軽妙だったが強烈なコピーが多かった
日産車のキャッチコピーというと、思い出すのは1970年(昭和45年)にモデルチェンジで登場した2代目サニーの「となりのクルマが小さく見える」だ。じつに52年前だから生まれる前の話だという人も多いと思う。筆者は生まれていたので、TVコマーシャルでは「となりのクルマが小さく見えま〜す!」と子どもが言っているのを聞いて(観て)覚えているが、軽妙だったが強烈なコピーだったことは間違いない。
日産サニー(初代)/となりのクルマが小さく見える
ご存知かもしれないが、この場合の“となりのクルマ”とは初代トヨタ・カローラのこと。初代カローラは1966年11月の登場で、同じ年の4月にひと足早く登場した初代サニーが1000ccで登場したのを追いかけて、“プラス100の余裕”と銘打ち1100ccエンジンを搭載していた。
その1100ccのカローラへの反撃に出たのが2代目サニーで、エンジンの排気量はカローラ+100ccの初代サニーに対して200ccアップさせた上、全幅も初代カローラに対してシッカリと10mmだけ拡大。室内空間なども“クラス最大”“クラス一”を謳いながら「小さく見える」とやったのだった。マイカー時代の幕開けといわれるころのことで、サニーもカローラも、軽自動車からステップアップして最初に選ぶ“マイカー”だった。
日産パルサー(初代)/パルサー・ヨーロッパ
少し年代が進んで、1978年に登場した初代パルサーの「パルサー・ヨーロッパ」も印象的な打ち出しだった。パルサーはそれまでのチェリーに代わるモデルで、チェリー同様のFFを採用。欧州、北米などへも輸出された。写真のカタログではパルサー単独で写っているが、当時はVWゴルフ、ルノー5、ミニなどを一緒に登場させたカットが広告などでも使われ、世界基準の性能をアピールした。
日産ブルーバード(5代目)/ブルーバードお前の時代だ
またまた時代が飛ぶが、1979年に登場した910型6代目ブルーバードでは「ブルーバードお前の時代だ」と謳ったコピーにはインパクトがあった。人気が高まることなくわずか3年4カ月で終わった5代目・810型からの一新とあって、大胆なイメージチェンジを図り、キャラクターに沢田研二を起用。
彼の当時の人気にあやかるかのように、カタログでも“時代をリードするヒーローの登場”“ザ・スーパースター”といった表現が見受けられる。もちろん名車510型の再来と評価されたクルマ自身の魅力も大きく、ターボ車が設定されたSSSなどが注目された。
日産サニー(6代目)/TRAD SUNNY
冒頭で2代目を取り上げたサニーだが、910型ブルーバードの少しあと、1985年に登場したB12型6代目サニーも、直線基調のクリーンでシンプルなスタイリングが魅力だったが、このデビュー時に使われたコピーが「TRAD SUNNY」だ。TV−CMでは“ヒア・ゼア・アンド・エブリホエア”などビートルズの曲を流し、「なかなか、シブイんじゃない。」のサブキャッチとともに、控えめなセンスのよさを伝える広告展開。カタログは白地のシンプルな体裁だった。
日産シルビア(5代目)/ART FORCE SILVIA
シンプルにセンスをアピールしたクルマでは、ほかに1988年登場のS13シルビアがあった。CM、デザインの話題の際にも取り上げたことがあるが「ART FORCE SILVIA」のメッセージは、カタログでも静かにインパクトを持たせており、「時代は、次のクルマを待っていた」のサブキャッチは、ライバルのホンダ・プレリュードへのメッセージでもあった。
日産レパードJ.フェリー/美しい妻と一緒です。
静かといえば、1993年登場のレパードJ.フェリーの「美しい妻と一緒です。」も、クルマのキャッチコピーとしてはなかなか画期的だった例のひとつ。どう読み解けばいいのかナゾの部分もあったにせよ、サブで「美しきパートナーへ、そして、心優しきドライバーへ。レパードJ.フェリー、あなたの求めていた本当の高級車がここにあります。」と伝え、北米市場で評価を得たインフィニティ・ブランドを日本でも味わってみてはいかがでしょう? といったアピールだったのだろう。
日産プリメーラ(初代)/プリメーラパッケージ
一方で前後するが1990年登場のプリメーラでは「プリメーラパッケージ」とし、豪華さや高級感よりも、欧州車調の実用性、機能性、走りを打ち出しにしていた。カタログも開くと最初に見開きを使って車両レイアウトの図面を載せる力の入れようだった。
日産フェアレディZ(4代目)/スポーツカーに乗ろうと思う。
そして日産車のキャッチコピーとして印象的だったのが、1989年に登場したZ32型フェアレディZの「スポーツカーに乗ろうと思う。」と、1990年に登場したステーションワゴンの初代アベニールのときの「スポーツカーの次に来るもの。」だった。
“連作”のようなこの2車のキャッチコピーは、折りしも90年代が始まるところで、新しい価値観、新しいものの考え方を提案するかのように打ち出してきた。とくにZ32型フェアレディZは、Zのあり方を再定義した人気車だったが、クールな体裁のカタログは、前半でスタイリング、デザインを堪能させ、後半でメカニズムの解説を“熟読”させる構成で、手に取ればいやが上でも新しいZの世界観に浸ることに。
日産アベニール(初代)/スポーツカーの次に来るもの。
アベニールも、ワゴンではありがちな使用例を示すカットはほどほどに、風景の中にクルマを置き、アベニールがある暮らしの魅力を伝えていた。