ル・マンと並ぶ伝統ある耐久レースがスパ24時間
ニュルブルクリンク、ル・マンと並び、ヨーロッパ三大24時間耐久レースのひとつに数えられるスパ24時間レース。その歴史はとても長く、第1回大会は1924年に開催されました。日本ではなんと大正13年です。世界的に有名な、ル・マン24時間レースがスパの1年前に初開催となっていることから、その両24時間レースがどれだけ歴史的なレースか分かりますね。
時代とともに参戦するマシンは変わっていますが、近年ではGT3マシンで構成され、2022年は66台ものエントリーを誇っています。ほかの24時間レースと違うところは、参加する全車両がGT3マシンであるということで、メーカーや車両のポテンシャルは違っていても、性能調整で平等化されています。したがって全員がほぼ同じポテンシャルのマシンを操るがゆえ、激しいガチンコ対決が繰り広げられる、世界でも珍しい単一カテゴリーで行う耐久レースなのです。
ドライバーの技量が試される世界屈指の難コース
スパ・フランコルシャンサーキットは、ドイツの国境に近いベルギーのアルデンヌの森の奥にあり、天気予報も全くあてにならないほどに天候がコロコロ変わることから、「スパウェザー」と表現されるのです。元は一般の公道も含めたコースレイアウトだったため公道の標識があり、その名残をいまも見ることができます。
全長7kmあまりの現在のコースは、マシンがオールージュからラディオンへ向けて有名な超急勾配のロングストレートをフルスロットルで駆け抜けていき、その様子はじつに圧巻。ドライバーにとっては高い集中力とドライブスキルが必要とされる、世界屈指の難関コースのひとつです。
ちなみにコーナー名のオールージュは日本語に翻訳すると「赤い水」。コースの下には鉄分の多い赤錆びた色の水が流れる川が通っていることから、その名が付けられました。
コースの大改修が進行中のなか多くのファンが詰めかけた
スパ24時間レースといえば、レースウィークの始まる水曜日の夕方からのパレードが有名です。サーキットからスパ市内の中心地までの約10kmを、白バイやレースのオフィシャルカーが先導してレーシングカーが連なり、パレードランを行います。地元住民にとっても毎年の恒例行事とあり、家の目の前を通る迫力あるレーシングカーの隊列に手を振ります。また、スパ市内には大勢のファンが押し寄せ、出店のビールを飲みながらトークショーやサイン会を楽しみ、翌日から始まるセッションを前にお祭り騒ぎとなるのです。
新型コロナウイルスの感染拡大防止措置で、過去2年は観客の入場数や観戦場所にも制限が設けられていました。2022年はやっとコロナ禍前と同じコンディションで自由に観戦することが叶ったとあり、ファンのみなさんもふたたびサーキットを訪れ、現地観戦をできる歓びで笑顔にあふれていたのが印象的でした。
ヴァレンティーノ・ロッシが参戦しお祭り騒ぎに
フリープラクティスや予選などの数多くのセッションを経て、いよいよ迎えた決勝日。爽やかな青空の下、いつにも増して数多くのファンが詰めかけたように感じました。それもそのハズ、昨年で長いMotoGPのキャリアを終了し、GTレースでのキャリアを歩み始めたヴァレンティーノ・ロッシが初めてこのスパ24時間レースに参戦するとあり、ロッシ目当てにあふれんばかりの熱狂的なファンでごった返しています。
ロッシの愛称である「ヴァーレ、ヴァーレ、ヴァーレ!」と大コールがあちこちで上がり、今年はなんだかいつものスパとは違います。ロッシファンはド派手な蛍光色のグッズを身に着けて応援するのが真のファンの鉄則! その姿を見ればひと目でロッシファンと分かります。
事前にグッズを持って行かなくても心配ご無用。ロッシが参戦するレースには専用のオフィシャルショップも帯同しているので、パドックで購入できます。ショップは大盛況で、とくにキャップやTシャツが大人気。ダサカワイイところがファンの一体感を導くのでしょうか。
16時45分、いよいよ決勝がスタート。大歓声に包まれて、総勢66台のGT3マシンが一斉にオールージュを駆け上るスタートの様子は鳥肌が立つほどの大迫力で、息をするのを忘れてしまうくらいに圧巻です。
会場内はグルメに自動車メーカーブースなど見どころ満載
