誕生から30年以上! だから何が起こってもおかしくない
令和元(2019)年8月に30周年を迎えた第2世代。人間に例えるなら何歳になるのだろうか? 他車種の生存率を考えればかなりのご高齢だ。もはや何が起きても不思議ではない。走行距離が少ないからと安心できる問題でもない。ここであらためBNR32のトラブルと弱点を見直してみよう!
(初出:GT-R Magazine148号)
経年劣化が原因で思わぬ箇所にトラブルが発覚する
誕生から30年以上が経った現在もなお多数が現役でストリートを走り、サーキットを楽しんでいる車両さえある。これは考えてみればかなりすごいことのように感じるし、GT-Rファンは30年を過ぎたことを感慨深く祝ったことだろう。
しかし裏を返せば30年以上の月日が流れているのだ。素直に喜べない一面もある。第2世代オーナーが常々抱いている悩みと苦悩。経年劣化と純正部品の製造廃止問題である。この二つの要素について、現状では何らかの対策が講じられている。しかし、この先あとどれくらい愛車と共に過ごせるのだろうか。これはRオーナーにとって切実な悩みなのだ。
とにかく愛車に致命傷を負わせない。それが最大の解決策なのだが、話はそう簡単ではない。細心の注意を払えば事故などは防ぐことができるだろう。しかし時間を止めることはできない。経年劣化でゴム類はどんどん硬くなっていくし、回転が生じるような場所はどんどん磨り減っていくのだ。ならば、致命傷となる前にトラブルを発見し、対処していくのが最善の策となるだろう
そこで、第2世代Rの修理やメンテナンスを多数手掛けてきた、『目黒メンテナンスサービス』の目黒眞也代表に「今だからこそ、あらためて点検しておきたい30項目」について教えていただいた。
「まず最初にどのR32も30年近く経っているわけですから、何が起きても不思議ではない、と心得ておいたほうがいいと思います。どんなことでもあり得ます」と言う目黒代表。最近驚いたトラブルはブレーキホースの劣化だったそうだ。
GT-Rの専門医が体感している近年増加するトラブル
「皆さん、ブレーキのホースは永遠だと思っていませんか? 先日立て続けに起きたトラブルなのですが、純正のホースからオイル漏れが起きたのです。しかもつなぎ目うんぬんではありません。ホース自体が劣化により裂けていたのです」
ほかにもそういった経年によるトラブルは多い。しかし今のところ、だいたいは直せると心強い言葉。その中でいくつか対策が困難な場所がある。その代表例がシートベルトであり、アテーサE‒TSだ。目黒代表も今回の30項目の一つに挙げているが、シートベルトは巻き取りができなくなるならまだいい。逆に締まったまま出なくなると、もう交換するしかなくなる。しかし中古パーツもなかなか少ないし、あっても価格は高騰している。またブレーキのマスターバックも製廃となっており、入手は困難。
こういった部分を少しでも延命させるため、周囲のトラブルにも目を配るのが重要となる。たとえばブレーキのマスターシリンダーはオイル漏れの不具合を抱えることが多いが、放っておくとマスターバックを傷めてしまう。その前にトラブルの種を見つけ対応したい。
「もはやR32はすべてが正常で絶好調というのは難しい。気付いたところを少しずつ直しながら付き合っていくのがいいでしょう。われわれのようなプロに相談していただき、メンテナンスすべき優先順位を決めていけばよいと思います。一気にやろうとすると時間も予算も嵩むだけですからね」
プロの意見を聞き、自分でもしっかりR32と向き合う。過保護にする必要はない。乗らなければ延命できるわけではなく、逆に各部の固着など、不具合の原因にもなりかねない。音、振動、臭いなど、日頃から五感をフル活用して正面からR32と向き合えば、トラブルが大きくなる前に対策を講じることができるはず。
というわけで、あらためてR32GT-Rのウィークポイントを再認識するため、代表的なトラブルを紹介する。ぜひ今後の参考にしていただきたい。
R32GT-Rで点検したい代表的な30項目を知る!
