クルマは走ってこそ価値の生まれる
英国ではジャガーEタイプが、ドイツではフォルクスワーゲン・タイプI(通称ビートル)が、電気自動車(EV)に改造され、販売される動きがある。国内でも、日産フェアレディ(SR)をEV化するなど、旧車のコンバートEVの話題がある。
自動車文化という視点でいえば、旧車は元の状態で保存するのがよいとの意見がある。もちろん、メーカーや博物館などで保存される旧車であれば、原形をとどめる手法が好ましいのうはいうまでもない。たとえば、メルセデス・ベンツはクラシックセンターという施設を設け、どの時代の車両でもレストアする事業を行っている。カール・ベンツが創作した世界初のガソリンエンジン自動車であるパテント・モトール・ヴァーゲンは、レプリカでの製造も行う。
日本でも、マツダが自社で初代ロードスターのレストアを手掛け、トヨタや日産も旧車の人気車の部品の復刻なども行っている。
一方、エンジン車のままか、EVに改造するかという議論以前に、カスタムカーを愛好する人々がいて、新旧を問わずメーカー製の標準仕様のままではなく、自分好みの性能や外観に改造して楽しむことが行われている。
エンジンも、直列に替えてV型の大排気量として高性能化を目指す人もいる。タイヤをインチアップして、見栄えや走行性能をより高めたいという志向もある。そのように、個人が所有するクルマを、元のままで乗るか、自分の趣味嗜好にあった姿にして乗るかは個人の自由だ。
それでもかつての名車と評価されるクルマでは、出荷当時のままで乗り続けられれば理想的かもしれない。しかし、クルマは置物ではなく、走らせてこそ意味があり、たとえ長距離移動には向かなくても、日常利用できればそれにこしたことはない。
EVに改造すれば、すくなくとも日常の用には利用できるようになる。とはいえ、古い部品を調達して復刻するのと似たような費用が掛かる場合もある。そのうえで、日々愛車を使って暮らしたいと考えた場合、排出ガスゼロの旧車や名車で買い物に行ったり通勤できれば、そこにも楽しさや喜びはあるはずだ。毎日を活気溢れさせる原動力になるかもしれない。ことに、環境問題が重視される今日、旧車の外観や内装を楽しみながら、排出ガスゼロでの利用は、新たな喜びの創造でもある。
自動車文化を重視する価値観も必要であるのと同時に、走ってこそ価値の生まれるクルマを、時代や事情に則した形で走行する様子があってもいいのではないか。