2ペダルモデルやワゴンも投入した第3・第4世代のランエボの軌跡
WRCで勝つために生まれたランサーエボリューション(以下、ランエボ)だが、前編(https://www.automesseweb.jp/2022/06/25/1062757)では、ランエボⅠ〜第2世代ランエボの最終モデルとなるランエボⅥまでを振り返ってたが、ここからはランエボXまでとなる第3〜第4世代ランエボの進化の軌跡に触れたい。
ランサーセディアをベースで戦闘力を高めたランエボⅦがデビュー
2001年1月にランエボⅦへとエボリューションした第3世代ランエボの特徴は、ベース車両がランサーセディアとなり基本性能が格段に向上したこと。走りに特化させた高剛性ボディがさらに進化しており、サスペンション取り付け部やボディフレーム結合部の補強、20箇所におよぶ専用リーンフォースメント&溶接点の追加もあって、先代よりもボディの曲げ剛性が1.5倍となった。そのほか、アクティブ・センター・ディファレンシャル (以下:ACD)とヘッドライトにHIDが採用され、走行性能と快適性を大幅に向上させている。
とくに新採用のACDは、前後輪の差動制限を電子制御によってコントロールする電子制御可変多板クラッチ機構を搭載。これは路面に合わせて「ターマック(舗装路)」、「グラベル(未舗装路)」、「スノー(雪道)」の3モードを車内のスイッチ切り替えによって選択することが可能で、さらにセンターデフをコントロールすることを可能にした。
また、サイドブレーキを使いスピンターンさせる場合などには、作動制限をフリーにする機能も採用。これにより、ラリーをはじめジムカーナなどの競技で、今まで以上の急旋回を可能にし、先代よりも扱いやすいという声も多く聞かれた(ドライバーによっては逆に扱いにくいという声もあったが……)。
エンジンは従来同様4G63型でありながら、最高出力280ps / 6500rpm、最大トルク39.0kg-m/3500 rpmへとそれぞれ進化。第2世代よりもスマートに感じられるデザインもあって、新世代を印象付けた部分も多い。
AT限定免許で運転できるGT-AがランエⅦで登場
このランエボⅦでは「ATがあれば愛車にできるのに……」、という声に応えるモデルが2002年1月に登場する。それがランエボⅦ GT-Aだ。ランエボ初のAT仕様となったこのモデルは、三菱が先鞭をつけた自慢のATであるINVECS-Ⅱ(マニュアルモード付AT)の搭載が話題となった。ATに合わせてエンジンは最高出力272ps/最大トルク35.0kg-mに抑えられ、バンパー左側にAT用オイルクーラーの通風口が設けたことで、ナンバープレート取り付け位置をバンパー中央部へ変更された。こうして一見、大人しく見えるランエボなのだが、その速さはスタンダード仕様のランエボに対しても劣ることはなかった。
しかしサーキットを走らせると、燃料タンクが小さいことから走行中に燃料計の針が動くのがわかるといわれるほど、使い勝手の悪さ(小まめな給油が必要)というネガティブなポイントもあった。
ブーレイ顔に賛否あるもこの上ない進化を遂げたエボⅧ
同じCT9A型ながらランエボⅧへの進化で触れるべきは、当時の提携先(ダイムラー)から送り込まれたデザイナー、オリビエ・ブーレイによる三菱車共通のアイデンティティをフロントマスクに与えた「ブーレイ顔」だ。2003年1月に登場したランエボⅧでは、トランスミッションに6速MTがGSRに採用され、一般道での燃費性能を向上。対してRSには信頼性重視の5速MTを搭載。燃料タンクも大きくなったことで普段使いできる4ドアセダンとしての使い勝手を高めた恩恵は多かった。
余談ではあるが、クセが少し強いブーレイ顔を嫌うユーザーのために、有名エアロメーカーからランエボⅧ用フルバンパーが発売されるなど、ランエボとしては珍しく性能向上ではないドレスアップパーツのカスタムが話題になったのも面白いエピソードだ。
また、賛否両論あったAYCの内部構造の見直しを図り、制御トルク量を増加させたスーパーAYCを採用(RSは標準で1.5WAY機械式LSD、オプションでスーパーAYCが選択できる)。ほかにも、リヤウイングが量産セダン初となるカーボン製を備えることで軽量化。エンジンも最高出力280ps/6500rpm、最大トルク40.0kg-m/3500rpmを発揮しており、一段とトルクフルな走りが強化された。
見方を変えてみると、性能は向上しているのに見た目が話題となるのは、市場がこれ以上の性能向上をそれほど求めておらず、このランエボⅧで高性能4ドアセダンとして、行きつくところまで行った感があったのではないか、と考えることができる。すでにランエボⅦで、日本では十分過ぎる高性能セダンに進化し、ランエボⅧの登場でランエボとしての完成形に近づいていた。つまり、ランエボの終焉の始まりはこのころからすでに始まっていたのかもしれない。