1.バッテリーターミナル
ヒュージブルリンクが溶け、繋がってはいるが通電しない状況に陥ると、電気が足りずエンジンが止まったりHICASランプ点滅など多様な不具合が出る。ハーネス側が溶けた場合はコネクターが同じなのでヒュージブルリンクを2本入手し配線を切って繋ぐのが得策。
2.クランク角センサー
三菱製のクランク角センサーの場合、中央のゴム部分を触りブルブルと動いていたら軸がダメな証拠。交換したことがないクルマはサビが出ていることも多い。ここはエンジンの要なので最長でも20万km走行が限度。普段走らないクルマも怪しい。兆候はなく、ある日突然エンジンが止まってしまうので、交換した記憶がない場合は一度点検してもらいたい。
3.エアフロメーター
R32の最多トラブルがエアフロメーター。振動が多い場所なのでハンダが割れて配線がはずれてしまうのだ。かつて多かったセンサー部の汚れなどではなく、内部の基板のハンダが劣化してトラブルに。
4.パワートランジスター
内部が熱や経年で劣化。交換するしかない。よく壊れるのでR32はストックを持っている人も多い。電圧に関わる部品なので、不具合が出ると問題が大きくなるので信頼できる純正が一番いい。息継ぎしたら要点検。
5.イグニッションコイル
イグニッションがパンクするとパワトラ同様、1気筒死んだようにバスバスと吹けない症状が出る。その場合はパワトラかコイルかを疑う。配線がグズグズになったりコネクター部がボロボロと崩れ落ちることもある。
6.インジェクター
本体からのガソリン漏れ。穴などから漏れ出し本来黄色い部分が茶に変色。エンジンルームを開けた瞬間にガソリン臭がしたら交換。また、長期間不動だったクルマは内部でガソリンが腐り固まり動かなくなることもあるので注意。
7.ブレーキマスターシリンダー
マスターバックに近い部分などからオイル漏れを起こす。周囲にオイルが付着して、とくにゴム製品などを傷めてしまうので注意。オイルが減っていたら要点検。マスターバック内に入ると内部のゴムがドロドロになり交換するしかなくなる。
8.クラッチマスター&オペレーティングシリンダー
ブレーキ同様マスターシリンダーのオイル漏れでマスターバックを傷める。内部がダメになると斜めに当たってシリンダーを削りグキグキ音発生。末期はクラッチペダルを伝い左足がオイルまみれになる。
9.ABSユニット
R32はABSユニットがダメな車両が増えた。シャフト部からのオイル漏れが多い。不具合が出ると修理は難しく、製造廃止なので交換も不可能。目黒メンテナンスサービスではオリジナルパーツを用意しキャンセルしている。
10.パワステポンプ&ホース
パワステポンプはプーリーがカクカクと動くようになってしまう。その前に軸やホースからオイルが漏れ出す。カシメ部は要注意。目黒メンテナンスサービスでもパワステトラブルが3台連続で入るなど多発した箇所だ。
11.エアコン
コンプレッサーが焼き付くとヒューズが飛ぶことも。エアコンガスの圧力が高いホースからもガスが抜ける。ボルト1本でしか装着されていないので弱いのだ。目黒メンテナンスサービスは独自に2本のボルトで留めるアダプターを用意。ガッチリと固定して対応する。
12.ヘッドライト&スイッチ
スイッチの内部が接点不良を起こす。酷くなると夜間にスイッチ付近からパチパチと火花が出ていることも。そうなると近辺の配線が燃える。ライト本体もカプラー損傷していたり、光軸調整の樹脂パーツが劣化して調整が不可能になってしまうこともあるので一度チェックしたい。
13.ハザードスイッチ
押したら戻らない、ロックしない事象が多い。製廃なので交換不可。リターンスプリングの劣化などが原因だ。戻らない場合はスイッチの窪みにノブ状のものを付けて、引っ張って戻す。目黒代表はノブ代わりにカウルトップ中央のクリップを逆さまにして突起として代用している。
14.エアコンアンプ&アクチュエータ
エアコンアンプ(コントロール部)の表示が消えたり、各々のスイッチが反応しないなどトラブルも増えてきた。温度を変えるモーターと風向きを変えるモーターから異音が出始めたら、最終的には動かなくなってしまう。
15.シートベルト
シートベルトのトラブルは大問題。ベルトが戻らないと車検に通らないからだ。原因は巻き取りのバネがダメになってしまうこと。巻き取らないのはまだいいが、ベルトが出てこなくなると致命傷だ。
16.ドアガラスモール
モールがシワシワになりクッション部がカチカチになると、ガラスに筋状の傷がついてしまう。キズが付いたら諦めるしかないので、そうなる前にモール類の交換がお薦め。しかし全部やると高額なのが問題だ。
17.ドアヒンジ&ストライカー
ヒンジ部が劣化するとドアを開ける度にガクンと落ちるような感覚。また、ストライカーは本来ゴムで巻かれているはずが、擦れてなくなっていることも。ストライカーは安価なパーツなので気付いたら交換。ヒンジは交換&サビ対策必須だ。
18.ガラスモール&ウェザーストリップ
ガラスの角張った部分が上下するときにウェザーストリップを攻撃し穴が開く。酷いと室内に水が入る。リヤガラスモールはめくれて隙間に雨水が入りサビ発生の原因になる。こちらも酷い状況になる前にリフレッシュしたい。
