジアーロ作だった)の二択に。若気の至りでゴルフにはパワーウインドウがなかったことから117クーペを選んでいたような気もする(三角窓はどちらにもついていた)。

 とはいえ座ると張りのあるシート、小さいのにゆったりとした室内空間、驚くほど広いラゲッジスペースなど、欧州実用車の実力の高さは初代ゴルフに教えられた。何といっても少し硬く、コンチネンタルタイヤのロードノイズも盛大ながら、高速道路をビシッと真っすぐに走りコーナリングも安定してこなすドイツ車の魅力を、このゴルフが存分に伝えていたことも確か。

 なお初代ゴルフの味を知った筆者は、117クーペの次に80年式の中古車の初代シロッコを愛車に迎えたのだった。ボッシュKジェトロニックがジュクジュクヒリヒリヒリ……と音を立てる1588ccエンジン(82ps/12.2kg-m)は3速ATとの組み合わせで、シュッ! としたスタイルに比して加速自体はごく大人しいものだったが……。

元祖ホットハッチの「GTI」も鮮烈だった

 ご存知のとおり初代ゴルフは、その後、FF・2ボックスハッチバックの範として、世界中にフォロワーを生み出した。アウトバーンの走りが日常のドイツ車にとって、キチンとしたダイナミック性能が与えられることは実用車であっても常識で、結果としてそのレベルの高さがスポーティだと受け止められ、その後の世界中の実用車クラスの基準車となり、ハンドリング性能がレベルアップしていくキッカケにもなった。

 初代ゴルフでは、ポルシェもカモると評判になった高性能車のGTIも忘れられない。日本市場へのGTIの正規導入はゴルフ2からで、筆者は並行輸入車の中古車を第三京浜で試乗した程度だったが、環八から入って多摩川を渡るころには瞬く間に大きな声では言えない速度に達していた初代GTIの活きのいい走りに感銘を覚えたもの。「GTIクラス」と呼ばれ、いわゆるホットハッチの元祖的なクルマでもあった。

実用車でオープンカーを楽しむ贅沢さも

 また初代ゴルフではカブリオ(「レ=let」を発音させるようになったのはゴルフ3をベースに4の顔が与えられた3代目のカブリオレから)の登場も見逃せない。カブリオ(レ)、オープンモデルというと、それまでの多くはスポーツカーや高級車だったが、そんな「様式」をゴルフのようなポピュラーカーのクラスで実現した点が魅力だった。そのため趣味性、ファッション性が高く、ある意味で贅沢なクルマでもあった。

 なおこのカブリオに関しては、カルマンギア、シロッコなどと同様にコーチビルダーのカルマン社が手がけ、幌は外側からルーフ表皮、ネスリン地、ゴム樹脂層、ネスリン地、シーリングの5層構造という入念な造りだった。

 いずれにしろクルマとしての味わい、魅力がすぐさま認知され、「もっとも身近な輸入車」といえばゴルフ、そんな存在になったのが初代だった。

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