さまざまなサイズがありそれぞれに魅力がある
ミニカーやプラモデルに代表されるクルマのミニチュアモデル。実車を正確にスケールダウンしたそれらを机上で鑑賞したり、自分なりのテーマに沿って集めたり……という楽しみは「モデルカー・ホビー」、「自動車模型趣味」などとも呼ばれ、わが国でもクルマ好きの間で古くから親しまれてきた。それらの模型はほとんどの場合、実物の何分の一で再現しているかという縮尺率(=スケール)が表記されているが、本稿ではあらためてそのスケールについて考察してみたい。
ミニカーは鉄道模型のスケールに合わせた説が有名
クルマのミニチュアモデルについて見てみると、そのスケールについて、ジャンルごとにある傾向が見えてくる。例えばミニカーであれば1/64、1/43、1/18。プラモデルに関して言えば、1/20、1/24、1/32といったスケールの製品が一般的だ。そもそもこの“標準スケール”は、どのようにして決まっていったのだろうか。
ミニカーに関して言えば、その標準的なスケールが決まっていったひとつの要因として、鉄道模型との関連が考えられる。ご存知の通り、世界初となる蒸気機関車による営業鉄道がイギリスで開始されたのは、カール・ベンツの手によってガソリン自動車が発明される60年ほど前の1825年のこと。子ども向けの玩具やスケールモデルも鉄道をモチーフとしたものが、クルマのそれよりもひと足早く存在していたわけだ。
鉄道模型の場合、線路の幅(=ゲージ)がその縮尺の基準となっており、欧州で一般的な規格のひとつだった軌間32mmの「Oゲージ」の縮尺が1/43~1/48程であったことから、それと組み合わせて楽しむクルマのミニチュアモデルもこのスケールに寄せて生み出された、というのが通説だ。その縮尺に幅があるのは、線路の幅が国や地域によって異なっていたため。
当初はミニカーのスケールも生産国やブランドによってばらつきがあり、1/40、1/42などの縮尺を採用したシリーズも存在したが、”鉄道模型のアクセサリー”から”独自のコレクティブル・アイテム”として大きく発展した1960年代半ば以降は、1/43スケールがミニカーの世界的なスタンダード・スケールとして定着していった。1/64や1/87、1/32といった規格も鉄道模型由来の縮尺と言える。
プラモデルは米ディーラーに置かれた1/25の立体カタログが基準と言われる
一方、戦後に大きく発展を遂げたプラモデル。クルマのプラモの縮尺に関しては、アメリカの実車メーカーの影響も少なくないようだ。古くから自動車産業が発達していたアメリカ。1960年代には「プロモーションモデル」と呼ばれるプラスチック製の“ミニカー”が数多く作られていた。
これは実車メーカーの提供したオフィシャルな図面に基づいて正確に1/25スケールに縮尺された”立体カタログ”。セールスマンが自社の新車をアピールする目的のため数多く制作され、販促活動に重用された。1/25というのは、100(1/1)の1/4(クォーター)という北米では馴染み深い数値だから、という説もある。また、現在クルマのプラモではもっとも一般的な1/24。こちらは欧州で一般的だった12進法から採用されたようだ。
建設機械などは図面の縮尺に合わせるなど例外もある
もちろん“標準スケール”以外で作られたモデルも少なくない。例えば大型のパワーシャベルやクレーン車といった建設機械のモデルは、1/50スケールであることが多い。それはコマツやCAT、コベルコといった実機メーカーが、そのモデルを販促プロモーションに使うという用途にも対応しているから。クライアントたる建設会社のスタッフなどは、日頃から1/200、1/100、1/50といった建築図面の縮尺に慣れ親しんでいるから、実機のサイズ感がすぐに理解できるというわけだ。
また、トミカやマッチボックス、ホットウィールといった、いわゆる“3インチ・クラス”と呼ばれるミニカーは、実車のサイズを箱のサイズに合わせて縮尺するので、車種によって縮尺率がまちまちだ。
普段見かけているさまざまなモデルカー。その縮尺についてあらためて思いを巡らせてみれば、モデルカー・ホビーの楽しみもより深みを増すのではなかろうか。