レース観戦にはグルメも欠かせません。ベルギーの名産といえば、日本でも有名なチョコレートやワッフルといったお菓子やムール貝、ベルギービールはもちろんのこと、「フリッテン」いわゆるフライドポテトも有名。国民的なスナックで街のあちこちにこのフライドポテトのお店があるくらいです。
サーキットでも、もちろんこのフリッテンとベルギービールの相性は最高! マヨネーズベースの特性ソースをつけながら食べるのが定番で、数多くのファンがビールとフリッテンを片手にレース観戦を楽しんでいました。レースがスタートして一旦落ち着くと、イベント広場はスナック類やビールのおかわりを求めて長蛇の列となりますが、それも全く苦ではなさそうです。なぜなら、イベント広場からはオールージュが見渡せるとあり、レースを観ながら順番を待てるからなんですよ。なので、多少の行列が長くても、イライラしている人は見あたりません。
スパ24時間レースのパドックには各自動車メーカーの展示ブースも並び、見て回るのも楽しみのひとつです。まだデリバリーされていないモデルが展示されていたり、珍しい特注カラーのクルマが展示されている場合もありますので、それらを見付けるのもワクワクしますね。無料でステッカーや応援フラッグをはじめ、さまざまなグッズを配布しているブースも多いので要チェックです!
セレブリティ感満載のホスピタリティは、VIPゲストやチーム関係者のみが入場可能とあり、外からどんな感じか窺うのもワクワクします。VIPゲストが手に持っておられるお土産の紙袋の中身もとても気になるところです。
このスパのレースウィークには、来年にレースデビューするフェラーリ296 GT3とポルシェ911 GT3 Rの2台の新型レーシングカーの実車がパドックで世界初披露。報道関係者はもちろんのこと、多くのファンがカメラを構えるなど大注目を浴びていました。GTレースの本場ならではのプレゼンテーションで、日本ではなかなか見られない光景です。
夜中は暗闇の中でも迫力のバトルが繰り広げられる
ヨーロッパの夏は日本よりも随分遅く、22時ごろまでは薄暗い夕暮れが続きます。そこから深夜のナイトセッションに入ると、コース上にはほとんど照明がありませんので真っ暗の中でますますレースはヒートアップします。暗闇で視界が悪いなか、後ろから物凄いハイビームで照らされながらもアクセル全開で駆け抜けるドライバーたちは、本当に凄い精神力だと思います。コース脇で観ているとハラハラドキドキで、スリリングな場面にも遭遇します。
最後の最後まで何が起こるか分からず、長くもあり、あっという間に終わるのが24時間レースの醍醐味です。ニュルブルクリンクのようにコース脇でキャンプができないのが残念ですが、キャンプ場で家族や仲間と、またはソロで楽しむよし、ペンションやホテルでゆっくりするもよし、観戦方法や楽しみ方は人それぞれですよね。今年のスパ24時間レースは「スパウェザー」に惑わされることがなく、良いお天気に恵まれてファンのみなさんはずぶ濡れにならずに済みました。
レースは残り1時間半で波乱の展開に
最後の数時間はトップ10が同一周回数、ほぼ同じラップタイムで走行し、ピットインをしたタイミングで順位がシャッフルされて、誰が勝つのか本当に分からない状態でした。レースもクライマックスの残り1時間半で、トップ10内にいた2台のBMW M4 GT3が相次いでタイヤバーストを起こしてタイムロス、そこで優勝争いからは外れてしまいました。
最後はメルセデスAMGが表彰台の全てを独占するかと思いきや、フェラーリが踏んばり3位入賞! メルセデスAMGはなんと2013年以来、9年ぶりとなる総合優勝を遂げました。その喜びはきっと何よりも特別なものだったに違いないでしょう。今年はAMGの創業55周年。その記念となる年にGT最高峰レースで勝利を飾り、華を添えましたね。
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ゴールした多くのマシンはその激しい戦いを物語るように傷やオイルの跳ねた跡だらけです。ロッシのマシンも左側のヘッドライトが無くなり、ガムテープでぐるぐる巻きに補修されていました。参戦する方も観る方も、ぐったりする24時間レースですが、ひと晩眠るとすっかりその疲労を忘れ、来年が待ち遠しくなるのはなぜでしょうか? 2023年のスパ24時間レースが、今から楽しみです!