博物館級のマシンが走る貴重なイベント
かつてヒルクライムの公式競技が行われたコースを、ヒストリックカーで駆け上っていくヴェルナスカ・シルバーフラッグ。前回はTurismo(ツーリングカー)からGran Turismo(GTカー)、Sport(スポーツカー)の3クラスで気になった車輌を紹介しましたが、その第2弾として今回はPrototipo(プロトタイプカー)、Monoposto(シングルシーター=レーシングフォーミュラ)を紹介していきます。
世界にたった1台だけのカルトなモデルが登場
Prototipoで気になったクルマのトップバッターはザウバー(Sauber)のレーシングスポーツ、C2です。今ではF1GPに参戦するチームとして知られるザウバーですが、F1GPに参戦する以前はダイムラー・ベンツとジョイント。またそれ以前は独自にクルマを開発して独自のチームとしてル・マン24時間などのスポーツカーレースのトップランナーとして活躍していました。
C2-001はその名前通り、ザウバーが2番目に製作したレーシングスポーツの1号車で、鋼管スペースフレームに1.6L直4のコスワースFVCを搭載していました。リヤカウルのデザイン処理が独特で“手作り感満載”ですが、わずか480kgの軽量さを武器にヒルクライムで3勝を挙げています。
続いてはセレニッシマ(Serenissima)のジェット・コンペティツィオーネです。セレニッシマと聞いてピンときたなら相当なレースマニア。マクラーレンが66年のイギリスGPで初ポイントを手に入れたときのエンジンはセレニッシマのV8でした。
もともとはフェラーリでレースを戦っていたレーシングチームでしたが、フェラーリの内部抗争の際に反乱軍を支援してエンツォと袂を分かった経緯があり、その後はエンジンやレーシングマシンまでをも製作しています。
もっとも、これらは元フェラーリのエンジニアたちによる仕事で、鋼管スペースフレームのミッド部分に350bhpを発生する3LのV8ツインカム・エンジンを搭載。アルミ製のボディはフォードGT40ほどには低全高を追求していなくて、スタイリング的にはよりコンサバなグランツーリスモに仕上がっていました。
本来はグループ4に分類したいところですが、クルマが1台生産されただけなので、公認されることもなくプロトタイプの扱いとなっています。そのため今回のヴェルナスカ・シルバーフラッグでも、Gran Turismo(GTカー)ではなく未公認車でPrototipoクラスに編入されていたというわけです。
そんなPrototipoクラスの3台目は、そのセレニッシマのエンジンで66年にGP初ポイントを手にしたマクラーレンが、67年シーズン用に開発したCan-Amシリーズ用のグループ7(オープンシーターのレーシングスポーツカー)、M1Cです。
Can-Am用の初代モデルはM1Aですが、これはワークスチームが使用し、M1Cはそのカスタマー用のモデルとして24台が製作されています。鋼管スペースフレームはアルミパネルで強化されていて、アルミモノコックへの移行期だったことがわかります。
事実、M1Cはマクラーレンにとって最後のスペースフレーム車となり、翌67年のCan-Amシリーズを6戦5勝と圧勝したM6C以降はモノコックフレームに置き換えられています。ともかく、スペースフレームとしては最後となるM1Cのシャシーに搭載されていたのは、カスタマー仕様としては一般的なシボレーの355c.i.(c.i.は立法インチ。約5.8L)スモールブロックV8で最高出力は500bhp以上を捻り出していました。
そんなアメリカンでビッグなプッシュロッドV8とは対照的に、アンダー1Lの直4ツインカム(イタリア流に言うならビアルベーロ)と精緻なエンジンを搭載したモデルが、Prototipoで気になったクルマの4台目、アバルト1000SPです。
その挑戦の歴史やカルロ・アバルトの魔術師とも称されるチューニングもさることながら、ボディがコンパクトで軽量なところが大きな魅力に映っています。全長×全幅×全高は3445mm×1625mm×930mmと、ボディサイズは軽自動車に比べて、全長で45mm長く、全幅で145mm幅広いだけ。車両重量も480kgと、わかりやすく日本で売れ筋のハイトワゴンと比べると半分ほど、最軽量級のミライースやアルトワークスと比べても200kg近くも軽く仕上がっています。
その一方で、軽自動車からすると約1.5倍の排気量……それでもリッターカーの範疇です(そこから105psを絞り出していることにも驚きです。もっとも個人的には愛くるしいスタイリングだけでも十分に納得できる出来栄えなんですけれど)。