制動力チューニングの肝となるのが「キャリパー」
現代のブレーキシステムの要であるパーツが「キャリパー」。パッドをローターに押し付けるこの装置は、大きく分けると2種類になる。それが「対向式」か「片押し式」だ。スポーツカーでは多くが対向式を選択しているが、そのメリットとは果たしてどこにあるのだろうか?
一般的なクルマはシンプルな構造の「片押し式」
ブレーキはペダルを踏むとマスターシリンダーがブレーキフルード(ブレーキオイル)を押す。その油圧によってブレーキキャリパーの中にあるピストンと呼ばれる円形の筒を押す。ピストンの先にはブレーキパッドがあり、パッドがローターに押し付けられて摩擦が発生し、速度が落ちる仕組みだ。
一般的なブレーキキャリパーの多くは「片押し式」で、このピストンがキャリパーあたりひとつだけあるタイプ。そうなると内側のパッドしか押せないが、その反力で外側のパッドもローターに押し付けられる仕組みだ。
片押し式にもメリットはある。それは外側パッドが外気に触れているので冷却性能に優れること。形状がコンパクトでホイールサイズを選ばないことなど。なので、軽量なスポーツカーや、BMWのMシリーズなども片押し式を選択している。
パッドを均一にローターに押し付けられる「対向式」
対する「対向式」は、ローターの内側にも外側にもピストンがあるタイプ。真剣白刃取り状態で両側からパッドを押すことができ、そのメリットはコントロール性の高さにある。
ブレーキはいかにパッドを均一にローターに押し付けることができるかが重要。簡単なようだが、ローターは回転しているので、パッドはローターが入ってくる側は減りやすい。逆にローターが出ていく側のパッドはどうしても摩擦しにくく、そこでムラができてしまう。
このパッドの当たり面が不均一になると、ペダルのタッチもグニュッとするし、制動力も安定しない。全面使えるときは利くが、均一に当たらないときは利かなかったりという不安定さが現れることもある。
対向式キャリパーだと両側からローターを押せるし、多くは複数ピストンを持っていて、4ピストン(pot)や6ピストン(pot)も珍しくはない。そうなるとパッドの押す場所によって掛かる力を調整できる。
具体的には複数ピストンの場合、ローターが入ってくる側は小さめのピストンになっていて、出ていく側のピストンは大きい。こうすることで摩擦しやすい側の圧力を弱め、摩擦しにくい側の圧力を高めて、均一に減るようになっているのだ。なので、ブレーキキャリパーは左右それぞれ別で設計されているのだ。
そこでハイパワーなスポーツカーでは対向式が選択されることが多い。よりブレーキを利かせるために大きなパッドを均一に押したいので、おのずとピストンがたくさんある対向式が選択されるのだ。
ペダルタッチとコントロール性を劇的にアップ可能
では、普通のストリートカーに対向式キャリパーを入れるとどうなるのか。一般的にペダルタッチはカッチリとして利きはコントローラブルになる。
気をつけたいのはマスターシリンダーとのバランスだ。ペダルを押してオイルを押し出すマスターシリンダーの大きさがノーマルのままで、キャリパー側のピストンの面積が増えてしまうと、たくさん踏まないと利かなくなってしまう。
そのあたりは車種用キットであれば心配は不要で、ブレーキメーカー側で純正マスターシリンダーに合わせたキャリパーの設計としている。
また前後バランスも同様。一般的にフロントキャリパーを交換することが多く、リヤはそのまま使うことが多い。その場合にリヤに利きを高めたパッドを入れたり、リヤローターだけを大きくしたりするようにセットで準備されている。そういったバランスの最適化を図ることが重要なのだ。
スポーツカーだけでなく、車重のあるミニバンなどでも対向式のアフターパーツのキャリパーにすることでペダルタッチとコントロール性は劇的に高まる。ちなみに対向式などにするとブレーキが「利く」と思っている人もいるが、利きの限界は純正キャリパーで不足していることはまずない。それよりも利きの限界はタイヤのグリップが関わるので、もっとブレーキを利かせたい人はタイヤを見直すことも忘れずに。