TOYOTA GAZOO Racingが3年ぶりにニュルへ帰ってきた
2020年に突如世界にまん延した新型コロナウイルスの感染拡大防止策により、長らく日本からの渡航が叶わず、本来ならばもっと早くにニュルでGR86をお披露目する予定だったTOYOTA GAZOO Racing。ワクチン接種の普及や感染者数の低下により、徐々にドイツでの感染拡大防止措置の緩和が発表されたこともあり、やっとニュルへの参戦が叶ったのだった。
レクサスLCとGR86の2台体制で挑む
レクサスLCは長らくニュルにおけるTOYOTA GAZOO Racingの顔となる1台。日本を代表するスーパーカーの一台としても有名だが、パワフルでスタイリッシュな大人のスポーツクーペであるレクサスLC500を、ヨーロッパではほぼ見かけることがない。そのため、こちらも久々のニュル登場とあってフォトジェニックな1枚として数多くの人が写真に収めていた。
NLS(ニュル耐久シリーズ)は予選から決勝まで土曜日1日で完結する4時間耐久レースイベントなのだが、前日の金曜日には希望するチームのみ別料金を主催者に支払い、フリー走行が可能となる。午前中のグランプリコースのみの走行と午後のノルドシュライフェを含めた走行にTOYOTA GAZOO Racingもエントリーし、この日はじめて3年ぶりのニュルの感触を確かめた。
おもにセットアップやマシンコンディションの確認作業が行われ、両フリー走行で慣らし程度に走行し、現場での調整作業を行ってこの日は終了となった。夏至を迎えたばかりのニュルの日没は22時前で、明るい夏のヨーロッパの夜空に思わず時間を忘れてしまう。
予選は前日の不安定な天候から一転し好天のもと行われた
翌土曜日は午前8時半から1時間半に渡って予選が行われる。#345のSP-ProクラスのレクサスLCは石浦宏明、松井孝允と片岡龍也、#244のSP4クラスのGR86は、佐々木雅弘と片岡龍也(#345とダブルエントリー)がそれぞれドライブする。
前日のフリー走行ではドライとウエットが交互に現れる不安定なニュルウェザーだったが、この日は朝から爽やかな晴天に恵まれた。5月26~29日に開催されたニュル24時間レース後最初のNLSとなったが、朝から大勢の観客がノルドシュライフェやグランプリコースへと足を運び、コロナ禍以前の賑わいを見せた。
120台のエントリーとなった予選では、#345は総合34位、#244は94位で無事に通過。予選の後にはピットウォークが行われ、数多くのファンやチーム関係者がTOYOTA GAZOO Racingのピット前へ押し寄せ、3年ぶりに登場した“Made in Japan”のレーシングカーについて、旧モデルの86オーナーやファンがTOYOTA GAZOO Racingの関係者にマシンの仕様を伺うなど、かなりの注目を浴びていた。
3年ぶりのニュルとあり、スタートグリッドに並ぶチームにはほんの少しの緊張も見えたが、この地でふたたびレースができる歓びと誇りに溢れていた。
決勝はマイナートラブルが発生するも安定してラップを刻む
いよいよ午後12時、TOYOTA GAZOO Racingにとって3年ぶりのニュルでのレースがスタートした。綿密に組み立てられたレースプランに則り、着実に周回を重ねる2台。とくに片岡はダブルエントリーとあり、両車をドライブしながらその車両状況に気を配るという多忙な1日だったが、「久々にニュルをドライブし、このおっかなさと楽しさがたまらない」と、日本のレースにはないコンディションをエンジョイしていた。
LCはピットストップを終えて走り出そうとした際、突如エンジンがストップするという突発的なトラブルも見受けられたものの、一旦ピットへ車両を入れ、点検をしたあとにまたすぐにコース復帰を果たし、ほっと胸をなでおろした。足まわりやエアロパーツを強化し、量販車へその技術を活かすための参戦というだけに、ニュルで表れたどんな小さなトラブルさえも、よりよいクルマ作りへの糧となるのだ。
4時間耐久レースだが、もはや一瞬たりともペースダウンが許されないスプリントレースと化したNLS。#244のGR86は初戦を総合74位、SP4クラスでは1位を獲得。また、#345のレクサスLCは総合49位、SP-Proクラスの1位という結果に、両車とTOYOTA GAZOO Racingにとって幸先のよいニュル復活となったことは間違いないだろう。
新型GR86は現地のチームやファンからも大注目
日本ではひと足早くスーパー耐久シリーズでデビューしているGR86だが、S耐用は1.4Lのターボエンジンが搭載されている。このニュルに初登場した#244のGR86は、パワフルな2.4Lの量販車エンジンをそのまま採用していることも注目すべき点のひとつである。
そして『峠』と言っても過言ではないニュルでFRがどのように立ち回り、そして通用するのか、一般量販車ユーザーにも非常に興味深いのではないだろうか。現在ニュルでも活躍している旧型とはデザインも一新され、現地のレース関係者からもかなりの高評価を得ている。
また、レース初心者やアマチュアドライバーからトッププロまで幅広い層が活躍するNLSでは、レーシングカーの安全性や操作性、そしてデザイン性にもかなり手厳から。それだけに、彼らに新型のGR86を購入してニュルを走ってみたい、レースに出てみたいと思わせるクルマ作りには、TOYOTA GAZOO Racingの並々ならぬ情熱や厳しい視点が十分に込められているに違いない。
ドイツでは量販車のGR86のデリバリーはまだ始まっていない事もあり、ファンのたくさんの期待がこのTOYOTA GAZOO RacingのNLS初参戦には寄せられていたことは容易に想像ができる。
両車ともに次に9月開催されるNLSの第6戦の12時間レース(6時間耐久レースⅹ2戦)に参戦する予定で、まだ正式なエントリーリストは出ていないが、TOYOTA GAZOO Racingのプレスリリースを見る限り、レクサスLCには石浦宏明と松井孝允に加え、大嶋和也と蒲生尚弥、そしてGR86には片岡龍也、佐々木雅弘に加え山下健太と豊田章男社長の長男でウーブン・プラネット・ホールディングスのシニア・バイス・プレジデントを務め、スーパー耐久シリーズでは#28のORC ROOKIE GR86 CNF Conceptをドライブする豊田大輔も名を連ねる豪華なラインアップが期待できそうだ。
※文中敬称略