スペシャルティ・クーペにマイルドな4ドアセダン! そしてデリバリーバンも
効率を優先していたN360の派生モデルとして、スタイリングを優先したZが登場したのは1970年の10月でした。ノーズ先端を少し引き下げて小さなグリルを突き出したフロントビューは、寸法的な制限もあり、流麗とは呼べませんでしたが、可愛らしさを併せ持ったスタイリッシュな仕上がりです。
特徴的だったのはリヤビューの処理。ルーフラインの後端を少しキックアップした先を斜めにストンと切り落とし、黒い枠を持ったガラスハッチを設けてスポーツワゴン的な使い方も可能にしていたこと。実際180cm前後と(当時の日本人としては)大柄な男性4人が乗り込んで、松山から高知にカツオのたたきを食べに出かけたり、リヤシートを折り畳んでカメラなどの取材道具と旅支度を放り込み、鈴鹿サーキットへレース取材、その翌週は山陰のラリー取材、さらにその翌週は西日本サーキットへ、と縦横無尽に走り回ったことが懐かしく思い出されます。
ZはN360のフロアパンを利用していましたが、そのN360が後継モデルにバトンを渡すと、Zも、その後継モデルのフロアパンを使用してお色直しすることになりました。その後継モデルがライフです。
エンジンが空冷から水冷にコンバートされ、高回転でパワーを追求するものからマイルドな走りを実現するものへとキャラクターが一転されていました。しかす、ヒトのためのスペースを最大限に確保し、メカニズムのためのスペースを最小限に抑えるという、これも宗一郎の哲学に則ったパッケージとなっていたのです。
具体的には、ボディに対して2気筒エンジンの後方にミッションとデフをマウントしていたN360に対し、ライフでは2気筒エンジンの後方(ボディに対しては進行方向右側)にミッションを置き、その左サイド(ボディに対しては後方)に置くという、いわゆる“ダンテ・ジアコーザ”式パッケージングへと生まれ変わっていました。
そしてエンジンルームがよりコンパクトになった分だけキャビンスペースは拡げられています。ホイールベースもN360の2000mmに対して80mm延長された2080mmとなり、4ドアの採用も併せて大人4人が(大きな)不満なく乗り込める乗用車に進化していました。
某自動車雑誌の売買欄で見つけた4ドアのオートマチックを確か20万円ほどで購入したのは、サラリーマンになって間もないころ。何とダッシュに組み込まれた純正のクーラー付きで、通勤だけでなく、のちにカミさんとなる彼女の実家まで往復2000kmの旅にも供となった相棒でした。
そんなライフの派生モデルとして見逃せないのが1972年9月に登場したライフ・ステップバンと、さらにその派生モデルとして1973年8月に登場したライフ・ピックアップです。
ともにライフのフロアパンを流用しながら、その上に背高のっぽな箱形ボディを架装したもの。いまでいうならハイトワゴンとそれをベースとしたピックアップトラックですが、ルーフをかさ上げしてアップライトなドライビングポジションをとることで、ライフでも十分だったキャビンスペースは一層拡大されることになりました。
このコンセプトは、1993年にスズキがワゴンRで再現し、大ヒットに繋がりましたが、20年も早過ぎた登場だったということでしょうか。そのステップバンのボディをベースに、2シーターのピックアップトラックとしたのがライフ・ピックアップです。
これも某出版社の新入社員のころ、学生時代に過ごした松山に遊びに行ったとき、空港から市内に向かう道中の中古屋さんで見つけて騒動買いした1台。先輩たちには「原動機付き自動車」とか、赤いボディカラーから「郵便車」などと揶揄されながらも、自分ではライトウェイトで真紅の2シーター・クーペと粋がっていました。
田舎から単身上京しアパート住まいとなった身で、何台ものマイカーを抱えるのはやはり無理があると気づかされ、岡山の実家に乗って帰ったところ、花卉栽培を営んでいた親爺が、この2ドアクーペをとても気に入って生前に愛用。親不孝な不肖の息子にとっては、それが数少ない親孝行となったのも懐かしい思い出です。