不朽の金字塔「R32型」日産スカイラインGT-R
なぜにここまで、30数年前の平成元年に日産が生み出した「R32型」スカイラインGT-Rは人々を熱狂させるのだろうか。今も現役で走っているマシンは数多く、令和の時代になってもなお新パーツが発売されていたりする。「R32GT-R」の魅力がどこにあるのか、チューニング派の目線から再考する。
名機「RB26DETT」は「最強」を目指すには排気量不足だった
R32GT-Rにはふたつの大きな魅力がある。それが「RB26DETT」エンジンと、独自の4WDシステムである「アテーサE-TS」だ。このふたつの画期的なメカニズムが平成のGT-Rに対する熱狂的なファンを大量生産し、チューニングの世界を作り上げたと言っていい。
そして、あえて言うなら、そのふたつは「出来が悪かった」からこそ魅力に満ちていた、というのもまた事実。だからこそ、長年にわたり愛される存在になり得たわけである。
まずエンジン。さまざまな条件から2600ccという独自の排気量になったわけだが、はっきり言えば排気量が小さかった。ライバルとも言えるトヨタの4代目(A80)「スープラ」は、車重はほぼ同じ1500kgほどだったが、排気量3000ccの「2J」エンジンを搭載していて、15%近く排気量が大きかったわけである。
のちに登場する「ランエボ」や「インプレッサ」は、ミドルクラスのボディに2000ccエンジンを搭載して筑波サーキットや峠など、パワーとレスポンスが求められるフィールドでブイブイ言わせることになる。だが、R32GT-Rに期待されたのは「最強」だったわけで、富士スピードウェイでも鈴鹿サーキットでも最速が期待された。そうなると、高速コースで戦うにはやっぱりちょっとエンジンが小さかったと思える。しかし、だからこそ、魅力が増したわけである。
「アテーサE-TS」の強すぎるクセが「魅力」となった
排気量が小さかったから仕方ないが、エンジンはかなりの高回転型。低速トルクが薄く、大きなタービンに変えるともっと低速トルクは薄くなる。それでもピークパワーを求めて、ユーザーは大きなタービンに夢を乗せるわけである。
すると、なかなかブースト圧が掛からずに、やっとタービンが回り出したときにはエンジンは高回転に達し、パワーは急激に出る。
そうすると今度はリヤタイヤが滑りだす。リヤタイヤが滑ると瞬時に、フロントタイヤも駆動する4WDシステムのアテーサE-TSが機能するわけだが、ちょっとだけタイムラグがある。今から35年も前の技術と考えればそれでも十分な作動レスポンスだが、ドライバーは難儀する。
通常のリヤ駆動なら、リヤがスライドしたらカウンターステアを当てればいいが、アテーサE-TSではカウンターを当てているとフロントに駆動が掛かったときに車体がアウト側に向いてしまう。それ自体は4WDの挙動なのだが、基本的にリヤ駆動で走って、滑ると4WDになるというアテーサE-TSならではの変化がまた、ドライビングにクセを与えた。
そこでカウンターステアを通常の半分くらいにとどめて、フロントに駆動が移るのを一瞬待つ必要が出てくる。そんな独特の乗り方が要求されるが、うまく決まれば4輪で駆動を受け止めて走れるので抜群に速い。