来世に語り継ぎたい名エンジンたちはたくさんある!
その衝撃をいまも忘れられないのは、ホンダのVTECエンジンだ。VTECとは、Variable valve Timing and lift Electronic Control systemの頭文字をとった名称で、意味は、可変バルブタイミング・リフト機構である。
エンジンは、内部に空気をどれくらい採り入れられるかで出力が左右される。低回転でもたくさん空気を採り込めばトルクが大きくなり、発進や低速からの加速がしやすく、日常的に運転しやすい。一方、スポーツカーやレーシングカーのエンジンは、高回転で回したときに最大の空気量を得るのが目的で、そのためにはエンジン機構として、量産車エンジンと背反することになる。その違いを左右するのが、吸排気バルブの開閉時期であり、同時にそのリフト(開く)量だ。
VTECは、背反する両方の目的をひとつのエンジンで同時に実現できるよう、吸排気バルブの開閉時期と、リフト量を変更できるようにした機構だ。これにより、日常の運転ではじつに扱いやすく、一方アクセルペダルを深く踏み込み、3000rpm以上に高まると、排気音がグンと高鳴り、猛然と加速させる高出力を出す。その劇的な変化には興奮せずにいられなかった。
VTECを最初に搭載したのはインテグラであり、次いでシビックにも搭載された。当然、ミッドシップスポーツカーのNSXもVTECエンジンである。また、VTECは、単に実用性と高性能の両立だけに止まらず、燃費向上にも寄与した。まさにホンダエンジンの根幹となり、世界一のエンジンメーカーとして面目躍如たる技術でもある。
ロータリーエンジンの頂点だった20Bエンジン
忘れがたいもうひとつのエンジンは、ユーノス・コスモに搭載された3ローターの20Bエンジンだ。そもそもロータリーエンジンは、上下振動がないため滑らかで、トルク特性も大きな山を持つというよりモーターのように際限なく加速させる独特の味わいを持っている。
コスモスポーツの時代から、マツダはずっと2ローターで開発してきたが、バブル経済の後押しもあっただろう、1990年に発売されたユーノス・コスモで世界初(2ローターはドイツのNSUがマツダより先に実用化している)の3ローターエンジン車の市販に至った。
レシプロエンジンでいえば、直列6気筒かV型12気筒かというほど、いっそう滑らかで、しかも排気量が増える分、力強さも加わり猛烈な加速を味わえた。国内自主規制により280psとされたが、設計は333psであったとも伝えられる。そしてマツダは、91年に4ローターエンジンでフランスのル・マン24時間レースを日本の自動車メーカーとして初めて制するのである。当時が、ロータリーエンジンの頂点であったのではないか。
まだまだある記憶に残る名エンジン
ほかに、記憶に残るエンジンとして、トヨタの1Gと日産のRBという、いずれも直列6気筒ガソリンエンジンがある。1Gは、マークIIなどに搭載され、ハイメカツインカムの呼称で、洗練された4バルブDOHCエンジンへ発展する。
RBは、それまでのL型に代わるエンジンとしてスカイラインに搭載され、4バルブDOHCへの発展過程で武骨ながら力強い素性を体感させ、GT-R復活に際してのエンジンにもなっていく。
いずれのエンジンも、1980年代後半から90年代にかけての作であり、70年代に苦戦した排出ガス規制を乗り越え、高性能化への道を歩みはじめた日本の自動車メーカーの力作といえるのではないか。