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最高速度200キロ!! オトナのオモチャ「スーパー3輪車」のオーナーはマンセルだった!

80年代的なカッコよさが随所に盛り込まれた「iC Modulo M89」

奇妙キテレツ、でも元マンセルの愛車だった三輪車

 世界をまたにかける一流オークションハウスで取り扱われるクルマには、文化遺産級のクラシックカーや華やかなスーパーカーも数多い。でも、その一方で比較的身近なクルマ、あるいはヘンテコな珍車たちが大いに注目されることもある。さる2022年5月、クラシックカー/コレクターズカーを取り扱うオークションハウスとしては業界最大手のRMサザビーズ欧州本社がモナコ市内の大型見本市会場で開いた「MONACO」オークションでは、スパルタンかつヘンテコな三輪車「iC Modulo M89」が出品された。しかもこの三輪車、元オーナーが大人気のF1レジェンドというのだ。

イタリア発のユニークな三輪スポーツマシン

「Modulo(モデューロ)」は、アルファ ロメオ出身のイタリア人エンジニア、カルロ・ラマッティーナ氏によって創造された3輪スポーツカー。彼は「3輪車はカッコ良くないうえに、運転するのも楽しくない」という、1980年代当時の一般的コンセンサスを覆そうと考えていたという。

 そこで、2L級スポーツカーの走行性能と2輪オートバイの経済性、そして低く構えた車体のパフォーマンスカーのドライビングエクスペリエンスを兼ね備えた3輪車を作りたいと考えたラマッティーナは、1988年に「iC(イタリアン・カーズ)」を創業。ほどなく、自ら独自開発したモデューロを発表するとともに受注もスタートした。

 モデューロは、BMWの二輪車「K75S」用の直列3気筒750ccエンジンを搭載し、同じくBMW Kシリーズ用の5速マニュアルギアボックスおよび、シャフトドライブシステムもそのまま流用された。シャシーは箱型断面の鋼管を溶接で組んだチューブラーフレームで、独立式のフロントサスペンションとショックアブソーバーを組み合わせ、その上にカーボンファイバーとケブラーで強化された、ポリエステル製の先進的なボディを載せていた。

 ステアリングはほかの3輪車と同様、ラック&ピニオン式ステアリングにステアリングホイールを組み合わせたオーソドックスなもの。制動力は、各ホイールに装備された油圧デュアルサーキットのディスクブレーキでまかなわれた。

 そして、このシンプルな成り立ちゆえに車重は390kgと軽く、排気量の割には強力な74psのエンジンと相まって、最高速度200km/hというなかなかの高性能を発揮した。しかしモデューロの得意技は走行性能だけにはとどまらず、軽量化されたフレームの効力によって、28Lの燃料タンクで560kmの航続距離を実現したといわれている。

 戦闘ヘリコプターを思わせる、個性的なボディを持つモデューロは、シングルシーターと、ドライバーの後ろにパッセンジャーが乗るツインシーターの2種類が用意された。

荒法師マンセルのコレクションから出品

 2022年5月24日、F1モナコGPコースの「ポルティエ」コーナーからほど近い大型の見本市会場、グリマルディ・フォーラムを舞台に開催された「MONACO」オークションの目玉となったのは、1992年のF1ワールドチャンピオンにして、日本でも「荒法師」のニックネームとともに絶大な人気を誇った英国人レーサー、ナイジェル・マンセルCBE(2005年に叙勲)のコレクションから出品される「The Nigel Mansell Collection」だった。

 5点のロットからなるマンセル卿のコレクションには、1989年のフェラーリ「640」や、「レッド5」のカーNo.をつけた1991年のウィリアムズ・ルノーFW14など、彼自身がF1で走らせたマシンなども含まれていたのだが、それら歴戦の名車にも負けないインパクトを放っていたのが、この「iCモデューロM89」であった。マンセル卿が30年近くにわたって保有してきた個体である。

 マンセル卿は1992年イタリアGPの予選を終えたあと、iC社のデザイナー兼社主であるカルロ・ラマッティーナ本人から、このモデューロを贈られたといわれる。

 今回のオークション出品に際して添付されたドキュメント類には、モンツァ・サーキットで撮られたマンセル卿とラマッティーナ氏の2ショット写真、モデューロに乗るマンセル卿の写真も含まれる。

 またラマッティーナ氏からの手紙によると、マンセル卿がモンツァ・サーキットで運転したのはこの個体そのものであり、元々はラマッティーナが所有していたこと。そして生産第一号車「シャシーNo.001」であることなども証明されている。

 このモデューロは、1993年11月にマンセル卿へと正式に引き渡され、そののち英国ジャージーにて彼の個人コレクションに納められ、出品まではその手元に残されていた。ただし、オークションカタログ作成時の通算走行距離はわずか3185kmと、ほとんど走ってはいなかったようだ。

 そしてこのiCモデューロM89第一号車は、5月24日に行われた競売では2万1275ユーロ(邦貨換算約300万円)で、無事落札となった。

 すでにiC社は存在せず、正確な生産台数も定かではないとはいえ、いずれにしてもごく少数。さらにマーケットに売りに出される事例は数年に一回レベルである。

 したがって、いわゆる「相場価格」というものがなかなか推定しづらいクルマではあるものの、今回300万円に上った落札価格の大方は「ナイジェル・マンセル所有車」というヒストリーが占めていたものとみて間違いあるまい。

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