走りを両立するミニバンとして定着しつつある
家族が喜ぶ室内の広さや快適装備を満たしながら、走りにこだわる人も満足できるミニバンといえば、メーカーがワークスチューンを施して販売しているコンプリートミニバンたち。もう15年近く前から、「ミニバンでも気持ちよく走りたい」というユーザーの要望に応えるため、コンプリートミニバンの開発がスタートされていて、おもにトヨタ、ニッサン、ホンダがそうしたモデルを世に送り出しています。ただ、一般的には操縦安定性と乗り心地や快適性というのは、開発過程で相反する手法が求められるところなので、両立するのはとても難しいと言われています。
たとえば、それまでスポーツカーを愛していたお父さんが、「家族のためにしぶしぶミニバンを選びました」という風を装って、「これならバレないだろう」とバリバリのワークスチューンが施されたコンプリートミニバンを、家族には普通のミニバンと偽って購入したとしたら。さて、2列目・3列目に座る奥さまや子どもたちの反応は、いかがなものなのでしょうか? 本当に快適なのでしょうか? この際、正直にインプレッションしてみたいと思います。
コーナリングも安定して快適な「ホンダ・ステップワゴンモデューロX」
まずは、日本最高峰のレース「SUPER GT」にも参戦しているホンダアクセスが手がける、ステップワゴン・モデューロX。先日、ステップワゴンは新型にスイッチしたばかりで、そちらはまだコンプリートモデルが登場していないので、先代になりますが「匠の技」をキーワードに、ホンダ車を知り尽くしたエンジニアたちが上質感、意のままの操縦性、所有感も機能的にも満足度の高いデザインに仕上げたもの。
外観は迫力あるフロントマスクをはじめ、エアロバンパーやリヤロアディフューザーなど盛りだくさんの専用デザインです。見た目だけでなく、エンジンルームのアンダーカバーを小さくして空気の流れを作り、直進安定性をアップさせたり、専用サスペンションでベース車より約15mmローダウンし、揺れの収まりを良くしたりと、テストコースで走りも磨き上げたミニバンとなっています。
試乗したのは、富士スピードウェイのショートコース。右へ左へのきついカーブはもちろん、アップダウンやストレートエンドの高速コーナーもあり、短いけれどテクニカルなコースで有名です。つまり、ミニバンにとっては快適性を出すのがかなり難しいと言えるでしょう。
ステップワゴン・モデューロXのインテリアは、1列目シートには「modulo X」のロゴが入っているものの、2列目・3列目シートにはなく、ブラックを基調にホワイトのラインがオシャレな印象。ややスポーティですが硬派すぎる感じではなく、女性でも意外とすんなり馴染めると思います。
2列目シートに座り、走り始めると風洞実験を行って空力性能を高めているだけあって、速度が上がっていってもガッシリと一体感のある上質な乗り味が感じられます。専用サスペンションによってしなやかな足さばきが実現しており、路面からの衝撃を吸収してくれて不快な揺れが少なく、コーナリング中の安定感もばっちり。ガソリンとハイブリッドがあり、ハイブリッドはタイヤサイズが小さめなので、さらに落ち着いた乗り心地が得られるのも嬉しいところです。
さらに、ノーマルより15mmほどローダウンされているので、スライドドアからの乗り降りもしやすいというメリットが。また、実際に購入したファミリーからは、「子どものクルマ酔いがなくなった」という報告もあるのだとか。あえてデメリットを探すとすると、やっぱりお値段でしょうか。新車当時はベース車の約40万円アップでしたが、中古車市場でそれが縮まっていたらお買い得だと思います。
インテリアの質感の高さが光る「日産セレナ・ライダー」
さて、続いてはコンプリートカー制作では1998年からの長い歴史を持つオーテックが手がけた、ニッサン・セレナ。こちらは2016年にフルモデルチェンジした現行初期型に設定された、セレナ・ライダーのインプレッションです。オーテックはセレナライダーを2000年から手がけているので、培ったノウハウは相当なもの。ただスポーティなチューニングを施すのではなく、上質感やエレガントさにもこだわって内外装を仕上げているのが特徴です。
フロントマスクは、バンパーグリルまで専用でベース車の面影がないほど。大胆なメタル調フィニッシュのバーが存在感を高め、左右に大きく青く光るブルーホールLEDが特別な雰囲気ですが、ちょっとヤンチャな香りもただよっており、女性には主張が強すぎて好き嫌いが二極化するかもしれません。
ですがインテリアでは、専用クリスタルスエードシートがインパクト大で、手触りもすべすべ。さりげないブルーステッチや、ドアトリムまでのトータルコーディネートはとてもエレガントで、こちらは女性にも響くはず。奥さまにプレゼンするには、できればまずインテリアの写真などを見せて、いい印象を与えてから外観を見せるなどの作戦が必要かなと思います。
2列目シートで試乗してみたところ、通常のセレナとほぼ変わりない印象で、カーブでのロールは大きめだし、揺れもしっかり伝わってきます。静粛性もまぁ、普通にノイズが入ってくると感じましたが、それもそのはず、セレナライダーはボディやシャシーには手を入れていないとのこと。もう少し乗り心地にもエレガントさがあるといいなと思いますが、そこはお父さんの丁寧な運転でカバーするということでしょう。
もしくは、現在はライダーに代わってセレナAUTECH SPORTS SPECという、ボディ剛性の強化や専用サスペンションに、より走りの上質感、静粛性なども高めたコンプリートミニバンが登場しているので、そちらを検討するのもアリだと思います。
2列目シートでもわかるスポーティさが特徴の「トヨタ・ノア&ヴォクシー G’s」
最後は、トヨタが直々に開発プロジェクトを立ち上げ、ミニバンを意識させない「走りの楽しさ」「操る喜び」そして「上質な乗り心地」を目指しているG’sのノア/ヴォクシー。こちらは現在展開されているGRシリーズの前身にあたる、さまざまなモデルのスポーツグレードに冠されていた名称です。
2010年に発売されたスポーツコンバージョン車シリーズ、G SPORTSの第一弾から始まり、世界で最も過酷と言われるサーキット、ドイツのニュルブルクリンクでテストドライバーが徹底したチューニングを行っているのが特徴となっています。残念ながらGRにはまだ現行型のノア/ヴォクシーがないので、先代のインプレッションをお届けします。
まず外観は、張り出しの効いたフロントバンパーやグリルでスポーティな印象となり、タイヤやアルミホイールも専用装備。足まわりは約15mmローダウンの専用サスペンション、剛性アップパーツやフロア下空力パーツも専用です。セレナライダーほどではないですが、フロントマスクはやっぱりヤンチャ感がちょっと強めになります。
そして2列目シートに座ってコースを走ってもらうと、ヘアピンカーブの侵入でググッと動く足まわりにびっくり。キビキビと立ち上がり、ストレートでの安定感も素晴らしく、マフラーサウンドがとてもスポーティ! これは、好きな人は気持ちよく感じるところですが、ちょっと驚いてしまう女性も多いかもしれません。ただ、乗り心地はとてもフラットで、快適性はバッチリ。マフラーサウンドさえ気にならなければ、こんなにリラックスできるミニバンは珍しいといえます。
ファミリーミニバンと運動性能は両立できる!
ということで、走りにこだわりたいお父さんたちも、ご安心ください。コンプリートミニバンは、乗り心地もちゃんと快適です。ワークスチューンということを内緒で購入したとしても、きっと2列目・3列目シートの家族からクレームがくることはないはず。それどころか、運転の悪いクセや荒い操作などもカバーしてくれる傾向にあるので、家族のドライブがもっと楽しくなるかもしれないですね。