軽ターボと比較しても圧巻の動力性能
三菱eKクロスEVは、日本の軽自動車の新たな歴史を刻むとともに、日本における電気自動車の普及に大きく貢献しうる1台と言っていい。三菱eKワゴンと日産デイズの関係がそうであるように、例によって日産と三菱の合弁会社NMKVの企画・マネジメントの元、三菱はekクロスベースのEV、日産側はデイズをベースにしながらも、アリアを彷彿させるまったく異なるデザイン、サクラという車名で登場することになった。
三菱がSUVテイストあるeKクロスに限りなく近いデザインで軽EVを登場させたのは、三菱が得意とするアウトランダー、エクリプスクロスに通じるSUV路線の1台として位置づけたからと考えていいだろう。なお、駆動方式は2WDのみの展開だ。
PHEVではなくBEV(バッテリーEV)となると気になるのが一充電航続距離だが、WLTCモードで180kmとされている。BEVとしてはシティコミューター的航続距離だが、それは都会を中心とした普段の足、あるいはガソリンスタンドの廃業が相次ぐ地方の足を念頭に、あえてリチウムイオンバッテリーの総電力量を20kWh(最高速度130km/h)に抑えているからにほかならない。
結果、価格は電気自動車にしてベースグレードのGで239万8000円からの価格設定となり、国からの補助金によって実質184万8000円からの価格で手に入れることができるのである(さらに自治体からの補助金もある)。つまり、軽自動車のターボ最上級グレードとさほど変わらない、身近な購入金額となるわけだ。
ちなみに航続距離180kmをどう見るかだが、長距離ドライブでは途中充電が必要になるものの、eKクロスEVはあくまで軽自動車規格であり、軽自動車ユーザーの1日の走行距離が50km以下(三菱自社調べ)というデータからすれば、エアコンなどを使った実質航続距離140kmと仮定しても、ほぼ3日に1回充電すればよいことになる。
eKクロスEVの使い勝手からすれば、約80%まで約40分かかる急速充電よりも、自宅などでの200V普通充電が現実的で、2.9KWで満充電まで約8時間だから、寝ている間に充電が完了。これもバッテリーの総電力量20kWhに抑えたメリットと言えるだろう。
見た目こそeKクロスと同じだがインテリアは別デザイン
見ての通り、エクステリアデザイン(とパッケージ)は細部を除き、eKクロスを踏襲している。ゆえに室内空間もまた、eKクロスと同一と考えていい。そう、居住性としては身長172cmの筆者基準で、前席頭上に215mm、後席頭上に170mm、そして後席膝周りに340mmという空間が広がっているわけだ。
後席フロアは限りなくフラットで、足元も広々。下手なコンパクトカーを凌ぐ寛ぎ感が、クッションの厚みを増した前後シートのかけ心地の良さとともに実感できることになる。ただし、2WDのみの駆動方式ながら、eKクロス同等のはずの荷室は、床下のみ4WD基準となる(バッテリーを収めるため)。
サクラではオプション扱いとなるが、eKクロスEVでは標準装備となる200V用充電コード(レス仕様あり。ー1万9800円)やパンク修理キットなどで満杯だ。eKクロス(FF)では54Lもある床下収納はないと言っていい……。
とはいえ、インテリアはeKクロスとはまったく別デザイン。7インチカラー液晶メーター、9インチ大画面のスマートフォン連携ナビゲーション(Pグレードに標準装備、Gグレードはオプション)を備えるほか、シフターはスクエアデザインの電制シフトとなり、BEV感覚、先進感を強調する。
ボンネット内に搭載されたモーターのスペックは最高出力こそ軽自動車規格上限の64psだが、最大トルクはなんと19.9kg-mもある。つまり軽ターボの倍近い、それこそ2Lガソリン車並みの大トルクを発揮するあたりは、なるほどBEVならではのモーターパワーである(eKクロスターボの最大トルクは10.2kg-m)。しかもそのトルクを0~2302rpmで発揮するのだから、比較にならないと断言できる。
