往年のラグジュアリー・セダンの佇まいを残す
さあ、あらためて1932年製シボレーを見てみよう。すでに褪色してわかりづらいが、このクルマは黒とブルーの上品なツートーンだったのだ。ダッシュボードも同様で、こちらのほうが色が残っている。さらにラグジュアリーな2色のピンストライプが施されていたことが資料から判明した。ホイールは錆が激しくレストア作業で苦労した部分だが、ケビンが1本ずつ仕上げてカラーも再現している。
後部座席に豪華なグリップやカーテン、フットレスト、ウインドウクランク(一番後ろの窓も開閉する)が備わっているところをみると、運転手つきの社用車を想定したモデルだったのかもしれない。シートもボタン締めでラグジュアリーだ。なお、「スペシャル・セダン」は、ラインアップのなかで2番目に豪華な仕様だった。また、ウインドシールドが換気用に10センチほど上がる珍しいギミックがついている。
エンジンはオリジナルのストーブボルト・インライン6、194キュービック・インチ(3180cc)。オイルで洗浄する、通常のレストア作業で息が吹きかえった。エンジンフードにつく片側4個のインテークは手動で開閉する。
なお、購入時に渡されたオーナー・アイデンフィケーションカードも大切に保管されていて、シリアルナンバー、車体番号の一致を裏づけている。興味深いのは、イグニッションキーにも番号がついていることで、現在のキーがオリジナルであることが証明された。
シボレーのディーラーに乗りつけてみる?
ケビンが、いっこうにレストアが進まない叔父のトーマスから32年シェビーを引き上げてきたのは、2021年12月のこと。以来、6カ月間のレストア作業を経て、奇跡の一台はまもなく走り出そうとしている。
最後に、ケビンにとってレストアへのモチベーションを聞いてみた。「ぼくは元々、グラフィックデザイナーなんだ。古いクルマをバラして、どうやって動いていたのかを学んで、元に戻したらちゃんと動いたときの喜びは、ぼくにとってアートと同じなんだ」
──これまで、クルマを仕上げては売ってきたけど?
「このクルマは絶対に売れないよ(笑)。結婚式に貸し出したり、イベントに乗って行ってみんなをビックリさせたいね。オークランドのディーラーに乗りつけるのもいいな」
──5代目のオーナーは?
「ぼくには子どもがいないから、“グリフェザー”の名前では最後になるね。でも、甥っ子がふたりいて、今回もいろいろと手伝ってくれたんだ。きっと誰かがこのクルマを乗り継いでくれると信じているよ」