L型をDOHCに! OS技研が手掛けたオリジナルエンジン
日本のチューニングカー史を語る上で欠かすことができないのが、SOHCヘッドを採用した日産のL型エンジン。そのL型エンジンに自社開発のDOHCヘッドを組み合わせたのが、岡山にあるチューニングパーツメーカーであるOS技研です。OS技研というと駆動系パーツのイメージが強いかもしれませんが、始まりはこのオリジナルエンジンにあるのです。
L型ベースのエンジンを2タイプ開発した
OS技研が開発したオリジナルエンジンはおもにふたつ。総排気量1770cc、4気筒のL18をベースに1918ccまで排気量を拡大したTC16系と、総排気量2753cc、6気筒のL28をベースに2870ccまで排気量を拡大したTC24系です。
1973年にOS技研を創業した岡﨑正治氏は当時、マスキー法といった環境配慮が社会で進むなか、このままでは日本のレーシングエンジンのテクノロジーは廃れてしまうと危機感を感じたそう。その思いから、自身がこれまで2輪や4輪のチューニングで積み重ねてきた経験をすべて投じ、このオリジナルエンジンを開発しました。
岡﨑氏の考える高速燃焼へのこだわり
岡﨑氏は高出力化を見据え、燃焼速度に課題があると考えていました。反対に燃焼さえクリアすれば高出力化を実現しながら、低速域でも扱いやすいトルクフルなエンジンになると踏んでいたのです。
高速燃焼を実現するために岡﨑氏が取った手段は、DOHC化による4バルブ化、センタープラグ化、燃焼室形状の変更などでした。もちろんこれに合わせてカムやピストン、バルブスプリングなどさまざまなパーツが専用に開発されていきます。
岡﨑氏がとくにこだわったという燃焼室は、当時最先端のペントルーフ型を採用すると同時に、極力上死点時の燃焼室形状を薄くすることを目標とし、そのためバルブの挟み角を狭くしました。これにより、通常のL型チューニングでは上死点前30~40°とされる点火時期ですが、オリジナルエンジンでは25°まで詰めることに成功したのです。
こうして岡﨑氏のこだわりで完成した初のオリジナルエンジン「TC16-MAII」は最高出力232ps、最大トルク20.7kg-mというスペックで1975年に販売を開始しました。このエンジンの高性能を証明するため、OS技研は競技参加への道を模索します。ですが、レギュレーションに合致できるカテゴリーが国内のオンロードレースにはなく、1980年の全日本オールスターダートトライアルに、モンスター田嶋こと田嶋伸博氏がドライブするバイオレットへ搭載し出場、そして優勝を飾ります。
同年に6気筒エンジンであるTC24-B1の開発に成功し、最高出力325psというスペックで販売を開始。1982年にはアメリカで開催されたSCCAプロラリーに、TC24-B1を搭載した280Zで田嶋伸博氏と共に参戦し、外国車クラスに3位入賞を果たしました。しかし、TC16-MAII、TC24-B1ともにとても高価だったため、TC24-B1の生産台数は9基に留まっています。
現代に復活したTC24-B1“Z”
こうして商業的には成功とは言えない結果になってしまった、OS技研のオリジナルエンジンTCシリーズですが、当時このエンジンに憧れた人たちからの熱烈な声により、2015年に6気筒エンジンがTC24-B1Zとして復活します。
しかし、単に再販するだけではないのがOS技研流です。具体的な内容としてはエンジンヘッド部のコンパクト化とメンテナンス性の向上、フリクションの低減を狙ってカムホルダーをブラケット式からキャップ式に。バルブの調整方式も慣性重量を減らし、さらなる高回転化を狙いネジ式からシム式としています。また、カムの潤滑方式も高回転時の潤滑に対応するため、カム内部からの潤滑からロッカーアームよりカム接触面への圧送直接潤滑に変更しています。
そして最大の変更ポイントとも言えるのが、カムの駆動方式。一般的なタイミングチェーンから7つのギヤで駆動させるカムギヤトレーン方式を採用。これにより高回転時もカムタイミングがより正確でズレないエンジンとなりました。そのほかキャブレター以外にもスポーツインジェクションにも対応し、排気量も3208ccにアップしたTC24-B1Zは最高出力400ps、最大トルク40kg-mというさらにパワーアップしたスペックで登場しました。
こうして現代に復活したOS技研のオリジナルエンジン。620万円という高価な価格ながら、現在のところ3年待ちというバックオーダーを抱えるほどの人気となっています。OS技研が手掛けたオリジナルエンジンは、ほかには出来ない究極のNAエンジンのひとつの形と言えます。