新車で買えないなら中古ベースでチューニングを楽しむという手も!
すでに受注が終了しており新車で購入することができなくなってしまったR35型日産GT-R(2022年8月現在)。とはいえ、デビュー直後の初期モデル(2008年モデル)ならば、ユーズドカーのタマ数も多く、600万円前後で購入できる個体も多い。そんなことからチューニングのベースとして手に入れるユーザーも増えてきた。そこで前編と後編に分けて、腕利きプロショップで構成される『CLUB RH9』に加盟する石川県小松市のチューニングショップ『TMワークス』が考えるR35GT-Rの推奨パワーアップメニューと押さておくべきツボについて紹介したい。
(初出:GT-R Magazine 152号)
チューニングの前にトランスミッション不具合対策は必須!
ノーマルボディ&ラジアルタイヤのR35GT-Rで0-400m=9秒075という驚異的なタイムを叩き出した『TMワークス』。それだけにドラッグレースやサーキット仕様などの突き詰めたチューニングばかりかと思いきや、じつは浜原良栄代表の軸足はあくまでストリートにある。理想のR35は「街乗り重視でストリートもサーキットも走れる仕様」だと語る。1000psを余裕で超えるチューンドVR38DETTを作り上げることで、R35GT-Rの弱点やパワーアップの勘どころを知り尽くしている。
そこで、今回は「無理なく楽しめるブーストアップの楽しみ方と注意点」を、後編では「その先にある異次元の世界と究極の可能性」についてじっくりと話をうかがう。今回のブーストアップについては、R35GT-Rで最も販売台数が多く、かつ手が届く価格となってきたMY08(2008年モデル)をサンプルとして話を進めていきたい。
「エンジン本体ノーマルのままでブーストアップを施したクルマを用意しました。この2008年モデルも対策しましたが、まずパワーを上げる前にR35のウイークポイントであるトランスミッションを見直さなければいけません。“アッパープログラム”という名称で、やるべきことをパッケージ化したメニューを用意しています。内容はミッション内部の油圧センサーを新品に交換し、オイルポンプの油圧を上げる。クラッチのクリアランス調整やクラッチケースを旋盤で削ってスムースに動くようにするなどです」
名称こそアッパープログラムだが、いわゆる“オーバーホール”のほうがイメージに近いかもしれない。トランスミッションを守るという観点から、R35でパワーアップを目指すなら必ずやっておきたいところ。ちなみに、R35のトランスミッションは“GR6”という名称の6速DCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)が純正採用されている。
R35のトラブルで最も多いのはDCT関連という人も多いくらい、トランスミッションは泣きどころなのだ。最初に対策しておけばあとは安心できるので、これは必須項目である。
最初期モデルは新車から14年以上が経過していることを忘れずに
DCTをクリアしたら、いよいよパワーアップに移りたい。まずは吸・排気系の強化が必要となるだろう。
「エアクリーナーはどこのブランドでもよく、純正交換タイプでOKです。キャタライザー(触媒)はコストパフォーマンスや抜けを考えるとグレッディ製がオススメですね。マフラーはノーマルのままでも大丈夫です。かなり性能がいいんです。それよりも、インタークーラーのパイピングキットを装着するのがオススメですね。R32やR33と同様、見えないところはすべてゴム製なので。すでに10年を超えているわけですから、劣化で膨らんでしまっている場合が多いので、どこかのタイミングで見直したいです」
劣化と言えば、コンピュータのハーネスもトラブルが出始めている。TMワークスでも空燃比センサーのエラーが何度も出て、ハーネスを交換したらピタリと収まったそうだ。コンピュータ本体もMY11(2011年モデル)以降の1.5MBに交換するのがいい。MY14(2014年モデル)以降ならさらに頭がよくなり、点火時期や空燃比などが触りやすくなるそうだ。トランスミッションも1.5MBにしてMY20(2020年モデル)のデータを入れればシフトタイミングが早くなるので、燃費という面からもオススメとのこと。
ライトチューンで600psのパワーが手に入るのもR35の魅力
ブーストアップは純正タービンの限界を考えると最大で1.2kg/cm2まで。R35の場合、これで600psまでは対応する。
「これ以上のパワーとなるとインジェクターの交換も必要になってくるので、チューニングの第一段階としてはこれで十分だと思います」と浜原代表。
第2世代GT-Rの場合、ブーストアップというと専用のコントローラーなどが必要だったが、R35はコンピュータのセッティングですべてこなせる。浜原代表は街乗りを重視して、2000~3000rpmでグッとくるような味付けをするそうだ。すべて現車合わせでセッティングを施すというのも拘りだ。
「コンピュータを現車合わせにするのは個体差があるからです。吊るしのデータを入れると空燃比が濃くなったり薄くなったりするので、やはりシャシダイと実走で合わせるのがウチのやり方ですね」
ちなみに、ブーストアップでも200km/hまでは一気に出せる。富士スピードウェイのような直線であれば、300km/hに迫るスピードも可能とのこと。となると、街乗りがメインならばパワー系はこれで十分と言えるだろう。
「パワーを上げると今度は足まわりをやりたくなると思います。街乗りに絞るならば四輪ホイールアライメント調整もしっかりとやりたいですね。R35はノーマルでもキャンバーがマイナス1.4度程度ついているので片減り(内減り)が激しいのです。アッパーアームを交換して、キャンバーを起こすとタイヤを長持ちさせることもできますよ」
ユーズドで購入する場合は素性にも注意してほしい
足まわりを見直すなら、ブレーキも同時に進めたい。最低でもローターを交換するべきだと浜原代表は語る。
「ノーマルのドリルド(穴開きタイプ)はサーキットなどを走るとクラックが入ります。スリット入りなどに交換すれば安心です」
よほどの目的がないならば、R35のチューニングはこれくらいで留めておくのも大いにありだ。街乗りがメインならば600psを使い切るシチュエーションなどないだろう。R35はイジる前にトランスミッションの対策が必須だが、それさえ済めば比較的簡単にパワーアップを楽しめると浜原代表は勧める。
「ただし、中古でR35を購入した場合はしっかりと点検したほうがいいです。このMY08(2008年モデル)も販売時にはトランスミッションの対策済みといいながら、中を見たらなにもやっていませんでした。データロガーを見ればある程度は簡単にわかりますよ」
まずはブーストアップがR35チューニングの第一歩
同じく注意するのは社外コンピュータが付いていた場合だ。
「なぜか意図的に電動ファンを常時100%の力で回すようセッティングしているお店があります。これはトラブルの元。ずっと回っているとモーターが焼き付いて壊れてしまいます」
いくつか注意事項はあれど、ブーストアップまでなら道のりは遠くない。
「この先となるとタービン交換やエンジン本体という話になり、それは全く異次元の世界になります。本当はエンジン内部まで手を加えるとおもしろいんですよ。エンジンオーバーホールとなれば、メタルのクリアランスやクランクのバランス取りでレスポンスが全然変わって来るのです。200km/hから先も一気に加速していくから気持ちいいですね」
タービン交換からエンジンチューンまで、異次元の世界を楽しむ術については後編で展開する予定だが、やはり一般的にはブーストアップで十分のようだ。浜原代表流のセッティングで、街乗りでも低・中速から楽しめる仕様を作ってくれるだろう。
(この記事は2020年4月1日発売のGT-R Magazine 152号に掲載した記事を元に再編集しています)