多くのクルマ趣味人を魅了してきた「ハイドロニューマチック」
1919年の創業以来、シトロエンは前衛的かつ個性的なクルマばかりを造り続けてきた。電気自動車やプラグインハイブリッド車といったLEV(Low Emission Vehicle)が普及してきた現在も、自動車趣味人が「さすがだな!」と思うようなアバンギャルドなモデルを鋭意リリースしている。
その歴史を辿ると、シトロエン独自のものだと言えるスタイリングや機構が存在していることに気づく。前者はエレガンスとダイナミズムが融合したエクステリア、後者は「魔法の絨毯」とも称される「ハイドロニューマチック・サスペンション」だ。
極上の乗り心地と快適性、操安性を実現したシステム
ハイドロニューマチック・サスペンションとは、スプリングとダンパーの代わりに高圧窒素ガスと鉱物性オイル(後年は化学合成オイルを採用)が用いられた自動車用サスペンション機構のこと。窒素ガスとオイルが「スフェア」と呼ばれる球体の中に入っている。簡単に説明すると、球体の上半分に封入された窒素ガスがスプリングの役割を果たし、ゴムの膜で仕切られたもう半分を行き来するオイルの量、流速、圧力にダンパーとしての機能をもたせている。
1955年に発表されたシトロエンDSが根幹を成すシステムとして採用したことで、シトロエン独自の機構として有名となった。DSではハイドロニューマチック・システムの油圧動力を、サスペンション、パワーステアリング、ブレーキブースター、クラッチ動作を自動化したセミオートマチックトランスミッションの制御にも利用し、乗り心地、快適性、操縦安定性を高水準なものとしていた。
電子制御を組み込み「ハイドラクティブ」として進化
自動クラッチとギヤセレクター以外の機構は、SM(1970年登場)、CX(1974年登場)、BX(1982年登場)にも採用されたが、BXからパワーステアリングが普通の油圧式となった。さらに、XM(1989年登場)では従来のハイドロニューマチック・サスペンションに替わり、前後の各中央に1スフェアを追加し、電子制御を組み込んだ「ハイドラクティブ・サスペンション」が新たに採用された。
ハイドラクティブ・サスペンションのセンサーは、ハンドルの切れ角および回転速度、アクセルの開度および開閉速度、ブレーキ圧、車速、車体の揺れなどを感知し、その情報をもとにコンピューターがオイルバルブを開閉して制御。エグザンティア(1993年登場)は、このハイドラクティブ・サスペンションを進化させた「ハイドラクティブII」を導入した。