高性能の証「スモールブロックV8」を大きくアピールしたコルベット
フォードのアーリーV8は戦後まで生き残り、マーキュリーの1952年モデルまでに搭載される長寿ぶりでした。しかし基本設計は1932年といかにも古く、フラットヘッドと呼ばれるサイドバルブ・ヘッドなどはすでに前時代的になっていました。そこでフォードは53年にプッシュロッドでバルブを駆動する、OHVレイアウトの通称「YブロックV8」を開発します。
一方、ライバルのシボレーは、直6をスタンダードエンジンとして使用してきましたが、1955年には直6に代えてOHV機構を取り入れたV8エンジンを開発しています。排気量は265cu.in(約4343cc)でしたが、これは当時331cu.in.(約5425cc)とか365cu.in.(約5982cc)を搭載していたフルサイズ・キャデラックのV8エンジンよりも随分小さかったことで「スモールブロックV8」と呼ばれるようになりました。このスモールブロックV8を有名にしたのは、なんといってもコルベットに搭載されたことです。
じつは開発の初期段階からデビュー当時のコルベットは、直6エンジンを搭載していました。「BLUE FLAME」と名付けられた直6エンジンは235cu.in.(約3851cc)の排気量から150psを絞り出していましたが、スモールブロックV8は約4343ccの排気量から195psを捻り出しており、その効果は明らかです。さらに直6よりも随分コンパクトに仕上がっていて、エンジンの単体重量も20kgほどダイエットされていたということで、軽量コンパクトを旨とするスポーツカーにはもってこいのパワーユニットだったというわけです。
アメリカ伝統のエンジン、ローテクと断ずるのは早計
初代モデルの登場から3年目となる1955年に初めてプッシュロッドV8を搭載したコルベットは、その後もプッシュロッドV8を搭載し続けてきました。そして1983年に登場した4代目(C4型)に、89年モデルからV8ツインカムを搭載したモデルが追加設定されて以降も、プッシュロッドV8はコルベットの基準エンジンとされてきました。
そう考えていくと、アメリカンなプッシュロッドV8に市民権を与えたのはキャデラックとフォードですが、それ以上にコルベットが世界にアピールしたことも見逃せません。最初に書いたように、近年はツインカムも登場していますが、アメリカ車と言えばプッシュロッドのV8です。それは、カムやバルブを増やしてちまちまパワーを絞り出すよりも、排気量を上げてガソリンをたくさん送り込んで大パワー、大トルクを捻り出す方が国民性に合っていたのでしょう。産油国でガソリンもふんだんにありましたから。
ただし、プッシュロッドをローテクと判断するのは早計です。ヘッドの上に重いカムシャフトが2本もあると重心高が高くなってきてしまいますし、複雑化することでトラブルにも繋がると、あえてプッシュロッドに固執していた面もあったようです。いずれにしてもプッシュロッドやロッカーアームからのサウンド(?)も楽しめるのが、アメリカンV8の大きな魅力であることに変わりはありません。