GT-Rの速さと快適性を両立する難しさを突破
ストリートとサーキットの両立。この課題は簡単に実現できそうだがとても難しい。この難題に挑んでいるのが神奈川県横浜市にある『オートギャラリー横浜』の小川義康氏。R34スカイラインGT-Rを自らの愛車とし、デモカーとはまた別にサーキット走行を楽しんでいる。サーキットはストリートとは次元の違う負担がクルマのあらゆる部分に襲いかかる。それらをクリアしつつ、街中での快適性も追求していかなければならい。このR34には厳しい課題を乗り越えることで手に入れた独特の存在感がある。
(初出:GT-R Magazine158号)
若いころはタイムではなく純粋に走りを楽しむ
『オートギャラリー横浜』の小泉公二代表が絶大なる信頼を置く右腕であり、デモカーのドライバーも任せられている小川義康氏。二人の付き合いはとても長い。
「メカニックとして働きだして25年。それ以前からの知り合いで、パーツを買いにちょくちょく顔を出していましたから、小泉代表とは人生の半分以上を共にしています」
小川氏は当初、クルマとはまったく違う仕事に携わっていた。クルマはあくまでも趣味として楽しんでいたのだ。初めての愛車はHR30。その次がDR30と2台続けてスカイラインを所有して、その後はAE86を何台か乗り継いでいる。
「気の合う仲間と峠に行き始めて2~3台潰して、ぶつからない方法を自分なりに考えていく。考えても相変わらず事故ってしまう仲間は、走るの辞めていきました。走り好きならばみんなが通る道です」
小川氏の場合は考えても答えが出ない場合は信頼できる人に相談する。運良く仲間には恵まれていた。例えば箱根のワインディングの場合、横浜在住の小川氏よりも箱根に近い湘南方面に住んでいる人たちのほうが、思い立ったらすぐに走りに行けるので情報量が確実に多い。
「そんな人たちから走り方を教わるんです。『ここであの山肌の隙間からヘッドライトの光が見えたら、3つ先のコーナーで鉢合うから注意しろ』みたいな、普通の人ではとても気付けないような、ローカルルール的な知識が何かと役立ちました。気持ちに余裕ができて思いのほか、走りにプラスに働きます」
メカニックとして踏み出しサーキットへと舞台を移す
速く走るためにチューニングもやっていた。雑誌を片手に見よう見まねで取り組む。お金がないので作業をプロには頼めず、パーツだけ小泉代表のところで購入していたのだ。
「知識なんてありません。まずは分解する。動かなくなると困るので戻す手順がわかるように、メモしたり部分ごとに一つにまとめたりと、自分なりに必死に工夫していました。もちろん失敗もしましたが、不思議と失敗も楽しめていたんです。整備が性に合っていたと思います」
さすがに峠で無茶をするのもどうかと考え、26歳のころにはサーキットにステージを移した。どうしてもサーキットを走りたいというよりも、仲間に誘われてついて行ったというノリだ。当時の愛車はAE86で、仲間のクルマと連なって激走したのは痛快だった。峠ではこうはいかない。同じ走りでも時間が決められていたり、ヘルメットやグローブを使ったりと、とても新鮮で楽しかった。そこからいきなりサーキットにハマり込んだわけではなく、徐々にジワジワとサーキットの魅力に惹かれていった。
「今みたいにタイムや順位に縛られることがなく純粋に走りが楽しめました。感受性が豊かな若いころに体験ができたのは貴重だと思います」
AE86は30歳まで乗り続けて、その後はクルマをしばらく休む。すでにオートギャラリー横浜のメカニックとして働いていて、当時のデモカーであるR32のドライバーを任されていた時期だ。
それからしばらく経った平成23(2011)年に、初めてのGT-Rとなる現在の愛車を購入。デモカーとしてR34に散々接していたのだが、愛車もやはりGT-Rを選んだ。
サーキットでは躊躇なく命を預けられる存在
「最初はR32を探していましたが良い車両が見つからず、ちょうどR34の出物があったので即決です」
このクルマのコンセプトは日常では普通に使えて、サーキット走行も可能なこと。この両立は一見簡単そうにも思えるが、じつは奥が深くて高いレベルが要求される。生半可な仕様では過酷なサーキットには絶えられない。一方、普段使いのためにある部分だけが尖らないようにオールマイティに仕立てている。
ダクト一つ見ても、取り付け強度を考えて確実に効果のある部分に走行風が導けるなど細心の注意を払っている。ほとんどノーマルの外観ではあるが、そこかしこにある飛び石の傷や、若干低められた車高など、壮絶な走りを静かに主張している。
「デモカーにも乗っていますが、それでも愛車でサーキットを楽しみたい。好きなんですね、走りやチューニングが。この商売、仕事として始めたら続きません。好きだからこそのめり込んでいけるのです」
「小川くらいのドライバーだったらわかる」という小泉代表の言葉を取材中に何度か耳にした。普通の人にはわからないが、小川氏くらい繊細にクルマや路面の状況を判断できる運転のうまいドライバーにはわかる、という意味であり、小泉代表がどれほど小川氏を評価しているかがよくわかる。
300km/h超の領域を共有できるR34という相棒
ここまでのドライビングテクニックを身に付けられた秘訣とは一体何だろうか?
