数々の伝説を残した名門ランチアもいまは風前の灯火だが……
いまでこそ知る人ぞ知る「迷ブランド」になってしまっているが、かつてのランチアは高性能かつ高品質なクルマを造るメーカーとして自動車界に君臨していた。ランチアのラインアップにおける最上級車が、イタリア元首の公用車として使われるのが通例という「名ブランド」であったのだ。
「ランチア」という車名を見たり聞いたりした瞬間に、戦前車フリークは「ラムダ」や「アプリリア」、クラシックカー好きは「アウレリア」や「フルヴィア」、スーパーカーブーマーは「ストラトス」、世界ラリー選手権フリークは「037」や「デルタHFインテグラーレ」を思い浮かべるだろう。そして、ヤングタイマー好きは、歴代「イプシロン」や3代目「デルタ」をイメージするはずだ。
新型も噂されるプレミアム・コンパクト「イプシロン」
1994年にリリースされた初代イプシロンのボディデザインを担当したのは、ピニンファリーナに在籍時に「アルファロメオ164」を描いたことで知られるエンリコ・フミア。個性的なスタイルのプレミアム・コンパクトカーとして、日本でも注目された。12色の標準カラー+100色のオプションカラーで構成される「カレイドス」というカラーバリエーションのことを憶えている自動車趣味人も多いと思う。
ベースとなったのは「フィアット・プント」で、プラットフォームを縮めて使用していた。トランスミッションは5速MTが基本で、排気量1.2LのSOHCエンジン仕様では6速MTやCVTをチョイスできた。
2代目イプシロンは2002年に登場し、車名が「Y」ではなく「Ypsilon」と表記されるようになった。ベースとなったのは初代と同じようにフィアット・プントで、やはり、シャシーをショートホイールベース化したものが使われた。
ガソリンエンジン仕様に加え、ディーゼルターボエンジン仕様も輸入され、トランスミッションは5速MTと2ペダルMTの「D.F.N.(Dolce Far Niente =何もしない歓び)」という2タイプの中から選ぶことができた。さすがにカレイドスは継続されず、その代わりに外装色を大胆に塗り分けたBカラーと呼ばれる2トーンカラー仕様が用意されている。
3代目イプシロンは平凡な外見ながら中身は生粋のイタリアン
ボディ形状がそれまでの3ドアから5ドアへと変更された3代目イプシロンは2011年に登場。ランチアの親会社であるフィアットとクライスラーが2009年に資本提携していたことにより、2分割された伝統のランチアグリルは採用されず、一般的なデザインの平凡なグリルを装備していた。
このグリルを見て、古くからのクルマ好きはランチアブランドの終焉を予感したが、残念なことにそれが的中し、2012年に当時のフィアット・クライスラー・ジャパンが日本市場向けの「クライスラー・イプシロン」を発表。2014年に「FCA(フィアット・クライスラー・オートモービルズ)」が誕生した際に、今後ランチアブランドはイタリア国内のみで販売することがアナウンスされ、日本での販売が終了した。
違和感満点のなか、クライスラーの正規ディーラーで販売されることになった3代目。そのプラットフォームは現行型「フィアット500」用をベースにホイールベースを延長したモノで、アメ車の真横で売られていたが中身は生粋のイタリアン・コンパクトであった。インテリアは、さすがランチア! と感嘆できるもので、非常に高級感があるものだった。
本国では排気量1.2Lの直列4気筒「ファイア」エンジン仕様や、排気量1.3Lの直列4気筒ターボディーゼルの「マルチジェット」エンジン仕様もラインアップされていた。だが、「ガレーヂ伊太利屋」が日本に輸入したのは排気量0.9Lの直列2気筒ターボエンジンの「ツインエア」と、排気量1.3Lの直列4気筒ターボディーゼルである「マルチジェット」エンジン仕様の2モデルだった。トランスミッションは、5速MTとD.F.N.(2ペダルMT)が用意された。
イプシロンのユーズドカーは流通数が年々減少しているが、初代が45~65万円、2代目が40~90万円、3代目が60~115万円程度といった相場なので、タマがあるうちにゲットしておくといいだろう。
「じゃない方のデルタ」は出来が良すぎる5ドアのラグジュアリーサルーン
