時代を先取りしすぎたライフ ステップバン
軽トールワゴン、軽ハイトワゴンが軽自動車の主流になって久しいが、その“走り”は、スズキの初代ワゴンRといえるだろう。しかし、コンセプトのルーツを辿っていくと、ホンダのライフ ステップバンに行き着く。
背が高く、キャビンが広く低床で、リヤシートを倒すとフラットな荷室空間。しかも乗用車並みの乗り心地を誇る1.5ボックスとなれば、いまのミニバンの文法そのものと言える。ステップバンのデビューは1972年9月。ワゴンRが登場する21年も前のことで、いかに先進性があったかわかるはずだ。
軽乗用車から派生したステップバン
そんなステップバンが上掲のような特徴を持ち合わせたのは、ベースがホンダの軽乗用車「ライフ」で、そのプラットフォームを流用したことがすごく大きい。
ライフは水冷2気筒の360ccエンジンを積んだFFの乗用車で、ステップバンも商用バンにもかかわらず他社にはないFFレイアウトを採用したのが最大の特徴となった。FFなので居住スペースが広く、低床を実現。商用バンといいつつも、ベースは乗用車なので、乗り心地も快適だった。
ライバルの他車は、軽乗用車から派生したボンネットタイプのバンか、キャブオーバータイプのワンボックスバンだったため、1.5ボックスのステップバンのオリジナリティは際立っていた。そして車高は1620mm! 初代ワゴンRが1680mmだったので、軽自動車が360ccの時代にこの高さというのは革新的だった(ステップバン:全長2995mm、全幅 1295mm、全高1620mm/初代ワゴンR:全長3295mm、全幅1395mm、全高1680mm)。
背が高く、タイヤが車体の四隅にあって、四角いボディでスペースが広いというのは、実用車の王道。
インテリアも独創的で、メーターはこの時代からセンターメーターを採用している。ダッシュボードも凝っていて、車内で伝票などが書けるように、フラットなデスクタイプのデザインになっていて、丁寧にダッシュボードの隅にはペン立てまで用意されていた。
そういう意味では、「モバイルカー」の元祖といった存在でもある。
デビューが少しだけ早かった……
ドアはスライドドアではなかったが、大きめのドアで乗降性もよく、上下2分割リヤゲートは大きな荷物も積みやすい設計。エンジンもホンダらしく、カムのタイミングベルトに国産車で初めてコッグドベルトを採用していた。バランスシャフトまで備えていたので、振動が少なくスムースで静粛性にも優れていた(最高出力30ps/8000rpm、最大トルク2.9kgm/6000rpm)。
しかし時代を先取りしすぎたのか、販売は意外に振るわず、総生産台数は1万8297台、製造期間2年3ヶ月という短命に終わってしまった……。とはいえ21年の時を経て、ワゴンRがステップバンの文法を取り入れ、大ヒットすると、ホンダも1996年にFFの元祖ミニバン、ステップワゴンを投入!
他車のミニバンがFRのキャブオーバータイプだったのに対し、ステップワゴンは、ステップバンのDNAを受け継ぐFFの1.5ボックスのスペースユーティリティと低価格を武器に、月間販売台数1万台以上の大ヒットを記録。見事ステップバンの敵を討つことに成功している。
またホンダのNシリーズ初の商用車として、2018年7月にデビューしたホンダN-VANも、ステップバンの衣鉢を継いだ一台と位置づけてもいい。最近ではホンダN-VANのカスタムとして、ステップバンのフェイスに変更するキットも販売されているほど。
そう考えると、ステップバンももう少し長い目で見て、根気強く売り続ければ、コンセプトだけでなく販売面でも優れた名車として、人々の記憶に残ったのではなかろうか。