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バイク乗りはクルマを走らせても速い! ライディングから学ぶクルマのドラテク向上術

バイクのサーキット走行

危険回避やライン取りがよりシビアなバイクから学ぶドラテク向上術

 昔の若者たちは16才で二輪の免許を取得し、さんざんバイクに乗った上で18才になると四輪(普通自動車)免許を取得してクルマに乗り換えるという、いわば乗り物のステップアップを当たり前のように実践していた。どちらが上でもどちらが楽しいというわけでもなく、免許制度もあって必然的にそうならざる得ない部分もあったのだ。しかし、時代は変わって今ではそんな若者の乗り物文化も衰退の一途を辿っており、今でも二輪と四輪を愛する筆者としては寂しいばかり。

伝説のレーサーたちは二輪から四輪に乗り替えても速いことを証明

 とくに二輪を経験してから四輪に乗り替えることでドライビングにも好影響を及ぼしているのではないかと感じることがある。そこで今一度、二輪と四輪の走らせ方について考えてみようというのが今回のテーマだ。きっかけは先日、他界されたレジェンドレーサーである高橋国光さんの存在。クルマ好きの方ならご存じだと思うが、高橋国光さんは1960年代にはホンダワークスのライダーとして世界GPに参戦し、日本人初の世界GP優勝を遂げたバイク界でもレジェンド中のレジェンドなのだ。

 その後は四輪のレーサーに転身し、華々しい戦績を収めるのはご存じの通りだろう。さらに星野一義さん、宮城 光さんといった元二輪レーサーが四輪レースで活躍するケースは過去も現在も変わらず。そこから二輪のライディングテクニックは四輪の操縦に好影響を与えているのではないか? という仮説を立てながら原稿を進めていくことにした。

ライダーが四輪でも速い理由はシビアなライン取りを習得しているから

 二輪と四輪では操縦することを指す言葉が異なる。バイク=ライディング、クルマ=ドライビングと違うことから、まったく別のテクニックだと考えても良いだろう。車体を傾けてコーナリングする二輪とハンドル操作をメインにしている四輪では、コーナリングのアプローチも異なる。シフト操作やアクセルワーク、ブレーキングなどの操作系もまったくの別物だ。しかしスポーツ走行、とくにサーキットに限定すれば基本的な思考はそれほど違いはないのかもしれない。その証拠に、二輪でサーキットを走っていた一般のライダーが、クルマに乗り替えてもそこそこのペースでサーキットを走れてしまうのを見たり聞いたりしたことがある。

 そんな現象が起きてしまうのはなぜなのだろうか? と考えると、ひとつはライン取りが要因になっている。もちろんパワーや速度域、旋回性能が異なる二輪と四輪ではライン取りも同じではない。しかし進入のアプローチからクリッピングポイントをどこに置くか、加速のタイミングなどの基本思想は同じ。これを身体でマスターしているライダーなら、クルマに乗った際に目指すべきライン取りも比較的短時間でマスターできるのだろう。

 サーキットでは“あるある”なのだが、サーキット初心者は多くの場合コース幅をいっぱいに使った走り方ができないケースが多い。コースの中央部分のみを走りがちで、コースの両サイドを余らせてしまう。そのため、例えばアウトインアウトのライン取りができず、結果的にコーナーリング速度が上げられないのだ。なかには一般道の癖が抜けずコースの左側に偏って走ってしまう初心者もいる。コースをフルに使った走り方ができるかどうかが、サーキット初心者にとって初めに乗り越えるべきハードルなのだ。これができるだけでも二輪でサーキットを経験しているライダーが、四輪でもある程度結果を残せるようになる理由になるのではないだろうか。

クリッピングポイントを意識した走りで重要なのは視線の送り方

 さらにサーキットでコーナーリングをより速くスムースに抜ける(曲がる)には、視線移動が非常に大切になる。二輪は車体を大きく傾けてコーナーにアプローチするため視線の送り方が重要だ。そこで視線を持って行く先はコーナーの出口方向がセオリーになる。コーナー進入時にはクリッピングポイントあたりを目指しているのだが、コーナーに進入しながら徐々に視線を先に移していく必要があるのだ。

 しかし初心者にありがちなNG例が、進入時に見ていたクリップ付近のゼブラ(縁石)を見続けてしまうこと。これだと視線が近すぎてアクセルを早開けできず、いつまでもパーシャル(ハーフスロットル)で走り続けることになりかねない。早めに先へ先へと視線を移動させて行くことが速く走るコツのひとつなのだ。

 また視線を送る方向にバイクが向かうというのはある意味真実だろう。コースアウトしそうになって、うっかりアウト側のグラベルを見てしまうと、そこに吸い込まれるようにコースから飛び出してしまうことがある。こんなときには頑張ってコースのイン側をガン見して我慢することで、コースアウトを免れたという経験を持つライダーも多い。またブラインドコーナーでもその先を意識して、実際には見えていないコーナー出口をイメージしながら視線を送ることになるので、視線をどこに持っていくかを意識した練習は初心者だとかなり効果的。

 もちろん、これは四輪でも同じことが言える。コーナーリング中の視線はアクセル操作やハンドル操作に大きく影響するので、結果的にラップタイムに反映される。こんな基本項目がきっちり身体に染みついている二輪ライダーなら、四輪に乗り替えてもスムースにサーキットを走らせることができるのだ。

自分の身を守る危険回避テクニックも二輪のライディングが参考になる

 さらに危険回避の能力も二輪の走行で培うものは多い。二輪は他車との接触が即転倒に直結するので、かなり神経質になる。自分より速いバイクが後ろから近づいてきた場合は、どの位置にいるのか、どっちから抜きにかかるのかなど、背後からの音や気配(大きく回り込んだヘアピンコーナーなどでは後続が早めに確認でき、またコーナリング中に視界の隅で後続車の片鱗を捉えることもある)で感じとっているのだ。

 これができていれば不用意な接触は避けられるし、安全に走行できることは多くのライダーは体感的に知っている。この危険回避の鍛錬は、四輪でも、さらには一般道でも役に立つことだ。漫然とクルマを運転しているだけではなく、バックミラーで他車の存在を小まめに確認しながら周囲の様子を把握し、スムースなドライブができるようになることで、安全運転につながるのだ(サーキットだけではなく、一般道や高速道路でも同じ)。

 このように二輪のテクニックが、どこかで四輪の操縦にも役立っているケースがあるのは事実だと言える。極限の状態で挙動や操作を実践するモータースポーツの世界なら、それはなおさらだ。二輪のライディングから学ぶことで四輪のドライビングテクニックや安全運転に寄与する部分は必ずあると言える。とくに二輪も四輪もどちらにも乗る方なら、積極的に参考にしていくといいだろう。

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