2LターボとFRという今や希少なパッケージで人気
チューニングやモータースポーツを好きな人が『サンニー』と聞けば、BNR32型スカイラインGT-Rを思い浮かべる方が大半かもしれない。しかし忘れていけないのは同じく『サンニー』と呼ばれるもうひとつの名車、2000ccと後輪駆動のレイアウトが与えられたGTS-tタイプM(HCR32)だ。
新車で約250万円という若者も手が届きやすい価格、2ドアクーペのほかに4ドアセダンも選べる利便性、扱いやすいサイズの5ナンバーということもあり、ストリートやサーキットを席巻する1台となった。当時はどのような仕様が流行ったのか、チューニング誌「ヤングバージョン」の記事とともに振り返る。
同じ2LターボでもシルビアのSR20よりパワフル
チューニングのベースとして人気だったのは、価格やFRだからという理由だけじゃない。搭載するRB20DETエンジンは215psを発揮し、同時代のS13型シルビア/180SXを上まわる。直列6気筒の2000ccで低速トルクこそ若干の細さが気になるものの、高回転の吹き上がりや甲高いサウンドはGT-RのRB26DETT譲り。
またHCR32は魅せるドリフトが全国的なブームになった時期と重なっており、素直な操縦性でアフターパーツも多い後輪駆動車の需要が高かったのだ。チューニングのメニューも豊富。2000ccのまま吸排気系に手を入れるだけで十分にパワフルだし、TD06やK26といった社外タービンに交換する車両も多かった。さらに大きなパワーを欲するドラッグ仕様では、2300ccや2400ccへの排気量アップする方法も。
後継モデルのR33型スカイラインがデビューすると、スポーツグレードのGTS系は2500ccターボへと進化した。このエンジンに換装するだけで250psとプラス500ccの余裕が手に入るし、続くR34型では排気量こそ変わらないが280psとなる。エンジン型式が変わるので公認車検を取得する必要こそあれど、フルノーマルでも素のHCR32と比べれば力強さは別次元だし、それをベースにチューニングし500psや600psを目指すこともできた。
GT-Rの強心臓「RB26」をFRで楽しむこともできた
そして究極のスワップは想像できるとおり、GT-Rの心臓部としてお馴染みRB26DETT。しかし、1990年代の後半や2000年代の前半を振り返ってみると、RB20DETのままカスタムするユーザーが多かったように思う。モチロン費用や公認車検といった現実的な問題もあるだろうが、当時は3S-GTEやSR20DETといった2Lターボの名機が多かった。あえて排気量を上げずに同格のマシン同士でバトルを楽しんだり、GTS-tタイプMでGT-Rに挑むことへカタルシスを感じる人もいたのだ。
一方でGT-Rの特徴であるブリスターフェンダーこそ再現は難しいが、リヤスポイラーやエンブレムを移植した『R仕様』も多数。外装はさておきGT-Rからの流用はシートにステアリング、クラッチやブレーキなど機能パーツにまで及んでおり、GT-RがHCR32の人気を後押しした面もあるだろう。
グリップ/ドリフト/ドラッグとどんなカテゴリーでも戦える素性のよさに加え、手ごろな価格と星の数ほどあるチューニングのパーツやメニュー、後輪駆動ならではの振りまわす楽しさにリーズナブルな維持費。当時の若者を中心とするクルマ好きを魅了しただけじゃなく、今もHCR32を「歴代で最高のスカイライン」と高い評価を与える人もいる。HCR32スカイラインGTS-tタイプMは、GT-Rに隠れた存在なんかじゃなく、間違いなくチューニング界を彩る主役のひとりだったのだ。