19.パワーウインドウ&アンプ
こちらも定番。アンプがダメになり、突然パワーウインドウが動かなくなる。スイッチはそれ自体で動かなくなる現象も。アンプはNISMOヘリテージでラインアップしているので交換で対応可能である。
20.油圧計
油圧メーターが0から動かない。もしくは突然0になる場合はセンサーの不良が原因である。逆に針が振り切ってしまうような場合はメーター本体のトラブル。基板のハンダが剥がれているなどの原因が考えられる。新品はないので修理を依頼するしかない状況だ。
21.タコメーター
走行中に突然タコメーターの針が踊り出したり、振り切ったりするトラブルも多発。こちらもやはり本体の基盤不良の可能性が高い。しっかり状況を確認して、修理しておきたい。純正パーツが出ている場合は新品に交換するのもいいだろう。
22.スピードメーター
針が振れたり、不動になったりという症状。メーターケーブルの劣化が多い。折れた場合は要交換。動かなくなるとコンピュータにスピードメーターの入力がなくなるためフェールセーフが働き、ハイキャスランプが点灯。ステアリングが重くなってしまうこともある。
23.ワイパー
フロントはワイパーの軸が劣化してガタが発生。冬場は雪などの重さによってトラブルになることも。酷い状況になるとボンネットと干渉してしまう。リヤはワイパーナットがサビで外せなくなるトラブルが多く水漏れの原因にもなる。
24.テールランプ
テールランプの最多トラブルは雨漏り。シールしているブチルテープが劣化して、トランク内部に水が入ってくる。トランクルーム後方が濡れていたら疑いたい場所。前方の場合はリヤワイパーのサビなどを点検してみよう。
25.アテーサE-TS
圧力スイッチからのオイル漏れ、アキュムレータの劣化、ポンプの異音、パイプのオイル漏れなどトラブルの原因は多数ある。オイルは定期的に規定量が入っているか点検したい。NISMOヘリテージでも修理を行っている。
26.ボンネットヒンジ
ヒンジがサビて、ボンネットが閉まらなくなる。軸が固着しないように定期的に油を刺すなどメンテしたい。膜を張るフッ素系がオススメだ。目黒メンテナンスサービスも専用メニューを作るほど多いトラブルである。
27.フロント足まわり
純正だと3~4万kmでアッパーアームのガタが発生し始める。ほかにタイロッドエンドや各部ボールジョイントのガタなども注意。ゴムの部分やそれぞれのつなぎ目部分は、すべてにガタや劣化の可能性があると覚悟しておきたい。
28.リヤ足まわり
ハイキャスのタイロッドエンドやエンドジョイントのガタが多い。リヤメンバーブッシュのシリコンオイル漏れも注意。加速時に「ゴン」という音がする場合、デフマウントのブッシュ劣化を疑ってみよう。
29.前後デフ
各部のオイル漏れや異音などデフ周辺のトラブルも多い。デフはシール部が多く、つまりオイル漏れの原因となる場所が多いということ。また、とくにリヤデフからの異音もよくあるそうなので注意だ。
30.ミッション
フロントシールのオイル漏れ、リバーススイッチ不良など、ミッションの不具合も多岐に渡る。シフトチェンジ時のガリッという音はミッション本体、発進時にギヤの入りが悪いのはクラッチだ。
30年前とは違うGT-Rとの付き合い方を考える
今回目黒代表が提示した「R32スカイラインGT-Rに多いトラブル30選」は、あくまで代表的なものだ。劣化や不具合はまだまだ枚挙に暇がない。しかし、すべてに目を通してみると、未然に防げることもけっこうあるな、という印象である。
GT-R Magazineが所有するR32スカイラインGT-R V-spec II号も運転席側のガラスに傷が目立つ。もっと早くドアガラスモールの劣化に気付いていればよかったと感じた。さらに、新車当時と30年経った今はやはり違うということも再認識できた。例えば「項目4」のパワトラについて。かつてはパワーアップするためのパーツとして注目された。純正よりもパワーを上げられるアフターパーツも多い。まだ各部が元気な新車のころならそれもまた楽しいだろう。しかし、今は各部の配線が弱っていることが容易に想像できる。そこに大きな力が加わったらどうなるか。各部に負荷を掛けるよりは、これから先は純正を使うのが安全策だろうと目黒代表も話す。点火系に無闇に手を加えるのは、第2世代Rにとって得策ではない。クルマも人間と同じで年を取るということだ。
とはいっても、GT-Rの置かれている環境は他車に比べて遙かに幸せだ。まだ純正部品もあるし、NISMOヘリテージも活性化している。また、純正がなくなり手立てがない、と悩んでいると、誰かが代替案を考え出し、救いの手を差し伸べてくれる。かつてコンピュータが製廃となり、基板が壊れたら直せないという話になった。しかし、ちゃんと『キャニーエクイップ』が修理をしてくれるようになった。懸案のアテーサE-TSについても、NISMOヘリテージが修理という形で対応している。多くの人に愛され応援されているGT-R。日頃のメンテに気を使えば、まだまだ長く付き合えるのだ。