エボⅨとして生まれても良かった+0.5のランエボⅧ MR
しかし三菱は止まらなかった。2004年2月に発売されたエボ8.5の愛称も与えられたエボⅧ MR(三菱レーシング)は、三菱にとって重要なモデルであったギャラン、それも往年の名車ギャランGTO MRから継承されたもので、エボⅧをさらに熟成させたモデルであった。ビルシュタイン社製ダンパーを採用したサスペンションのほか、アルミホイールはエボⅧのエンケイ社製の17インチ6本スポークに加え、メーカーオプションとしてBBS社製の17インチ鍛造軽量アルミホイールが用意された。すでに確固たる地位を築いていたランエボであったが、さらにブランド力を高めることに成功した。
また、ボディはドア内部のサイドインパクトバーをアルミ化したほか、量産車で初となるアルミルーフの採用によって約10kgの軽量化を実現。オプション装備となるがボルテックス・ジェネレーターと呼ばれる、ルーフ上の整流フィンまでもが備わり、走行性能はもちろんルックス面でも大きなインパクトを与えた。
さらにランエボⅥトミマキネンエディション以来となった、+0.5の進化を果たしたランエボⅧ MR。その進化ぶりは+1に匹敵するもので、終焉に向かいながらもランエボの開発に三菱が真摯に向き合い、それが多くのファンを魅了した。
MIVEC採用とターボの刷新が仇となりトラブルに見舞われたエボⅨ
そして2005年3月にランエボⅨが登場する。エンジンは従来型同様の4G63型でありながら、連続可変バルブタイミング機構のMIVECを採用したことに加えて、ターボのコンプレッサーハウジング変更、コンプレッサーブレード(ホイール)にマグネシウム合金を(GSRではオプション)採用したことで、従来のアルミニウム合金よりもさらなるレスポンス向上が図られた。
その結果、低回転域から分厚いトルクが発生できるようになり、高回転域での伸びも確保する二兎追うことに成功。しかしマイナートラブルではあったがターボにトラブルを抱えることが多く、結果論になってしまうが、MIVECの投入は是であったが、ターボは従来型を流用する形でも良かったのでないかという見方もできた。さらにランエボⅧ MRの迷いが顕在化したのか、4G63型エンジンは頑丈という、ある意味都市伝説(無理やりチューニングしても壊れないエンジンはない)的な通説に影を落とすことになる。
スタイリング面ではブーレイ顔が一世代で終わり、リヤバンパー下部にはディフューザーを装備して空力を向上。さらにリヤの車高を5mm落し、接地性向上を図ったほか、中空軽量のリヤウイングの採用など、ここでも走りを追求した進化が果たされた。
エボワゴンの登場に繋がるGTグレードを追加設定
さらにランエボⅨでは、初代から続くグランドツーリングカーとしてのGSRと競技志向のRSという棲み分けに加えて、GTグレードが追加された。このGTは最高出力280ps/6500rpm、最大トルク41.5kg-m/3000rpmを発揮する5速MTモデルであり、ほかにもリヤデフに1.5WAY機械式LSD、リヤ薄板ガラス、ハロゲンヘッドライト、マグネシウム合金ターボを装備。さらにビルシュタイン社製ダンパーとブレンボ社製ブレーキはGSRと同じであったが、その差別化(棲み分け)はユーザーにとって少しわかりにくいものであった。
そして2005年9月にランエボ初のワゴンが登場。6速MT搭載のGTと5速AT搭載のGT-Aをラインアップし、ランエボは欲しいけれど、硬派過ぎるランエボは嫌だという潜在層(新規ユーザー)を掘り起こすために作られた。6速MTのGTは最高出力280ps/6500rpm、最大トルク40.0kg-m/3000rpmのスペックを備え、GT-AはランエボⅦ GT-Aと同じ仕様のエンジンを搭載。最高出力272ps/6500rpm、最大トルク35.0kg-m/3000rpmのパフォーマンスは、搭載するATに対する許容トルクに合わせたものと考えることができ、排気量2Lターボのステーションワゴンとしては十分過ぎる性能を誇っていたとも言える。
ちなみにベースはセディアワゴンではなくて、ランエボワゴンとして刷新されたといって良い内容であり、ワゴンに4G63型のハイパワーを組み合わせただけの単純なものではなかった。それはリヤデフにランエボIX GTと同じ1.5WAY機械式LSDを採用したことでもわかるとおり、GSRよりもRSに近い仕様であった。また、ハンドリングに特化させたAYCがない方が、万人受けすると考えた結果とも考えられる。
ランエボ9.5とも呼ばれるエボ9MRが全4タイプ1500台限定で発売
