いきなりのリコールで出鼻をくじかれてしまった感
まさに、この試乗記を書こうと思っていた直前に、衝撃的なニュースが飛び込んできた。トヨタbZ4Xとスバル・ソルテラにリコールが発表され、当面の間、すでに納車済みのユーザーには使用を停止してほしいという要請である。
リコール対象は3月2日から6月2日に生産されたbZ4Xが112台、ソルテラ92台のわずか204台ではあるが、出鼻をくじかれた感は否めない。その内容もEVとしての機構部分でもバッテリーでもなく、走行環境によってはハブボルトが緩み、ホイール/タイヤが脱落する恐れがあるというものだった。
「いいクルマ」にするための手法変更が裏目に
「なんだよ、それ」と思う方も少なくないだろう。トヨタというよりもレクサスからだが、レクサスは「IS」のマイナーチェンジを機に、「NX」のフルモデルチェンジでも、ホイールの車両への装着方式を、スタッドボルトにハブナットで絞め込み締結するという国産車の標準的手法から、ハブボルトで直接的に締結する、いわば欧州メーカーの多くが標準とする手法に変更しはじめている。
この方式は、工場における組み立てでも、整備などにおけるホイールの脱着でも手間がかかることから、国産車は避けてきたものだ。例外的には生産終了が発表されたホンダNSXや、かつてはマツダ車が採用していた時期もあった。
レクサスを皮切りにトヨタまでもが、なぜこの面倒な手法に変更しはじめているのかといえば、レクサスISの変更時に伺った説明によれば、第一にハブ面とホイールの締結力が強まることで剛性感が高まることで、操舵応答性の向上や操舵のスッキリ感に寄与すること。二次的要素として、数値的にはわずかながらもバネ下重量の軽量化ができることで、バネストロークにおける追従性の向上というものであった。
レクサスISで言えば、その効果は間違いなく体感できる差を及ぼしており、レクサスには全般に厳しい目を向けてきた私でさえも、レクサスは本気でいいクルマ造りを目指していると感じさせたものだった。
それがトヨタ車に、そして共同開発のスバルもだが、採用されたということで、トヨタからも「いいクルマにしたい」という思いは伝わってくる。
ところがだ、本来ハブ面とホイールの締結力を強めるはずが、ハードな走行環境ではハブボルトが緩む可能性がある、というのでは本末転倒といった声が出るもの仕方ない。原因は当然急ぎ調査中だろうし、今後対策も含めて公表されるだろうが、工場におけるハブボルト締め付けトルクの不足といった単純な理由ではなさそうなので、早く問題を解決し、信頼回復に臨んでほしい。
bZ4XとソルテラともにAWD仕様で長距離を乗り比べ
さて、bZ4Xとソルテラのプレス向けの公道試乗会が5月下旬に開催されてから約1カ月。すでにいろいろと記事も映像も出回っているだろうが、概要としては、走行距離約210km~270kmといった4コース中の1コースを走り、bZ4Xとソルテラの2台を途中で乗り換えて、目的地までの間に急速充電も途中でそれぞれ一度行ってくる、というものだった。
担当した車両はbZ4XがZグレード、ソルテラはET-HSで、いずれもAWD仕様、20インチタイヤを装着するものだったので、直接的な比較を行うにも好都合である。
最初に乗ったのがソルテラ。一斉に10台がスタートする試乗会なので、走行開始直後は前にも後ろにもbZ4Xかソルテラがいる状況の中で、ひとつ気づかされたのが、リヤビューの印象が希薄なことだった。
ルームミラーに映るフロントビューは、他車との違いがそれなりにわかるのだが、前にいる車両のリヤビューは数台離れてしまうと、同乗の編集者とともに、「あれはbZ4X? それともRAV4かな?」みたいな会話が増えていく。間近で見ているのとは違い、思っていたよりもデザインには個性が乏しいように感じられたのはひとつの発見だ。
ただ、テールランプが点灯している状況では、bZ4Xのほうは左右に繋がった一直線のコンビネーションランプデザインにより、他車との違いはわかりやすくなる。
加速感をわざとらしく強調しない大人な味付け
ところで、EVの試乗は少し気が重いところがある。なぜなら、ICE(内燃エンジン)に多段ATやDCTの組み合わせのような、車両ごとのパワーユニットによる明確な走り感の差が得られ難いからだ。もちろん、EV各車もその点で苦労は感じられ、パワーの増減に対して人工的に独自のサウンドを奏でるようにしてあったり、加速特性の制御に工夫をしたり、減速回生の特性に差を与えたりなどはある。だが、エンジン特性+変速機の特性のような、体感的にも官能的にも明確に違うといったものは、この点で秀でているポルシェ・タイカンなどごく一部を除けば、なかなか得難い。
この点から言っても、bZ4XもソルテラもEVとして極めて平凡には思えるのだが、EVにありがちなというよりも、それを長所として強調しがちな、強烈な初期加速性能を無闇に用いていないことに、逆に好感が持てた。
これは、サーキットで開催されたプロトタイプでの試乗時にも感じていたが、リアルワールドでは、EVとしてはジェントルにも感じさせる発進加速や80km/h域くらいまでの中間加速性能も、それでも、ちょっとした2L級スポーツカー並みで、必要にして十分以上。むしろ、同乗者にも過剰な前後G変化や、あるいはそれによる恐怖感といったものを与えないで済むのは好ましいと思えている。