エボⅨとして生まれても良かった+0.5のランエボⅧ MR
しかし三菱は止まらなかった。2004年2月に発売されたエボ8.5の愛称も与えられたエボⅧ MR(三菱レーシング)は、三菱にとって重要なモデルであったギャラン、それも往年の名車ギャランGTO MRから継承されたもので、エボⅧをさらに熟成させたモデルであった。ビルシュタイン社製ダンパーを採用したサスペンションのほか、アルミホイールはエボⅧのエンケイ社製の17インチ6本スポークに加え、メーカーオプションとしてBBS社製の17インチ鍛造軽量アルミホイールが用意された。すでに確固たる地位を築いていたランエボであったが、さらにブランド力を高めることに成功した。
また、ボディはドア内部のサイドインパクトバーをアルミ化したほか、量産車で初となるアルミルーフの採用によって約10kgの軽量化を実現。オプション装備となるがボルテックス・ジェネレーターと呼ばれる、ルーフ上の整流フィンまでもが備わり、走行性能はもちろんルックス面でも大きなインパクトを与えた。
さらにランエボⅥトミマキネンエディション以来となった、+0.5の進化を果たしたランエボⅧ MR。その進化ぶりは+1に匹敵するもので、終焉に向かいながらもランエボの開発に三菱が真摯に向き合い、それが多くのファンを魅了した。
MIVEC採用とターボの刷新が仇となりトラブルに見舞われたエボⅨ
そして2005年3月にランエボⅨが登場する。エンジンは従来型同様の4G63型でありながら、連続可変バルブタイミング機構のMIVECを採用したことに加えて、ターボのコンプレッサーハウジング変更、コンプレッサーブレード(ホイール)にマグネシウム合金を(GSRではオプション)採用したことで、従来のアルミニウム合金よりもさらなるレスポンス向上が図られた。
その結果、低回転域から分厚いトルクが発生できるようになり、高回転域での伸びも確保する二兎追うことに成功。しかしマイナートラブルではあったがターボにトラブルを抱えることが多く、結果論になってしまうが、MIVECの投入は是であったが、ターボは従来型を流用する形でも良かったのでないかという見方もできた。さらにランエボⅧ MRの迷いが顕在化したのか、4G63型エンジンは頑丈という、ある意味都市伝説(無理やりチューニングしても壊れないエンジンはない)的な通説に影を落とすことになる。
スタイリング面ではブーレイ顔が一世代で終わり、リヤバンパー下部にはディフューザーを装備して空力を向上。さらにリヤの車高を5mm落し、接地性向上を図ったほか、中空軽量のリヤウイングの採用など、ここでも走りを追求した進化が果たされた。
エボワゴンの登場に繋がるGTグレードを追加設定
さらにランエボⅨでは、初代から続くグランドツーリングカーとしてのGSRと競技志向のRSという棲み分けに加えて、GTグレードが追加された。このGTは最高出力280ps/6500rpm、最大トルク41.5kg-m/3000rpmを発揮する5速MTモデルであり、ほかにもリヤデフに1.5WAY機械式LSD、リヤ薄板ガラス、ハロゲンヘッドライト、マグネシウム合金ターボを装備。さらにビルシュタイン社製ダンパーとブレンボ社製ブレーキはGSRと同じであったが、その差別化(棲み分け)はユーザーにとって少しわかりにくいものであった。
そして2005年9月にランエボ初のワゴンが登場。6速MT搭載のGTと5速AT搭載のGT-Aをラインアップし、ランエボは欲しいけれど、硬派過ぎるランエボは嫌だという潜在層(新規ユーザー)を掘り起こすために作られた。6速MTのGTは最高出力280ps/6500rpm、最大トルク40.0kg-m/3000rpmのスペックを備え、GT-AはランエボⅦ GT-Aと同じ仕様のエンジンを搭載。最高出力272ps/6500rpm、最大トルク35.0kg-m/3000rpmのパフォーマンスは、搭載するATに対する許容トルクに合わせたものと考えることができ、排気量2Lターボのステーションワゴンとしては十分過ぎる性能を誇っていたとも言える。
ちなみにベースはセディアワゴンではなくて、ランエボワゴンとして刷新されたといって良い内容であり、ワゴンに4G63型のハイパワーを組み合わせただけの単純なものではなかった。それはリヤデフにランエボIX GTと同じ1.5WAY機械式LSDを採用したことでもわかるとおり、GSRよりもRSに近い仕様であった。また、ハンドリングに特化させたAYCがない方が、万人受けすると考えた結果とも考えられる。