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なぜ日本で煽られ運転がなくならない? イギリスを代表するクルマの祭典「グッドウッド」は障害者への配慮が先進的だった

ヒストリックカーのイベントとしては世界最大規模の「グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード」

「グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード」が今年も開催

 さてさて過日、2022年6月23日~26日にかけてイギリス南部で行われた、「グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード」。毎年6月末から7月頭の週末に英国GPとずらして開催され、周年記念を迎えたコンストラクターをテーマに、ヒストリックカーの世界では随一の質を誇るミーティングかつヒルクライム・イベントだ。

カーイベントで類を見ない丁寧な「アクセシビリティ・ガイド」

 会場は、主催者のリッチモンド公爵家とグッドウッドのサーキットの複雑な関係から、公爵の私邸、つまり私有地で行われているので、決してパブリック・スペースではない。だがグランド・パブリック、つまり一般の観客を広く迎える機会として「アクセシビリティ・ガイド」が事前に公式サイトその他で公開&配布されているのだが、これが素晴らしくよく造り込まれている。平たくいって、ノブレス・オブリージュの完璧な一例が、自動車イベントとして体現されているような調子なのだ。

 最初の一文はこうだ。「われわれは訪れるすべての人々が、グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードという経験を楽しめるようコミットしている。そのためアクセシビリティに関するキー・インフォメーションを諸々、集めてみた」と。

 かくして、いの一番にパーキング情報が示されるのだが、すべてのパブリック・パーキングの最前列に身体障害者用スペースがあること。ブルー・バッジつまり身障者マークを掲げておけば、誘導されること。不安があれば、身障者専用のスペースやシャトルを事前予約できるし、好きなゲートで降りられること。

 要はほとんどが、広いイベント会場でアクセスやモビリティに難が起きやすい、身障者向けの情報で始まっているのだ。

 もちろんそれらに続いて、ショップ・エリアや観戦エリアやトイレの案内、さらには場内のトラック横断時の諸注意といった説明があるのだが、ここまで至ると「身障者」ではなく「車椅子ユーザー」と言い換えられ、チケットの有無によっては入れるスタンドまで示されている。

 つまり、パブリック・スペースではない会場内で、もっともヴァルネラブルな(vulnerable/脆弱性の高い)交通参加者となる身障者が、気兼ねなくアクセス&移動できる枠組みを用意するだけでなく、健常者たる来場者にも、まず同じ諸注意を一読させ、意識させているのだ。

「思いやり」とは違う合理的なイギリスのマナー感覚

 一定の公共性あるスペースで、ほとんど自然法として、交通の流れが「ヴァルネラブル順」に仕切られているのは、イギリスのみならず欧州でも北米でも常識だったりする。ヨーロッパの田舎道で、クルマが思い切り自転車と距離を開けて抜き去るのも、考えの根っこは同じ。

 非ヴァルネラブルな立場の人ほど率先して公の場では譲るべし、的なノブレス・オブリージュの感覚は、階級社会の産物という側面も確かにある。いずれにせよ、歩道も走れるのだからと電動ママチャリが歩行者に対して幅を利かせたり、電車の中でいい年した男女がスペースを主張する挙句に喧嘩しはじめたり、狭い対面交通でも譲らないコワモテSUVやミニバンだらけで、逆に追越車線では煽られ運転が延々と居座り続けている、それが当たり前の国にいると、とっても分かりづらい感覚かもしれない。

 だが、少なくとも文明国では、一時的にせよ他人とのスペース共有を円滑にするための、ごくシンプルな原理であることをお忘れなく。そもそも、他人と必要以上に関わらないための知恵でもあるのだから。

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