時を経て、2006年8月にはランエボⅨとランエボワゴンMRが登場。この2モデルもランエボ9.5の愛称で親しまれ、セダンはGSRが6速MT、RSが5速MT、ワゴンはGTに6速MTと4速ATのGT-Aが設定される。全4タイプで1500台限定(過去のランエボの例に漏れず、追加生産があったとも言われている)の希少性と、最後の4G63型エンジン搭載モデルとして注目度の高いモデルであった。
もちろん、基本的にはランエボⅨの熟成版だが、一部モデルはターボの素材や形状を変更しており、MIVECのチューニングもあってエンジンに改良がなかったわけではない。
またフロントバンパーの左右下部のエアダム形状の変更によって、空気抵抗とフロントリフトを低減するなど空力特性の向上を図った。さらにサスペンションもアイバッハ社製コイルスプリングがGSRに標準、RSではセットオプションとして設定。スプリングを装着することで、フロントでー10mm、リヤでー5mm車高が変更され、より低重心化を図ったほか、ACDやスーパーAYCのセッティングも変更。ランエボが得意とする旋回性能をより一層向上させた。そしてMRの名に恥じないこのモデルは“第3世代の最後のモデル”として販売店を中心に大規模な告知がなされて終焉を迎える。
第4世代に進化し最後のランエボとなったエボXがデビュー
そして最後のランエボとして、第4世代に進化したランエボXが2007年10月にデビューした。ギャラン・フォルティスをベースにしたこの新型エボは、従来の限定モデルとは異なりカタログモデルとしてラインアップされた。エクステリアはランエボⅠ〜ランエボⅨまでのスタイリングとは一線を画したものであり、ボディ自体はギャラン・フォルティスと共有するものの、サスペンションはもちろん仕様が異なり、前後バンパーでオーバーハングを切り詰めて全長を75mm短くした。また全高もアルミルーフの採用とロールセンターの低下により10mm低くし、フェンダーとトレッドの拡大で走行安定性も大幅に高めることに成功している。
サスペンションはフロントがストラット式、リヤがマルチリンク式と従来モデルからの変更はないが、前述のワイドトレッド化と18インチタイヤの採用も含めて、サスペンションレイアウトを一新。4輪を確実に接地させ、S-AWCの性能を最大限に引き出し、直進安定性・旋回性能、さらに乗り心地も向上した。
また、トランスミッションは定評の5速MTのほか、新開発の6速DCT「Twin Clutch SST(SST)」を新たに採用。競技車用向けの耐久性を考慮した5速MT、グランドツーリング性を追求したGSRにはDCTのSSTを用意することで、ランエボXでもしっかりと棲み分けが行われた。
注目は、ランエボⅠ〜Ⅸまで長きにわたり採用されてきた4G63型に別れを告げたこと。世界的に評価されるオールアルミブロックの4B11型直4ターボを搭載。エンジン自体が軽量化されたことによって、ヨーモーメントの低減に大きく貢献する。MIVECとの組み合わせにより最大トルクは422Nm (43.0kg-m) を3500rpmで発生させた。なお、最高出力はホンダ・レジェンドが280psの自主規制を破ったことで、2009年10月のマイナーチェンジで300psにあらためられている。4WDシステムは新開発の車両運動統合制御システム「S-AWC」も採用された。
エボXファイナルエディションをもって23年の歴史に幕を閉じる
なお2007年にデビューしたランエボXは、その後、1度のマイナーチェンジと5度の改良を経て、2015年8月に発表されたランエボXファイナルエディションの完売(1500台限定)をもって、ランサーエボリューションは23年の歴史に幕を閉じた。
ちなみに英国で発売されたモデルに、HKS製ターボチャージャーをはじめとしたチューニングパーツが備わり、エンジン出力が440ps/57kg-mに引き上げられたFQ-400が登場するなど、価格は当時のレートで約約850万円と高価ながら、販売開始からわずか60分で完売したというエピソードもある。
それだけ、海外でもランエボXの人気は高く、その評価は高い。それは第一世代のランエボがWRCで活躍していたことが大きかっただろうし、毎年、エボリューションモデルを改良しながら開発を続けてきたことで国内外で数多くのファンを魅了した。
三菱だけじゃなく世界各国の自動車メーカーが電動化へ大きく舵を切るなかで、三菱もその例に漏れず、話題はeKクロスEVやアウトランダーPHEVに注目が集まる。WRCでお互いに切磋琢磨してきたライバルのSUBARUは、東京オートサロン2022で「STI E-RAコンセプト」を披露したが、ランエボを愛した数多くの三菱ファンにも、ブランドの象徴となるスポーツモデルが欲しいというのが本音だろう。EVやPHEVなどの電動車でも構わないので、次期ランエボと噂されるような新型車両の登場に期待したいのだが……。