安価でより進化したモデルに駆逐され、約60年のロングライフに幕
一方、これと対照的な道程を選んだメーカーとしては「マルチ・スズキ・インディア」があります。1971年に、当時のインディラ・ガンディー首相の次男でクルマ好きだったサンジャイ・ガンディー氏によって設立された「マルチ(Maruti)」がその前身でしたが、彼の死後、インド政府によって国営企業の「マルチ・ウドヨグ」となり、1982年にはスズキ(当時は鈴木自動車工業)と合弁でマルチ・スズキ・インディアが誕生しています。
ちなみに当時は国営企業との合弁でしたが、2002年にはスズキが出資比率を高めており、現在ではスズキの完全子会社となっています。このマルチ・スズキ・インディアの場合、1970年代序盤には日本国内の軽自動車マーケットにおいてリーディングカンパニーとなっていたスズキとの提携で、最新かつ高度な技術が導入され、その後も新たな技術が次々と導入されていきました。
その結果としてヒンドゥスタン・モーターズのアンバサダーは、1983年にデビューしたマルチ・スズキ・インディアの「マルチ800」(日本国内で大ヒット商品となったスズキ・アルトをベースに800ccエンジンを搭載)に駆逐されてしまい、2014年に生産終了となっています。
またメーカーのヒンドゥスタン・モーターズも、インド国内でのトップメーカーの座から追い落とされてしまいました。フィアット1100をライセンス生産していたプレミア社の「パドミニ」や、イギリスのスタンダード社がインド国内で生産していたギャゼルも、大きな技術改変なく生産されていましたが、その終了を余儀なくされています。
ヒンドゥスタン・アンバサダーのメカニズムについても少し紹介しておきましょう。3ボックススタイルの4ドアセダンで、サスペンションはフロントがダブルウィッシュボーン式の独立懸架、スプリングには縦置きのトーションバーを使用しています。リヤはリーフスプリングでアクスルを吊ったリジッド式。
搭載されるエンジンは、先にも触れたように、当初はシングルキャブで55psを発生するBMCのBシリーズ、1489cc(73.0mmφ×89.0mm)の直4プッシュロッドのみでしたが、1992年にはいすゞ製の4ZB1型1.8L直4、SOHC8バルブ・エンジンが搭載されたアンバサダー1800ISZが設定されています。またほかにもBMCのBシリーズ1.5Lをガソリン仕様からコンバートしたディーゼル仕様や、いすゞ製の4FC1型(1995cc=84.0mmφ×90.0mmのSOHC 8バルブ。最高出力はターボ付きで75ps、NA仕様で50ps)などのユニットも選べるようになっていました。