コンパクトさの追求で生まれたV12の横置きミッドシップ
ミウラのメカニズムでもっとも特徴的だったのは、V12エンジンをミッドシップに横置き搭載したこと。「余暇活動」時期の首謀者であり、正規のプロジェクトとなって以降もランボルギーニのチーフエンジニアとしてプロジェクトを統括し、現在はイタリアを代表する……世界でも屈指の規模を誇るレーシングカー・コンストラクターのダラーラ・アウトモビリを率いるジャンパオロ・ダラーラは、先ごろインタビューした際に、横置きマウントした理由について「ホイールベースを短くしたかったから。スポーツカーはやはりコンパクトでないと」と語っていました。ですが、結果的にはこのことでマルチェロ・ガンディーニのスタイリスト魂に火が付いたようです。
エンジンの横置きマウントは1959年に英国のBMC(ブリティッシュ・モーター・コーポレーション)が発表した「BMCミニ」において実現していました。これはクルマをよりコンパクトにまとめるために、BMCの技術者だったアレック・イシゴニスによって考案されたもので、その5年後にはフィアットのダンテ・ジアコーザが少し違ったレイアウトの横置き方式を考案。この2車はいずれも前輪駆動でしたが、ダラーラはそれをミッドシップレイアウトに採用するアイデアを考案したのです。
イシゴニスはエンジンの下にトランスミッションとデフを置くレイアウトで、ジアコーザはエンジンとトランスミッションを1列に配置し、ミッションの横(車に対してはミッションの後方)にデフをマウントしていましたが、ダラーラはこのうちイシゴニスのスタイルに倣っていました。
ただし、トランスミッションやデフをエンジンの下に置くスタイルをそのまま採用すると、エンジンの位置が高くなり、結果的にクルマの重心も高くなってしまいます。そこでトランスミッションとデフを一体化したトランスアクスルとして、エンジンの側方(クルマに対してはエンジンの後方)にマウントしていたのです。
前輪駆動車の世界ではジアコーザ・スタイルが圧倒的多数派を占めるようになりますが、ことミウラに関して言うなら全長の長いV12エンジンが前提でしたから、ジアコーザ・スタイルではエンジン+ミッションの全長が長くなりすぎて、クルマをコンパクトにまとめるうえでは大きなデメリットとなってしまいます。
ですから、これはもうイシゴニス・スタイルしかなかったのですが、重心を低く抑えることを考えてトランスアクスルをエンジンの側方に置くレイアウトは、さすがダラーラと今更ながらその手腕に驚かされてしまいました。
シャシーは名匠ダラーラが担当
そのダラーラがコンパクトにまとめたシャシーにスタイリスト魂を刺激されたマルチェロ・ガンディーニは、ベルトーネの伝統的なデザインテイストを保ちながらも抑揚を利かせた流麗なスタイリングに仕上げています。ただし、普段は空を見上げる角度でマウントされ、点灯時には起き上がるポップアップ式ヘッドライトの周囲に「まつ毛」を配したり、リヤカウルに一部ルーバーを採用したり、と新しい取り組みも見受けられます。このミウラが出世作となるガンディーニにとっては、ベルトーネの伝統を保ちながら、彼ならではの個性も演出した、というところでしょうか。
最後になりますが、メカニズムの概略についても触れておきましょう。シャシーを手掛けたのは前述したようにジャンパオロ・ダラーラで、パネル製のスペースフレームの前後にコイルスプリングで吊ったダブルウィッシュボーン式サスペンションを組み込み、リアミッドにV12エンジンを横置きマウントしています。そのエンジンは「400GT」や「400GT2+2」に搭載されている3929cc(82.0mmφ×62.0mm)のV12をベースに、パオロ・スタンツァーニがチューニングし直して400GTでは320psだったものが、P400で350ps、Sで370ps、SVでは385psにまでパワーアップされていました。
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少し前の話になりますが、ジャンパオロ・ダラーラが個人的に手に入れた個体のレストアをランボルギーニ社に依頼。完成したミウラがコンクール・デレガンスで優勝したことなども大きな話題になりました。そんなことも影響したのか、最近のオークションでは1億円を超える高値も当たり前となっているミウラは、まさに伝説のスーパーカーに昇華しています。
なおジャンパオロ・ダラーラ・スペシャルインタビューは「CARトップ9月号」(7月26日発売)に掲載予定です。