ここまで読み進めてくれたマニアックなアナタに、イプシロンとともにオススメしたいのが「じゃない方のデルタ」として知られる3代目の「ランチア・デルタ」だ。コンパクトカーというよりも5ドアのラグジュアリーサルーンであった3代目デルタは2008年にデビューし、内装にランチアが得意とするアルカンターラやポルトローナ・フラウ製の本革シートを採用していた。「ガレーヂ伊太利屋」がトータルで200台ほど日本に入れたといわれている。
発売当初に用意されたエンジンは、最高出力が120psおよび150psとなる2種類の排気量1.4L/直列4気筒ガソリンターボと、最高出力190psの排気量1.9L/直列4気筒ディーゼルターボだった。トランスミッションは、それぞれに6速MTとシングルクラッチ式の6速AMTを設定。
2010年に直列4気筒ガソリンターボエンジンの150ps版が最高出力140psのマルチエアユニット仕様と入れかわり、それと同時に排気量1.75Lの直列4気筒ガソリンターボエンジン(最高出力200ps)を搭載し、6速トルコン式ATを採用した1.8 Di Tジェット16Vが追加設定された。
2011年には、最高出力105psおよび120psの2種類の排気量1.6L/ディーゼルターボエンジンを積んだ1.6マルチジェット16Vと、最高出力165psの排気量2リッター/直列4気筒ディーゼルターボエンジンを搭載する2.0マルチジェット16Vが追加設定されている。
日本ではガレーヂ伊太利屋が2008年に150ps版/MT仕様の1.4Tジェット16Vを導入した。モデル末期の2014年までのトータルの販売数で考えてみると、どうやら1.6L/ディーゼルターボエンジン仕様が多く、排気量1.75Lの直列4気筒ガソリンターボエンジン仕様が少ないという傾向があるようだ。
イタ車のプロが選ぶ究極の1台、注目されてない今がチャンス
クルマ好きを悩ませる永遠のテーマのひとつとして、プライベートで使う足グルマを何にするか? という問題がある。オモシロイことに、スポーティな新旧イタリア車で、モータースポーツやドライブを楽しむユーザーを徹底サポートしている某有名スペシャルショップの代表と、これまたイタリアン・スーパースポーツカーを愛用している方にはお馴染みとなっている某有名スペシャルショップの代表が、足グルマとして3代目デルタの1.8 Di Tジェット16Vを選んでいる。
以前、新旧イタリア車を取り扱っている某代表に3代目デルタについて伺ったことがあり、その際にゲットすることができたイイ話を記しておこう。
「イタ車屋のオヤジが乗るクルマとしてほかにいいものがないので、3代目のデルタをずっと探していたんですよ。カッコイイからね。このクルマなら高級旅館に行っても平気。ハイクラスのホテルでも扱いがいいよ。正直に告白すると、3代目のデルタがデビューしたとき、えっ、これがでデルタ? って思ったんだ。でも、いま見ると本当にスタイリッシュだよね。カタチがイイ」
「ランチアじゃなきゃいけないシーンっていうのがあるんだよ。ランチアって、ボッテガのバッグとかを持って、ヒールとかを履いてオフィスに通っている女性にも似合うしね。お医者さんや弁護士さんが乗るクルマでもある。彼の国では“ランチア・カッパ”とかが社用車として使われることもあるよ。経費で落とすことができる最上位クラスのクルマらしいからさ」
「クルマ屋がふたりとも“いいクルマ”だと思って乗っているんだから間違いないね。ドライバーズカーなので、走って楽しい。高速巡行も楽しい。走行2万kmちょっとの個体をゲットして、もうすぐ4万3000km。伊勢とかにも行った。低速トルクがすごくあって、すぐ加速してしまうから渋滞路とかは逆に大変なんだけど、リヤシートがリクライニングするだけでなく、前後スライドまでするので、とにかく使い勝手がいいんだ。うちの奥さんはアバルト124スパイダーで出かけるのはイヤがるから、プライべートも仕事も使い勝手がいいデルタに乗っているよ。ドリンクホルダーに飲み物を入れておくと、エアコンの冷気で冷えるんだよね」
と、このように、3代目デルタはイタリア好きの通が選ぶ究極の1台であり、相棒にすることで快適かつ刺激的なカーライフを堪能することができる。ユーズドカーの相場が100~190万円程度なので、自動車趣味人がその魅力に気づいて買い漁る前に購入しておくが得策だ。