価格高騰で簡単に手が出せなくなった「S13シルビア」を振り返る
バブル期の1988年に登場したS13シルビア。発売から30年以上が経過したいま、あらためてスタイリングを眺めてみると、秀逸なデザインであったことがひと目で確認できる。現在は中古車市場で価格が高騰しているようだ。薄いフロントマスク、美しいキャビン(後席の広さは軽自動車以下だが)、独立したトランクルーム(こちらも狭い)など、2ドアのスポーツクーペとして完成されたデザインと引き換えにユーティリティ性などの使い勝手は悪かったが、それ故に当時の若者を魅了してきたとも言える。
S13シルビアはデートカーなのか本気仕様の走り屋カーなのか!?
当時はデートカー(スペシャリティカー)というジャンルが売れ筋であり、オトコたちはみな肉食系であり、とりわけ若者にとってはデートカーが必須という時代であった。デートカーの定義は、筆者の個人的な見解になってしまうが、北米のセクレタリーカー(若い女性の通勤用のおしゃれなクルマ)の日本版なのではないかと認識している。例えば元祖デートカーのトヨタ・セリカやホンダ・プレリュードがあり、ひとクラス上にはトヨタ・ソアラや日産レパードといったハイソカー(ハイソサエティカー)がある。
ただし、S13シルビアは普通にデートカーとして分類しても良いのか? という見方もできる。それは走りを楽しむことができる後輪駆動車であったことが大きい。実際に4速AT車よりも圧倒的に5速MT車が多く、NAのQ’sよりもターボのK’sがクルマ好きの間では所有率が高かった。ちなみにパワーウインドウすら付いていない廉価版のJ’sというグレードもあった。
80年代後期に登場したとは思えないスタイリッシュさが魅力
S13シルビアの魅力をあらためて振り返ると、まず着目したいのがプロジェクター式のヘッドライトだ。現在ではLED式のヘッドライトが当たり前だが、当時のハロゲンライトのリフレクター式からプロジェクター式に進化したのは衝撃だった。クルマのヘッドライトは人間の顔に喩えることができるが、プロジェクター式とすることで、人間の目のような分かりやすい表情が好印象であった。
それはフロントグリルも同じで、薄い目に合わせたように開口部がないクリスタルグリルと名付けられた左右のヘッドライトを結ぶプレートが備わり、冷却用の開口部はバンパーグリルのみであった(サーキット派は開口のあるフィンタイプのグリルに換装していた)。いうならば小顔であり、当時の言葉では“しょうゆ顔”とも言える。まだまだ角張ったデザインのクルマが多かった’80年代に、このスタイリッシュさで登場したのはエポックメイキングだった。
それはサイドから眺めたシルエットも同様で、エレガントストリームラインと称されたフードとウエストライン、そしてトランクへと続く形状は、S字の弧を描いており非常に滑らか。グラマラスフェンダーという豊かな曲面とカプセルウインドウという3次曲面ガラスは、先代の直線基調から一転してすべてに丸みを感じさせるものであった。もちろん先代同様に端正な部分も残されていて、そのバランスの良さが万人受けするデザインとして評価され、どこから見ても美しいデートカーとしての基準を満たしていた。
もちろんインテリアも洗練されていた。3本スポークのステアリング(エアバッグはまだない)にスッキリとしたデザインで視認性の高いインパネ。モダンフォルムと名づけられたヘッドレスト一体型の前席シートは座面が長いタイプで、小柄な人には辛いだろうが、当時、伸び続けていた日本人の平均身長に合わせて、膝の裏側までしっかりサポートしてくれた。
サラウンドインテリアと名付けられたコクピットも特徴的。インパネとセンターコンソールは一体成型となっており、ドアトリムと相まって包み込むような形状が、硬派な走りから女性とのデートでもそつなく使いこなせる懐の深さもあった。
ターボ仕様のK’sをベースにしたコンバーチブルも設定
そして先に述べたようにS13シルビアの最大の魅力は後輪駆動であったこと。時代はすでに売れ筋4ドアセダンのサニーやブルーバード、トヨタ・カローラやコロナなどが軒並みFFを採用しており、シルビアは対照的に歴代モデルに倣いFRにこだわり続けた。これがデートカーだけではなくて走り好きからも評価された理由である。
初期型に搭載されたエンジンは、ターボモデルのK’sに1.8L直列4気筒DOHCのCA18DET(最高出力175ps)、NAモデルのQ’s&J’sに1.8L直列4気筒DOHCのCA18DE(最高出力135ps)を搭載。ちなみにK’s/Q’s/J’sのグレード名はトランプから用いられたもので、それはクルマのシルエット同様に洒落ていた。ちなみに日産としては久しぶりのコンバーチブルがK’sに設定されており、人気モデルとはならなかったものの、(現時点で)最後のシルビアとなったS15型にも引き継がれることになる。
サスペンションは前輪がストラット式で後輪がマルチリンク式を採用。ご存じの通り、この時代の日産は「901運動」(1990年代に世界No.1の運動性能を実現する)を掲げており、デートカーとしての特徴が際立っていたS13シルビアであったが、スポーツカーとして優れたハンドリングも実現。さらに、1991年のマイナーチェンジで、P10型初代プリメーラと同じ2L直4DOHCのSR20型を搭載。ターボのSR20DET型の最高出力が205ps、NAのSR20DE型が140psを発揮。プリメーラに搭載のSR20DE型が150psなのに対して、140psとなったのはレギュラーガソリン仕様となっていたからで、スポーツ(走り)のターボとデートのNAで差別化を図ることで、価格を抑えながら幅広いユーザー層を獲得することに成功した。
兄弟車としてファストバックスタイルの180SXも登場!
なお、先代のS12型には2ドアクーペのシルビアとファストバック(ハッチバック・クーペ)のガゼールがラインアップされたが、その関係はS13型でも継承された。2ドアクーペのシルビアに対して、1989年にファストバックの180SXが1年遅れでデビュー。その関係はまさにS12型シルビア&ガゼールに通じる兄弟車の関係であった。
この180SXの名称は、すでに北米などでシルビアが○○○SX(○○○には排気量に紐付いた数字が入る)という名で浸透していたこともあって、日本でもヒットモデルとなる。前述の通り1年遅れて発売された180SXは、重たいリヤガラスを持つことからスポーツ性で劣るのでは? という懸念があったものの、リトラクタブルヘッドライトを持つ正当なスポーツカーを感じさせてこちらも大ヒット。その後、シルビア同様に2Lエンジンを搭載しながらも、名前は200SXとはならず180SXを継承。1989年から1999年まで発売されるロングセラーモデルとなった。
ちなみに6代目シルビアが1993年にデビューするのだが、180SXはその後も販売が続き、上記の通り1999年まで継続して販売。それは6代目シルビアの終了タイミングと重なり、この両者(車)が統合された後継モデルとしてS15シルビアが1999年にデビューすることになる。
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歴代シルビアのなかでもっとも売れたS13型シルビア。「アートフォース・シルビア」というキャッチコピーに違わぬ美しいボディとハンドリングが魅力で、デートカーとして青春を謳歌したオーナーもいれば、チューニングしてグリップ走行を追求したりドリフト走行にのめり込んでいたオーナーも多い。そんな二面性を持つシルビアは、いまとなってはとても希有な存在だったと言える。