カローラ/スプリンターのホットモデルだった
ひと回り軽量コンパクトなボディに、ひと回りハイパワーなエンジンを搭載すること。これが古来よりハイパフォーマンスカーを仕立てる上での公式でした。クルマの動力性能が物理学の定理に依る以上、これは紛れもない事実で、こうして生まれたハイパフォーマンスカーは枚挙に暇がありません。
今回紹介するトヨタのカローラ・レビン/スプリンター・トレノもこの例に漏れるものではありません。レビン/トレノと言えば現行のGR86に名を遺すAE86系が有名ですが、今回はその先祖にあたるTE27系を紹介することにしましょう。
トヨタのベストセラー車「カローラ」にセリカのエンジンを搭載
トヨタ初の大衆車……今でいうところのBセグメントとして販売展開してきたパブリカの、ひとクラス上の兄貴分として初代カローラ(KE10系)がデビューしたのは1966年のことでした。当初は税制的にも切りの良い1000ccクラスとして開発が進められていました。
ライバルとなる日産のサニーが1000ccで開発されていることが分かり、急遽1100ccモデル(搭載されたエンジンは1077cc〈75.0mmφ×61.0mm〉のK型)として開発されることに。サニーの半年後のデビューとなりましたが『プラス100ccの余裕』をキャッチフレーズによって人気のあったサニーを凌駕し、以来トヨタの屋台骨を支えるトップセラーとなりました。
ちなみに、サニーは最初のモデルチェンジで1200ccモデルを投入し『隣のクルマが小さく見えまーす』と反撃したエピソードは有名で、カローラvsサニーの販売競争が激化していたのも今では懐かしい思い出です。
そんな初代カローラは、デビューから1年半後に2ドアクーペのカローラ・スプリンターを追加設定。同時に排気量は1100ccのままツインキャブでチューニングしたK-B型エンジンを搭載したSLも登場させています。
またモデルライフ終盤には1166cc〈75.0mmφ×66.0mm〉に排気量を拡大した3Kエンジン搭載モデルも登場していました。そんなカローラは1970年の5月に初のフルモデルチェンジを受け、2代目のK20系に移行。その際に、基幹エンジンは3K型とされていましたが、4カ月後には新開発のプッシュロッド直4、1407cc〈80.0mmφ×70.0mm〉のT型エンジンを搭載する1400シリーズが追加設定され、やがてそちらが主流となっていきます。
かつてK型にツインキャブを装着してパワーアップしたK-B型が追加投入されたように、T型にもツインキャブでチューニングを施したT-B型が追加設定され、カローラ/スプリンターにホットモデルのSLが誕生しています。
ちなみに、初代カローラの2ドアクーペのグレード名として誕生したスプリンターは、カローラが2代目に進化した際に、シリーズとして独立し、ブランド名として存続することになっていました。そんなカローラ/スプリンターのホットモデルの真打となったのが2代目のデビューから2年後、72年3月に登場したカローラ・レビン/スプリンター・トレノでした。
カローラ/スプリンターの2ドアクーペボディに、ひとクラス上のスペシャリティクーペであるセリカの、シリーズ最高峰モデルとなっていた1600GT用の2T-Gエンジン(排気量1588cc〈85.0mmφ×70.0mm〉のツインカム8バルブ)を搭載したもの。
シャシーを強化するとともに、ボディに前後のオーバーフェンダーを装着していたのが大きな特徴でした。この時点でレビン/トレノのサイズと車重は、全長×全幅×全高がそれぞれ3965mm×1595mm×1335mmで855kg。
ベースとなったカローラ/スプリンターの2ドアクーペに対してオーバーフェンダーを装着したことで、全幅が1505mmから90mm幅広くなっているのを除けば、同サイズで車両重量も1400クーペのSLグレードに対して5kgの増加にとどまっていました。
一方のセリカ1600GTは、サイズが4165mm×1600mm×1310mmで車両重量が940kgでしたから、明らかにレビン/トレノの方が軽量コンパクトに仕上がっていて、ハイパフォーマンスなクルマを仕立てる公式に則っていたことが分かります。