すべてを笑いに変えることで喧嘩にならない
クラシックカーラリーと聞いて、皆さんはまずどんなことをイメージするだろう? トヨタが参戦しているWRCもラリーなので、未舗装路や山坂道を速く走った者が勝ち、というモータースポーツのことを想像してしまうかもしれない。しかし、クラシックカーラリーは違う。走行時のスピードではなく、クラシックカーを正確に運転する技術力を競い合っているのだ。
どういうことかというと、クラシックカーラリーでは主催者によって決められた区間を主催者が設定した時間でいかに正確に走行することができるかを競っている。1000分の1秒単位で計測されるPC競技と呼ばれるこの腕比べ(前輪で計測ラインを踏みながら計測していくので線踏み競技とも呼ばれる)と、主催者によって設定されたすべてのポイントで通過証明となるスタンプを捺してもらうことをメインのコンテンツとして実施されている。
スタンプを捺してもらいながら、全ルートを走り切らなければ受賞対象とならない点も特徴で、冒険旅行の要素もあるといっていい。
ドライバーに目的地を指示するコ・ドライバーが重要
クラシックカーラリーは、ドライバーと助手席のコ・ドライバーという2名1組で参加するのが基本となる。コ・ドライバーがルートマップのコマ図を読み、どちらに進むのかをドライバーに指示し、PC競技では計測器の操作を担当している。
ドライバーは助手席からの指示に従っているだけなので、クラシックカーラリーの主役はコ・ドライバーだといえるが、ご夫婦/男女ペアで参加する場合、奥さま/ラリー好きのパートナーの指示で旦那/自動車趣味人の男性がクルマを走らせることになる。ということで、ふたりの関係が円満でなければドライバーはPC競技に挑むことができず、どちらに向かえばいいのか分からないので、安全に完走することすらできないわけである。
そういったことから、クラシックカーラリーは“熟年離婚”を回避するためのイイ処方箋になるといえ、長きにわたっての円満を望むご夫婦/男女ペアはぜひともPC競技がある本気のラリーにエントリーしていただきたいのであった。
横浜開港の歴史を伝える開港記念イベント「ハマフェス Y163」のサテライトイベントとして、2022年5月20日(金)~22日(日)までの3日間にわたって開催された「クラシックジャパンラリー2022 横浜 Y163」。同イベントで、気になるエントラントに「一緒にエントリーするようになったキッカケ、PC競技で失敗してしまったときの対処法、円満の秘訣」などを伺ってきた。鋭意お伝えしよう。
横田正弘さん/大木悦子さんペア 1923年式 フォード モデル T
クラシックカーラリーの常連として知られる横田さん/大木さんペアは、どんなクルマに乗っても毎回正確にPC競技をこなす常勝チーム。16年前から一緒にエントリーしており、正弘さんによると「楽しい遊びがある」と言ってコ・ドライバーの悦子さんを誘ったそうだ。悦子さんのほうは「特別、頼まれていません。一緒に参加するために始めたので」と話してくれた。
PC競技で失敗してしまったときはお互いに無言になるらしく、ケンカをしない秘訣は、正弘さん=逆らわない、悦子さん=我慢すること、と回答してくれた。ドライバーのみならずコ・ドライバーも超~楽しんでいるそうで、オープンモデルは髪が乱れるし、雨で濡れるので、コ・ドラはイヤではありませんか? という質問に対して、正弘さん=勝負、順位優先です(!)、悦子さん=それはそれで楽しいですよ、と答えてくれた。
正弘さんはラリーに仲よく参加するため、日頃から悦子さんとラリーの話をなるべくたくさんすることを心がけているそうで、それで楽しみが倍増するのだという。悦子さんは「日ごろから心がけていることは特別ないです。いまはもう、ほとんどケンカもせず仲よしです。年を取るとケンカは面倒です」と回答してくれた。
三上高太郎さん/三上菜穂子さんペア 1973年式 ポルシェ 911T
Kindleで5巻まで発売中の「幸せはナローポルシェに乗って」の著者として知られる三上さんは、1973年式のポルシェ 911Tで菜穂子さんと参加した。初参加のラリーは2018年6月のEBI(ポルシェ販売店である国際自動車主催の911限定イベント)で、このときから一緒にエントリー。ふたりにとっての初ラリーを991型のポルシェ911で走ったそうだ。いま思えば超入門編のイベントだったらしい。
菜穂子さんによると、一番最初にコ・ドライバーを頼まれたときに高太郎さんから「ラリーイベントがあるから参加してみない?」と誘われ、そのときにコ・ドライバーという存在を初めて知ったとのこと。イベント好きなので歓んで参加したものの、クルマ酔いがキツかったそうだ。
1000分の1秒単位で計測されるPC競技に失敗はつきものだが、ミスったときの夫婦での対処法については「ごめん! と謝り、すぐに忘れるようにします。いかにコストをかけないで勝つかという作戦会議が一番盛り上がり、イベント後は軽く落ち込んでおります」と回答してくれた。ケンカしないようにする秘訣は? という質問に対する答えは「あらゆる事象をネタとして捉え、すべてを笑いに変えてしまいます」というものであった。
ということで、コ・ドライバーもイベントを堪能できているそうで、菜穂子さんは「景色、お食事、お土産が楽しみです」と話してくれた。ちなみに、オープンモデルは髪が乱れるし、雨で濡れるので、コ・ドライバーはイヤではありませんか? という質問を菜穂子さんにもしてみた。「三上家のナローポルシェと356には屋根とエアコンがあるので私は大丈夫ですが、オープンに乗ったことのある奥さまはガソリン臭いし、雨だと寒いし、何で私はこんなことをやっているんだろう? と悲しくなる、と、おっしゃっていました。その奥さまは、ラリーにほとんど参加されません」と回答してくれた。
ラリーに仲よく参加するために日ごろから心がけていることを高太郎さんに伺うと「クルマに興味のない妻にも、空冷ポルシェと水冷ポルシェの違い、風戸 裕氏や高橋 徹氏のヒストリー、ミシュランタイヤとブリヂストンタイヤの構造の違いなどを日ごろから分かりやすく話しています。一緒に外出するときは相手好みの洋服を着るようにしていますね。期待値を下げることも大切だと思います」とのこと。
過度にならない程度に、空冷ポルシェと水冷ポルシェの違いを力説する高太郎さんの微妙なサジ加減が、功を奏しているということだろう。
石渡博和さん/石渡えみ子さんペア 1948年式 チシタリア コロンボ バルケッタ
本国イタリアで開催されている、ミッレミリアでの複数回にわたる完走歴を誇るチシタリアで参加した石渡さんペアは、2年前ぐらいから一緒にエントリー。博和さんによると、勝手にエントリーしたあと、イヤがる妻の前に札束を置き、頼みこんだ(!)そうだ。
PC競技で失敗したときは「焼肉食いてぇーなぁー」などと話題を変えるらしく、とにかく笑わせることに努めるとのこと。そして、オープンカーでケンカすると恥ずかしいですよ! とインパネに書いておくのが、ケンカしないようにする秘訣なのだという。
コ・ドライバーを務めてくれている奥さまのえみ子さんを見て、博和さんは「どう見ても楽しそうじゃない」と思っているとのこと。その理由はチシタリアがオープンモデルなので、えみ子さんの髪が乱れ、雨で濡れるため「どう見てもイヤそう」だと感じているそうだが、日ごろからコ・ドラさまへの抜かりのない接待を心がけていることによって、毎回、なんだかんだ言って石渡さんチームは上位に食い込んでくるのであった。
クラシックカーラリーは、独りで参加することもできるが、