「競争……、ですかね。競うことが楽しくて、負けると悔しいから抜かれないように頑張る。とは言っても特別なことはしていません。何を頑張ったかって問われても具体的には答えられないんです。ただサーキットのブラインドコーナーは少しも怖くないです。常に思いっきり突っ込めます。万が一その先に遅いクルマがいたとしても、エスケープゾーンがあるので何とかする自信があります」
その反面、スピードが怖いと言う。富士スピードウェイのストレートでは300km/h以上は出てしまう。もはや何か起きてもどうすることもできない領域だ。
「実際に280km/hでタイヤがバーストしたことがあります。見事なまでに何もできませんでした。タイヤでクルマを引っ掻き回してかなりのダメージでしたが身体は無傷。運が良かったとしか言えません」
だから入念な点検を怠らない。とくにブレーキとタイヤは抜かりなく行う。トラブルはこの辺りが多く、逆にその他の部分に不具合が出たとしても諦めがつく。
小川氏の相棒R34GT-Rは全神経を集中した命がけの走りが共有できる存在だ。
オートギャラリー横浜 小川義康氏GT-R PROFILE
■所有車両:BNR34
■年式:1999年式
■乗り始め時期:2011年11月
■現在の総走行距離:5万9,874km
■現在の車両スペック
エンジン:HKS2.8Lキット/GTIII-2530タービン×2/レーシングサクション/フロントパイプ/スーパーターボマフラー加工、APEXスポーツキャタライザー/パワーフィルター、JUN272度カム×2 NISMOサージタンク BOSCHフューエルポンプ×2/1.000ccインジェクター、ワンオフコレクタータンク/オイルキャッチタンク/オイルセパレーター/冷却水エア抜きタンク
冷却系:SARDレーシングラジエター、HKSインタークーラー/オイルクーラー、GReddyデフクーラー、ワンオフミッションクーラー BENETECクーリングパネル
電子パーツ:HKS F-CON V Pro Ver3.3/EVC5、Do-Luckアテーサコントローラー
足まわり:HKSハイパーマックスSP、CUSCOフロントアッパーアーム/リヤアッパーアーム、NISMOフロントロアアーム/リヤロアアーム
駆動系:ATSカーボントリプルクラッチ/フロント1ウェイメタルLSD/リヤ2ウェイメタルLSD Auto Gallery Yokohamaクロスミッション/試作カーボンシンクロ
ブレーキ:フロントAP RACING 6ポットキャリパー+PFC390φローター+ENDLESSパッド リヤV35純正355φローター+ENDLESSパッド Auto Gallery Yokohama強化ナックル
エクステリア:Hasemi Motor Sportリヤアンダーフィン
インテリア:RECAROシート、SPARCOハーネス NARDIステアリング、HKSサーキットアタックカウンター、NEKO AF700、CUSCOロールケージ
ホイール:RAYS VOLK RACING ZE40(11J×18+15)
タイヤ:BS POTENZA S007A(285/35R18)
パワー&トルク:620ps/7700rpm 72kg-m/6200rpm