試乗したeKクロスEVは上級のPグレード(293万2600円)。Gグレードよりいきなり53万4600円も高くなってしまうのは、LEDフロントフォグランプ、ナビゲーション、ETC2.0ユニット、運転席&助手席シートヒーター、つながる安心のMITSUBISHIコネクト、SOSコール、リヤヒーターダクトなどが加わるからだ。
高速道路同一車線運転支援機能のMI-PILOT(日産プロパイロットと同じ)、ACCなどはPグレードでもオプションだが、マイパイロットパーキングはPグレードでのみ注文できるオプションだ。また、タイヤサイズもGグレードの14インチに対して、Pグレードは足元を引き締める15インチとなる(最小回転半径4.8mは変わらず)。
軽自動車とは思えない強烈な加速力を味わえる
さて、そんなeKクロスEVを走らせれば、まずは軽自動車規格ながら、電気自動車そのものの、モーターパワーによる静かさと伸びやかな加速力が味わえる(エアコンONで停車しているときの車外騒音はある)。しかも、乗り心地もまた素晴らしく、マイルドかつ高級感たっぷり。段差やゼブラゾーンを走破しても路面からのショック、振動は最小限だ。
いつもの道が再舗装されたかのように感じられ、今、軽自動車に乗っていることなど、忘れさせてくれるほどの上質かつフラットな乗り味を示してくれるのだ。100%モーター駆動だから、アクセル操作に対するモーターのレスポンスも過敏過ぎないレベルでリニア。意のままの加減速が可能となる。だから走りやすいのだ。なお、2WDのみの駆動方式だが、バッテリー積載要件のため、リヤサスはトーションビームからeKクロスの4WD同様の3リンクに変更している。
速度を上げていっても、パワートレーンからのノイズは皆無に近く、わずかな風きり音、そしてタイヤが発するロードノイズが目立つだけ。ステアリング右下、インパネ下部にあり、操作性は決して褒められないドライブモード(スイッチ)はエコ/ノーマル/スポーツの3種類。エコモードでも十二分に速いのだが、スポーツモードにセットすれば最高出力64ps、最大トルク19.9kg-mが炸裂。スムースさとパワフルさたっぷりの強烈な加速力さえ味わえるのだから恐れ入る(ただし、電費は当然悪化する)。
eKクロスEVにはいわゆるワンペダル機能のイノベーティブペダルオペレーションモードが備わっていて、アクセルペダルだけで減速コントロールが可能。その減速力はエコ→ノーマル→スポーツモードに従って強くなるのだが、エコ、ノーマルでの自然で違和感のない減速力が好印象。
軽自動車らしからぬ操縦安定性を持つ
かつてのワンペダル機能のような不自然さ、クルマ酔いを誘発しかねないギクシャク感はない。高速走行でエコモード×イノベーティブペダルオペレーションモードOFFにセットすれば、いわゆるコースティング走行のような気持ちいい滑走状態となり、電費向上にも貢献してくれるはずである。
バッテリーを床下に積む電動車と言えば、低重心自慢のクルマということになるのだが、交差点、カーブでの安定感は背の高いハイトワゴン系モデルとは思えないレベルにある。eKクロスEVの開発陣によれば前後重量配分は、かの“ランエボ”と同じ(!)前後56:44。軽自動車らしからぬ操縦安定性を持つのも、なるほど、ということになる。
ただし、首都高速にある急カーブに勢いよく突っ込んだ場面に限れば、低重心とハイト系軽自動車ならではの高めの着座位置のアンバランスからか、ドライバーにしてみれば、実際のロール量、安定感に対して、腰高感、左右の姿勢変化が大きく感じられるシーンもないわけではなかった。もっとも、カーブに適切な速度で進入すればそんなことを感じずに済むはずだが……。
というわけで、三菱eKクロスEVは割り切りある航続距離、バッテリー容量による買いやすい価格設定、これまでの軽自動車とは一線を画す上質な運転感覚、乗り心地、軽ターボと比較しても圧巻の動力性能、車内の圧倒的な静かさ、eKクロスとほぼ変わらないパッケージングによる居住性&実用性の高さなど、軽自動車のゲームチェンジャーになりうる商品力を備えた電気自動車だった。
eKクロスに準じたSUVテイストあるエクステリアデザインは、サクラよりアウトドアに似合い、ライトなアウトドア派ユーザーに受けることも間違いなしと思える。